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ナンセンス×プラトニック

新カプ




 気温も程良く、晴天の遊園地。


「鴻さーん」


「やぁやぁ駒鳥副部長。今日はよろしく頼むよ」


「鷺塚さん……だったよね。今日はよろしく」


「こちらこそどうぞよろしく」



 紹介しましょう。

 彼女の名は鴻空。駒鳥の後輩の鴻灰くんのお姉さんです。

 そして彼女のお相手は鶴森茶乃。隣のクラスの陸上部の人です。

 さて、これからこの二人と、私と駒鳥はダブルデートなるものをするのですが、その前に、ここまでのいきさつをご説明しましょう。



1 ゲシュタルト崩壊



 鷺塚は現在バスケ部副部長の駒鳥とつきあっている。


「なんだのろけか」


 購買部の前で、弁当を買った空が露骨に顔をしかめた。


「いや、別にそうじゃないんだけど」


「じゃあなんだ」


 自称・良識まみれの腐女子たる彼女は、鷺塚の話を聞きながら高3の教室へと歩き始める。


「その……これからやっていけるのかと……」


「なんだね!?駒鳥の奴、浮気でもしたのかね?!なにィ年上の家庭教師(男)とォ!しかも中学時代の男教師ともォ!?なんだって幼なじみ(男)の彼氏まで寝取っただとゥ!!よし、今度のコミケはこれで行こう」


「い、いや……別に今のところトラブってないんだが…」


「ほうだったらなんで?」


「その……なんというか……」


 空が妄言を散布しているうちに教室の前までやってきたので、鷺塚は壁により掛かって髪をいじくりながら言う。

「実感が……ないんだ」


「…………え?」


 空は再び顔をしかめた。しかし鷺塚は声を大にして訴える。


「だーかーら!実感がないんだ!実感がなさすぎて、もしかして恋人同士になったのは夢だったのかもと……」


 あまりにあきれて空は言葉を失ったが、両手に握り拳を作りながら訴える鷺塚はふざけるような性格ではないし、もちろんふざけているようにも見えない。普段は人をドン引きさせる側の空だが、今だけは半歩引いてドン引きした。


「…………全く、駒鳥副部長が気の毒になるな」


「やっぱり、つきあっているという幻想につきあわされるのはきのど」


「あ、ここにいた」


 鷺塚が絶望で真っ青になりながら叫びかけたとき、

教室から渦中の人・駒鳥が現れ、鷺塚を見つけると安心したようにほほえんだ。


「お取り込み中?」


「い、いや、こ、こ、こま」


「何でもないよ。私は用事があるから行くよ」


 アディオスと去っていく空を見送り、駒鳥は鴻の姉の鴻空だなと内心で納得しながら、なんだか様子がおかしい鷺塚に目を向ける。


「な、なんか用だっけ…?」


「いや、昼食わねーのかなって」


「な、なんだ……」


 妙におどおどしていてしかもよそよそしい。

 駒鳥は不自然に思って昼食中に聞いてみた。


「一つ、聞きたいことがあるんだ」


「な、んだ?」


 急に居住まいを正した鷺塚に、駒鳥もつられて背筋を伸ばす。


「まず確認だが、私たちは恋人同士だ」


「ああ、そうだ」


「そこで駒鳥に聞きたいんだが、恋人とは、なんだ」


「…………んん?」


 駒鳥はギギギと音が出そうな動きで首を傾げた。


「先日、恋人と辞書で引こうとしたが、なぜか突然母音のキーが壊れてしまって、調べられなかったんだ。それで、考え込んでいるうちに恋人という概念がゲシュタルト崩壊して」


 駒鳥が止めないのでペラペラと話し続ける鷺塚を見ながら、駒鳥は、とんでもないことに気づいた。


(もしかしなくても、俺は、恋人として鷺塚を満足させられてないィィィ!?)


 駒鳥は絶望した。

 付き合い初めて数週間、一緒に登下校をし、昼食もこうして二人で食べ、帰ってからもLINEで会話をする…。決して無理をしていたわけではないが、駒鳥は彼なりに精一杯恋人をやっていたつもりだった。にもかかわらず鷺塚に「私たち……恋人同士なのかな……?(一部記憶に改竄あり)」なんて言わせてしまうなんて!!


「な、なあ鷺塚?い、一応確認だけど、俺たち、恋人らしいこと、ぜんぜんしてなかったっけ?」


「だから!恋人が何かゲシュタルト崩壊してしまったんだ。おかげでどんなことが友達とのやりとりかも区別が付かなく……そもそも友達が居ないから、友達同士で何をするかもわからないんだが」


「あ、なんかスマン……」


 駒鳥が状況を把握できなくなったことにより、二人の会話のキャッチボールは完全に成り立たなくなり、同時にお昼休みと駒鳥のライフポイントも終わった。


(お、俺は……どうしたらいいんだぁあああああ!!!)



「で、俺に相談した、と」


 混迷を極めた駒鳥は、結局部活終わりにモテ男の部長に相談することにした。


「プライドもクソもないな〜」


「お前には分からないかもしれないが、俺にとって彼女の質問がどれだけ衝撃的だったか……!」


「分からないことなら相談するなよ〜…」


 混乱している駒鳥をむげにすることもできず、鴎崎も一緒に鷺塚のせりふについて考える。


「う〜〜ん、やっぱデートじゃないか?友達とは一線を画する恋人たちのアクションってのは」


「で、デートか……」


 駒鳥たちのバスケ部は強豪であるから、部長がヘタレであろうがそこそこハードだ。部活が忙しいために、週末にデートするようなことは一度もなかった駒鳥は、ちょうど休みの次の週末には鷺塚をデートに誘おうと意気込んで、同じく部活が終わって待っていた鷺塚の元へ急いだ。


「お待たせー!鷺塚、急で悪いんだけど」


 駒鳥は、それまで物陰になっていたため見えなかったが、鷺塚のすぐそばに男がいるのを思いがけず認める。


「今週ま…」


「鷺塚さん!デートしてもらえませんか!!」


 男のせりふに、駒鳥は頭の中が真っ白になった。



2 交渉成立!



 料理部。鳥が丘学園の生徒にとって、その単語は畏怖すべき単語であり、もっとも関わってはならない物の一つだった。


「君、鶴森茶乃くんだね」


 もちろん、鶴森にとってもそれは同じであり、誓って料理部の部長なんぞに因縁を付けた覚えはない。


(なのに、どうして僕は料理部部長に声かけられてんの?!)


 烏が丘学園は、才気あふれる人間の集う学園だ。スポーツも多くが全国クラスで、あくまで強豪。にもかかわらないのに、学園内のどのスポーツ部よりも圧倒的に強い部活…それが料理部。料理とつくのに、実際の活動は変人と呼ばれる部員たちが好き勝手にやっており、中でも部長は人間離れした身体能力の持ち主で、全てのスポーツ部の部長が束になってかかっても負けるとまで言われていた。


「……え?……あの、なに……?」


 緊張と驚嘆で茶乃がカチンコチンに固まっている隙に、空は広げられていた彼の弁当をちゃっちゃと片づけ、その代わりに彼女の抱えていた大輪のバラを置く。

 そして彼女は机越しに茶乃の顎をつかんで自分の方へ向けさせる、通称あごクイをすると告げた。


「私の恋人になってくれ」


 茶乃の脳味噌は空の言葉を一瞬言語化できなかった。

 恋人→彼女→付き合う!という脳内変換を経て、ようやく茶乃は数秒後状況を理解する。


「鶴森が告られてる………!」


「しかも相手はあの鴻………!」


「しかも公衆の面前で………!」


「罰ゲームか!?………ご愁傷様…」


「罰ゲームか!?………リア充爆発しろ」


 クラスメイトたちがざわつく中、鴻は茶乃が何も言わないので不思議そうに首を傾げている。


「…………おかしい…………ふんで………はず………」


 口の中でなにやらモゴモゴつぶやいている空の言葉を聞き取ろうと茶乃は耳を傾けたが、聞き取る前に一人の男が告白タイムをぶち壊した。


「おーとりー?居るかー?弟の灰からグゴォオ!!」


 ざわざわしていた教室に現れたのはバスケ部部長のイケメン鴎崎だ。茶乃が彼の気を取られているほんのわずかな時間に空は彼の目の前から姿を消し、瞬時に鴎崎の鳩尾に跳び蹴りを食らわせている。

 その後空が鴎崎をボコる方にクラスが注目したこともあり、空の告白は5時間目を受けている時点で茶乃にとって夢だったのかな?ぐらいの事になっていた。


(鴻空……………)


 夢のような出来事だったが、放課後、案の定茶乃は手紙により空から呼び出され、体育館裏にて彼女と対峙する。


「昼休みは邪魔が入ったからな。改めまして、私と付き合ってくれ!」


 ビッと片手を差し出す空。


「……………」


 さあYESと言いたまえ!といわんばかりの彼女を見つめ、茶乃はウンともスンとも言わなくなる。


「……………」


「……………」


「……………」


「……………」


「……………??」


 長すぎる沈黙に再び空は首を傾げる。そのとき、今まで無表情だった茶乃が不意にプッと吹き出した。


「なっ!?」


「いいよ」


 空は突然笑われて驚きをあからさま表情にだす。しかし笑いながら茶乃が空の手を握り返したのを見ると、少し顔を赤らめながら自信満々な笑顔で手を強く握り返した。


「では、交渉成立だな!」


 交渉?

 違和感のある言葉に茶乃は少しだけやな予感がしていた。



3 友人A



「と、いうわけで」


「おいまだ何も喋ってないだろ」


 出鼻をくじかれ、赤菜は黒夜をじとーっと睨みつける。


「じとーーー」


「あー……俺が悪かったよ。悪かったから続きをドーゾ」


 最後のところが棒読みだった事に若干の不満はありそうだったが、赤菜はジト目をやめて話しを続ける。


「黒ちゃん先輩はとある筋からスパイの暗殺を」


「頼まれてねえよ!スパイの暗殺を年下の赤菜には相談しないだろ!」


「ふっ……!貴様いつから私が年下だと錯覚していた……!」


「エエッ!って事実年下だろうが!」


 ひとしきり漫才をしてから、ようやく赤菜は本題について尋ねた。


「黒ちゃん先輩の友達の家についた霊を、祓って欲しい

?」


「家じゃなくて、倉庫らしいんだけどな」


 二人がいつまでたっても事の詳細を話しそうにないので


「説明しよう!黒ちゃん先輩は、親の所有する倉庫で起こる心霊現象に困っている友人Aから、霊が見えることは知られていないはずなのになぜかその解決を頼まれ、頼み込まれては断れないヘタレの先輩は引き受けてしまったもののどうしていいのか分からないので、放課後私を呼びだして、解決を依頼してきたのである!」


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………


「ドヤァ」


 なぜかドヤ顔をしている赤菜の言うとおり、黒夜は赤菜にお払いを依頼していた。


「して、報酬は…?」


「えっ、人助けだからむsy」


「PAY(報酬)!!」


「(突然帰国子女力発揮すんなよ!)あー…じゃあ」


「おい赤菜。饅頭にしとけ、おれが茶を要求すっからよう」


 不意に現れた青葉がなぜか自分も黒夜に報酬を要求しようとしている。


「こらぁ!なんで青葉まで俺に報酬を要求しようとしてんだ!」


 至極真っ当なつっこみを黒夜がするが、青葉から返ってきたのは思いがけない新情報だった。


「あぁ?お前の友達の倉庫って、5丁目の向こうのところだろ?あの辺は柄の悪い不良がうろついってから、赤菜とお前だけじゃ身ぐるみはがれておしまい☆だから、必然的におれを雇わなきゃ無理って話なんだよ」


(おいおい友達Aよ!お前ものすごく大事な情報を俺にいってないじゃんか〜(泣))


「と、いうわけで、おれは爽健美茶3本で手を打ってやるよ!」


「え、青葉姐、わたしは生茶と饅頭のセットがいいんだけど!」


 心の中で号泣している黒夜を放っておいて、赤菜と青葉は報酬に何をもらうかを相談ながら家路につく。


(まぁ、赤菜と青葉が居れば大丈夫かー)


 いろいろふっかけられたが、ひとまずひと段落かと黒夜は胸をなで下ろしたが、いざお祓いの日に、とんでもないことが起きるとは、まだ知る由もなかった。



4 初☆体☆験



 お付き合い一日目。

 先ほど空に告白され、了承した茶乃は、出来立てほやほやの彼女と一緒に帰途についている。


(……これでついに僕も彼女持ちかぁ〜…)


 いろいろ急展開だった気もするが、何はともあれリア充の仲間入りをした茶乃は頭の中でこれから始まるであろうリア充ライフを想像していた。


(週末映画に誘って、その後何回かデートして、誕生日にはプレゼントあげて、そのときに気分があがってキスしちゃったりしてー…)


「なぁ恋人よ。今日うちに泊まりに来ないか?」


 茶乃が男子高校生とは思えないようなプラトニックな想像に耽っているにもかかわらず、2・3段段階を飛び越えた空の提案に、茶乃は驚きやら羞恥やらで顔を赤くする。


「きょ、今日!?」


「今夜は予定があるのか?」


 聞き返してきた空の方は至ってふつうのトーンだったのだが、テンパった茶乃は空に責められているのかと勘違いし、あわてて首を横に振る。


「そうか、じゃあ晩ご飯を買って帰ろう。今日は親が出かけていてな、家には弟しか居ないんだ」


(こ、この人、付き合ってまだ0.1日ぐらいの僕を誘ってるの!?)


 空の何気ない発言に、茶乃は想定外の展開にただただ慌てふためくことしかできず、結局気づけば鴻家で湯上がりのアイスをかじっていた。


「どうせならハーゲン買うて来ぃや」


「文句言う奴にはやらん。さあ!恋人よお食べ!」


「じょ、冗談やて!」


 晩ご飯と一緒に買ったアイスキャンディーを舐めている茶乃の隣で、仁義無きアイスの奪い合いをする鴻姉弟。兄弟の居ない茶乃はそれを微笑ましく見守っている。


「弟君は関西弁なんだね」


「あいつは中二病だからいいの。……それにしても、アイスキャンディーなんてナイスチョイスね」


「??」


 空の言っていることの半分もわからなかった茶乃は、内心首を傾げたが、アイスがおいしいので、それ以上考えるのはやめた。

 アイスを食べながら特に興味もないバラエティー番組をみるという、お泊まりデートというか、灰も一緒にいたのでただのお泊まり会という風情になりつつあった二人の初デートであったが、ついにそんな暢気に構えても居られない時がきた。


「ふわぁー…。俺もう寝るわ」


 灰が自室に戻り、リビングで二人きりになる茶乃と空。


「……じゃあ、私たちももう行くか」


「へっ…!ああ、う、うん…」


 すっかりリラックスしていた茶乃が身を固くする。


「そんなに緊張するなよ」


「きき、緊張なんてしてないよぉ……!」


 微笑を浮かべ艶っぽい声音でそう言う空に、経験のない茶乃はさっと顔を赤らめ、思わず目をそらす。


(大丈夫!さっきこっそり避妊具も買ったし!!)


 全身に血を送りすぎな心臓にそう言い聞かせながら、茶乃はなるべく平静を装って空の部屋に入った。

 空が電気をつけるまでの一瞬に感じた、鼻孔をくすぐる女の子独特の甘い匂い。茶乃の頭を欲望が大きく占めかけるが、電気がついてすぐに視界広がった状況によって、欲望は驚嘆に取って代わられる。

 まず部屋の割合に似つかわしくないほどの本棚の規模とその中に収まる本の数!ざっと目を走らせると、茶乃のよく知る人気少年マンガからピンク色の表紙をした怪しげなマンガまで、ありとあらゆるジャンルの本が並んでおり、壁にはマンガっぽい絵のポスターが張られている。


(オタクの部屋だ……!!)


 茶乃には詳しくジャンルまで言い当てることはできなかったが、ともかく空の部屋はオタクの部屋だった。


(そ、それも男同士でキスするようなのが好きなおたくだーーーーー!)


 腐女子という言葉を知らなかった茶乃には、空を明確に言い表す言葉は見つからなかったが、やっぱりあの料理部部長の空がふつうの女の子じゃなかった事だけは嫌と言うほど伝わった。


(具体的には言い表せないけど、す、すごく嫌な予感がする!!)


「フッフッフッ……さァ鶴森茶乃……」


 いつの間にか背後に回っていた空が、不適な不敵な笑い声をあげる。身の危険を感じて茶乃が勢い良く振り返やいなや、なぜか首輪と手錠を持った空が茶乃に襲いかかる。


「わあああああああ!!」


 一撃目を運動部の反射神経で何とかよけると、茶乃は夢中で空から離れようと部屋の扉と反対側のベッドに逃げる。


「ほう……ベッドに逃げ込むなんて、“受け”としてはナイスチョイスだよ…!」


「ななななななんでそんなもの持ってるの!?てか受けってなに?!と、とりあえず手に持ってる物を置いて話し合おうよお!!!」


 お互いじりじりと間合いを計りながら相手の出方をうかがう二人。どう考えたって出来立てほやほやのカップルの雰囲気ではない。


「おいおいナンセンスだな!この状態で賢者モードになれだって?」


 無理だね!!と空が茶乃に肉薄する。ベッドの上で二人は両手をガッチリと握りあう。


「お・と・な・し・く・し・ろぉぉぉぉ」


「どうして僕が女の子に押し倒されなきゃいけないんだよぉお!ふ、ふつう逆だし、てかまず道具はナシ!!」


「おいおいおいおい、まだ状況がわからないのかい?そんな鈍さも完璧だよ!!最高の受けだ!!」


「だから受けって何だよ!!てかなにが悲しくて僕らは夜の相撲(物理)をしてんだよぉぉおおお!!」


 互いに一歩も譲らずにベッドの上で仁王立ちの力比べをし続ける。


「さすが運動部だな!筋力も筋肉の付き方も完璧だ!!細すぎず健康でありながらどこか頼りなさげで、自分がないわけではないのに押しに弱く流されやすいのでチョロイ!どちらかと言えば童顔にも関わらずショタとは違った趣がある……!!私の理想通りの受けだよ本当に!!自慢できるぐらいだ!!」


「もう言ってることがさっぱりだよ!!!待て待て待て!僕らつきあってるんだよね!?恋人だよね?!カレカノだよねぇ!?」


「ああそうさ!君は私が愛する恋人だ!!三次元には存在しないと思われていた至高の受け!!!」


「だぁかぁらぁぁあ!!!!!受けって何なのか説明しろぉお」


 通算四回の受け発言に茶乃が思わず力んだ瞬間、茶乃の隙をついて、空は手錠を持っていた方の手を離す。


「うわああ!」


 バランスを崩した茶乃がベッドに倒れ込むまでに、空は前向きに倒れていく彼の体が仰向けに倒れるように向きを変え、素早く両手にそれぞれ手錠をかけてベッドの端にそれらを固定した。

 人間離れした手際で拘束され、茶乃が抵抗する前に空は完全に主導権を握る。


「は、離せえ!」


「フハハ!存分に叫ぶがいいさ!この部屋は防音だから誰にも聞くこえんよ!」


 ゲームのラスボスさながらの笑みを浮かべる空を見上げて茶乃はヒッと恐怖で口をつぐんだ。


「安心しろ……声が枯れるまで喘がしてやるよ……!」


「ヒィィィィ」


 アイスを食べるところまでは至ってふつうに見えた彼女の豹変ぶりに、茶乃はただただ涙目でふるえるばかり。


「そしてお前は完璧な受けになるのだぁああああ!!」


「アーーーーー♂」


 こうして二人の初夜は更けていくのだった。



5 そしてこのアッパーである



 このとき、駒鳥の心中には二つの感情が渦巻いていた。 一つは「てめェ人の彼女に手ェ出してんじゃねえよ畜生が!!」という感情。

 もう一つは「さささ鷺塚がOKしたらどどどどどどうしよー(泣)」という感情。

 若干後者が勝った状況で二人に駆け寄り、駒鳥の心中はたった一つの感情に埋め尽くされた。


ヒュッ

バキィィッ!!!ヒューン

ズシャアアアアアア……


 駒鳥が止める間の無く、ナックルダスターにもなるパペットを装着した鷺塚の拳が男の顎に突き刺さり、少年マンガさながらの効果音とともに男は吹っ飛び3mほど地面を滑って止まる。あまりの驚きに今までの焦燥など吹っ飛んだ駒鳥は、しばし呆気にとられてから吹っ飛んだ人物が顔見知りだと気づき、鷺塚にいったい何があったんだと詰め寄った。


「あいつが突然声をかけてきたから、何かと聞いたら突然デートしてくれなんて言うから、てっきり亡霊なのかと思ってパペットでぶん殴ってやった」


 この分なら、たぶん今後もナンパされても心配無いなー。と妙な安心を得つつ、駒鳥は倒れて動かなくなった男を指さし、鷺塚に彼は人間だよと告げる。


「たまに実体を持つ悪霊もいるんだ。だからわからないぞ」


「いやいやわかるよ。あれは同じ学年の鶴森茶乃!同級生!」


 眼鏡をかけた影の薄い普通な奴。ほとんど注目を集めることはないが、総体にもでていた陸上部では有能な選手だった彼を、駒鳥は運動部つながりで知っていた。ついでに最近鴎崎がボコられた時の関係者だったりなかったりという噂も耳に新しい。


(停学してたから、あまり同学年のことを知らないのはしょうがないけど、出会い頭に殴るなんて……)


 茶乃のことを気の毒がりながらも、駒鳥はそんな天然な鷺塚かわゆす☆とか考えており、砂まみれの涙目で茶乃が起きあがっていたことにすぐには気づかなかった。


「……痛いぃ……」


「あ!鶴森……大丈夫か……?」


 殴られて赤くなった顎と強打したらしい腰もさすりながら立ち上がる茶乃。


「つ、鶴森すまない………亡霊かとおもって」


 立ち上がるのに手を貸してくれる駒鳥と正直に謝罪してペコペコ頭を下げる鷺塚を見比べ、鶴森は「鷺塚さんと駒鳥くんだよね?」と尋ねた。


「そうだけど」


「あの、鷺塚さんは鴻空と友達だよね?事情は聞かずに、僕たちとダブルデートして欲しいんだ」


 鴻空とダブルデートという単語で、駒鳥は鴎崎をボコった鴻空は確か鶴森に告白しようとしたらしいという噂を思い出し、驚いて体をのけぞらせる。


「じゃあお前は、鴻と今つきあってるのか!?」


 運動部部員は知らないものは居ない烈女・鴻!それがこの平凡な鶴森茶乃とつきあっている!!あまりのことに駒鳥は二の句が継げない。


「う…うん、まあね………」


 餌をねだる鯉のように口をパクパクさせている駒鳥に、鶴森は遠いところを見るような目で小さく返事をし、恋人の事に思いを馳せた。

 つき合い初めて一日目で処女を奪われた茶乃。その後、空は週末になる度に茶乃をおうちデートに誘い、そのつど茶乃は渾身の言い訳で誘いを断ってきた。

 しかし先日ついに


「鶴森茶乃!もう少し恋人たる私を優先させたらどうなんだ、エエ!?」


 空が爆発し、リアルに髪の毛を逆立てて怒り狂ったのだ。


「今週こそデートするぞコラぁ…」


(や、やばい…!ででででも二人きりになったら、ままままたあんな事やそんなことをされる!それは絶対回避!どうすれば……二人きりじゃなく……)


 地獄の閻魔みたいな彼女に迫られ、茶乃はダブルデートという蜘蛛の糸を発見し、すぐさまそれを空に提案する。


「ダブルデート?ふぅむ、そういえば鷺塚が訳わからんことで悩んでいた事があったからなぁ。鷺塚と駒鳥でも誘うか」


「わかった!!じゃあ僕が誘ってくるよ!!」


 空のお許しが出るや否や、今までで一番はきはきした返事と共に茶乃は全国レベルの走りで鷺塚を探しに行き、そして見つけて声をかけ、


(まぁ、見た目かわいいから油断したけど、さすが料理部部長の友達だよね……(遠い目))


 そしてこのアッパーである。


「俺はいいよ。ちょうど週末は空いてるし」


「私も日曜は暇だから大丈夫だ」


 殴られた瞬間は顔が変わるかと思ったが、二人ともデートを了承してくれたので、ひとまず茶乃の腰の平安は保たれた。


「じゃあ、メールするねー」


 メアドも交換して、茶乃は猛スピードで教室で待っているであろう空の元へと戻っていく。

 ふと、駒鳥が鷺塚に尋ねた。


「……そういえば、土曜は用事があるのか?」


「ああ、ちょっとたわしちゃんとな」


「…………たわしちゃん?」



6 ジェットコースター



 デート当日。

 4人が集合したところで、ネズミと熊と梨の妖精を足したようなクズッシーを横目に見ながら、適当にアトラクションを回っていく。


「遊園地なんて久しぶりだなー」


「私はコーヒーカップが好きで、結構よく来るぞ」


「えっ…一人で…?」


「ああ、友達いないからな」


「…………なんかスンマセン……」


 会話は弾んでいるのになぜか時折気まずい空気を作り出しつつも、それでも鷺塚と駒鳥は仲良く手をつないで茶乃たちの前を歩いていく。


「メリーゴーランドにコーヒーカップ、ジェットコースターに観覧車まである!今度のコミケはコーヒーカップ触手プレイに決まりだ!」


(な……なんて単語を公衆の面前で……!)


「茶乃!襲われるならクズッシーとクズミー、どっちに化けた触手がいい?」


「えっ…!?(触手は決定かよ!)う、うー…ん、ム、ムズカシイナァ……」


「フフフ、やっぱりクズネルが一番屈辱的だよな。それにしよう」


 一眼レフ(資料写真用)を構えて、嬉々として風景を撮りまくりながら、とんでもない単語を口にする空。茶乃は青ざめるもののあわあわと口を戦慄かせるだけで止められない。すでに体の関係(?)にある二人だが、前のカップルとは正反対に、空がカメラを構えているので、手を繋ぐことすらできない。


「とりあえず、コーヒーカップでも乗るか」


 駒鳥は、他の3人の好みがわからないので、とりあえず集合場所からほど近くにあったコーヒーカップに乗ることにする。

 二人ずつカップに乗り込み、係員のアナウンスと共に回転スタート。

 開始1分


「…………鷺塚、一体なにをしているんだ…?」


「んん?……なにって、トレーニングだ。コーヒーカップの回ろうとする力を、ハンドルを逆回転させることによって打ち消す!」


 本来はカップの回転をあげて楽しむためについているハンドルを、全力で逆回転させることによってカップの回転を完璧に静止させる鷺塚。


「楽しく筋トレできるから、私は大好きなんだ!」


 風景がはっきり見えると、コーヒーカップは異様に恥ずかしいんだなぁ、と回転しないカップから駒鳥はしんみりと思い、しかし目の前で楽しそうにハンドルを押さえ込んでいる鷺塚をみて、かわいいから許す!と考える。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 しかしそんな惚けた頭で居ると、すぐ近くのカップから男の悲鳴が聞こえてくる。


「フハハハハハハハハ!!!ナンセンスな悲鳴だな茶乃!しかしそんなことろもイメージ通りさ!!……目が回ったお前は、酩酊状態で触手を口につっこまれてそのまま口の中を蹂躙されながら硬い椅子の上で快感におののくのだ!そしてそのままお前は触手という名のコーヒーにズブズブとはまっていく!!そう、すでにお前に待つ未来は触手の」


「あああああああ!!僕は今恐怖でおののいてるから!!遠心力でどっか飛んでくから!!まじでぇえええ!!!」


 どめでーッッ!!とカップの縁にしがみついて叫んでいるのは、案の定茶乃その人であり、空は持てる力の全てを捧げ、ハンドルを回してカップを殺人的な速度で回している。加えて触手プレイin遊園地の構想をしゃべり続け、茶乃は二つの意味ですでにグロッキーである。


(あそこは…うちとは正反対だな…足して二で割ればちょうどいいのに)


(あれだけの遠心力をものともしないとは……!空はさすがだな…!)


 駒鳥と鷺塚がそれぞれそんなことを考えていると、コーヒーカップの速度が徐々に落ちていき、アトラクションが終了となった。

 ちなみに鷺塚と駒鳥はカップが壊れていたと勘違いした係員からお詫びのクズッシーストラップをもらった。


「次はあれにしない?」


 コーヒーカップを降りてすぐ、目が回っている茶乃が指さしたのは、長さと怖さが有名なお化け屋敷で、鷺塚と駒鳥はフラフラなのに大丈夫かなぁ…と密かに心配した。


(お、お化け屋敷で、怖がる鴻をえ、え、エスコートするんだぁ〜…)


 目を回しながらお化け屋敷を選択するくらい、茶乃は空と手を繋ぎたいらしい。


「おおっ!お化け屋敷もいいなぁ!暗闇の中、視界を奪われ恐怖で無抵抗な茶乃にコーヒーカップのときよりも激しく強引な快楽が襲いかかる!視界が奪われると音もよく聞こえるから、触手プレイにはうってつ」


「じゃ、じゃあ僕たち先にはいるね!!!」


 もちろん心配する二人の心中も彼氏らしいことをしたい茶乃の心中も空は毛ほども知らない。一緒にいる人間にまで害をまき散らす彼女を引っ張って、茶乃はお化け屋敷へと入っていく。続けて駒鳥たちもお化け屋敷に入る。

 しかしやはり普通にお化け屋敷を楽しめるわけもなかった。

 茶乃と空が入ってすぐ、白い幽霊の人形が壁から飛び出してくる。


「わっ…ってなんだにんgy」


「わはははははははははははははははははははははwwwwww」


 驚いて茶乃が懐中電灯を向け、すぐに安堵の表情を浮かべた次の瞬間、彼の語尾を飲み込むような大きな笑い声が響きわたった。


「あははははあはっはっあははははは!!」


「えっ…えっど、どうしたの!?!?」


 何事かと茶乃が懐中電灯を空に向けると、なぜか腹を抱えて大笑いする空。


「あははははは!なwwなんなんだよwwwwもwwww

つ、ツボすぎてwwwwwww」


 どうやら人形をみて笑っているらしいのだが、茶乃は笑い転げる空をみてもぜんぜん笑えない。むしろ人形の恐怖など吹っ飛ぶくらい怖い!


(なにがオカシいのかぜんぜんわからないけど、ともかく進まねば…!)


「あはははははははっwwww」


 結局、茶乃は笑い転げる空を引っ張ってお化け屋敷を攻略したので、結果的にエスコートしたことになるし、手も繋いだ(というより掴んだ)ので、茶乃の目的は果たされたはずなのに


(絶対にこれじゃない!!)


 すさまじいコレジャナイ感に苛まれていた。

 ちなみにコレジャナイ男はもう一人。


「成仏しろおおおおお!!!!」


「鷺塚っ!お化け屋敷は徐霊スポットと違うから!!これはお化け屋敷ですることじゃないからぁーー!」


 鷺塚と駒鳥たちが入ってすぐ、前の二人の時と同じように人形が飛び出してきた。わっ、と駒鳥も鷺塚も声を上げ、駒鳥は少し照れくさそうにびっくりしたなといいながら鷺塚を振り返り、戦闘態勢になっている彼女に青ざめた。

 1秒もかからず鷺塚は人形に襲いかかり、駒鳥は全力で鷺塚を羽交い締めにしている。


「払い清めてやるぅうううう!!」


(頼むから霊を見分けてくれよぉお〜…)


 暗闇で大胆なスキンシップができるん☆という思考でお化け屋敷に挑んだ駒鳥は想定外の彼女の反応に内心で号泣した。もちろん羽交い締めで密着☆とかいう思考も脳内にこびりついていたが


(やっぱり……)


(普通に楽しむのは難しいかぁ……)


 結局ほとんど茶乃たちと変わらぬ結末を迎えた駒鳥は、二度とお化け屋敷には入るまいと誓いながら、同じく楽しめなかったらしい茶乃とアイコンタクトで会話する。


「おっ!あそこにクレープ屋がある!!」


 不意に空が屋台の方へと向かう。


「ま、待ってよ…!」


 フリーダムな空を茶乃があわてて追いかける。自分たちも追いかけようと駒鳥の手を引いた鷺塚は、怖い顔をして空を注視している駒鳥に気づく。


「駒鳥…?」


「………ん?」


 声をかけると、駒鳥はすぐに表情を和らげて鷺塚の方をみる。


「……空も、悪気があるわけじゃないんだ!ちょ、ちょっと自己中なだけで……」


「なんだよ急に」


 鴻の自由さは知ってるよと苦笑する駒鳥の表情を見つめ、鷺塚はいやな予感が胸をよぎった。しかし自分の手を引く駒鳥に尋ねるわけにもいかず、楽しげな遊園地の雰囲気でその予感を振り払う。


「フンフフーン♪」


 駒鳥たちが歩いていくと、お化け屋敷から屋台までの道のりにあるベンチで、自分が食べたいと言ったくせに空は鼻歌交じりに休んでいた。


「あれ?クレープは?」


「茶乃が買いに行ってるぞ。歩きにくい靴で疲れたと言ったら、勝手に走っていった」


「おいおい…」


 傍若無人な親友に鷺塚はあきれてため息をついたが、本人は全く気にしていないようで、財布は渡してあるもーんなどと言っている。


「じゃあ、俺買ってくるから、鷺塚も休んでるか?」


「!い、いや、大丈夫だ!ぜんっぜん元気だ!むしろ元気すぎるくらいだ!!駒鳥こそ疲れてるんじゃないのか!?私が買ってくる!ここで休んでてくれ!!」


 今まで体力を使いそうな行動ばかりしていた鷺塚を気遣い、駒鳥は気を利かせたつもりで言ったにも関わらず、なぜか鷺塚は異様にそれを固辞し、駒鳥をむりくり空の隣に座らせると、風のごとく屋台に向かって走っていった。


「ゼェゼェゼェ……………」


「鷺塚さん大丈夫………?駒鳥くんは?」


「ベンチで休んでいる。ベリーのトッピングはオレオを一つと抹茶アイス乗せを一つ……はぁ……」


「は、はぁ…」


 クレープができるのを待っている茶乃が、息も絶え絶えで走ってきた鷺塚に軽く引きながら尋ねる。軽く息を整えてから、鷺塚は普通にはなしているらしい駒鳥たちの方を見てから茶乃に小声で話しかけた。


「ぶっちゃけ、空のどこに惚れたんだ……?」


「ふぇええむぐっ」


 突飛な質問に茶乃は変な声を上げるが、鷺塚は待っている二人に気づかれないようにその口をふさぐ。


「男からみた空の魅力を教えてくれ!」


「何で急にそんなことを…?」


「いいから!」


 なぜだか必死な鷺塚に茶乃が気圧されていると、4人分のクレープができあがり、店員に呼ばれて二人とも振り返る。クレープを受け取り代金を支払おうとしたとき、スイッと二人の頭上から4人分の代金が店員に支払われる。


「駒鳥!!」


 てっきりまだベンチにいると思っていた鷺塚は、先ほどのやり取りを聞かれたんじゃないかとうろたえた。


「ここは奢るよ。お詫びに」


 お詫び?クレープを受け取りながら鷺塚は先ほど振り払ったいやな予感がムクムクと大きくなるのを感じた。


「さっき急に用事が入って、ごめん俺帰るわ」


「え」


 予感は的中した。鷺塚は唐突な出来事に胸がつかえ、目をまん丸にして口がきけなくなる。

 まるで、あの遠くに見えるジェットコースターに乗っているようで、鷺塚は幸せな気持ちから一気につき落とされていく。


「茶乃も本当ごめん!鴻にもそう言ったら、激怒してもう帰っちゃって」


「えええ!」


 すまんと手を合わせて謝る駒鳥に、茶乃も目を丸くして奢ってもらったクレープも忘れて空を追いかけた。


「ごめんな」


「待って」


 謝ってそのまま帰ろうとする駒鳥の袖を、鷺塚は手を伸ばして少しだけ掴み、つぶやく。


「途中まで、一緒に帰る」


 うなだれて、大きな瞳を潤ませて、鷺塚は駒鳥の手を取ってあるきだした。



7 代役



 時間はさかのぼってデート前日の土曜日。

 黒夜は待ち合わせ場所の駅前で青葉と赤菜を待っていた。

 待ち合わせの時間になると、人混みでも目立つコンパクトサイズの金髪の少女がこちらに歩いてくる。


「お、赤菜ー!」


「ハッ……もしやあの凡庸そうな霊の見える少年は、黒ちゃん先輩…?」


「ふざけてないで早く来いよ!!てか容姿から霊が見えることはわかんねーよ!!」


「ふっ……!貴様いつから私が人間だと錯覚していた……!」


「エエッ!ってもうこの下りはいいだろ!!」


「では別の下りならばいいのかい?燕黒夜」


 お約束かのようにコントをした黒夜はいつの間にか背後に立っていた女に話しかけられ、瞬時に振り向き、女に

驚きと疑心の目を向ける。


「ド、ドチラサマ…?」


「鴻先輩、もう着いてたんですか」


「赤菜、こちらは……って後ろにおっかない人が!!!」


 歩いてくる赤菜の方を見て、黒夜は自分の背後に立っている女が誰なのか聞こうとするが、赤菜の背後にも見るからにやばそうな人が歩いているのを見て、驚嘆の声を上げる。

 黒夜は目を白黒させているが、赤菜は軽くあきれたようにひょいと眉を上げるとすぐに下げて、黒夜の背後の女性と自分についてきた人物について紹介した。


「黒ちゃん先輩の後ろにいるのは、急に来れなくなった青葉姐の代わりの用心棒の鴻先輩で、私の後ろにいるこのDQNな人は徐霊のアシストをしてくれる鷺塚先輩」


「鴻?……ってことは鴻のお姉さん…?」


「いつも弟が世話になっている!今日はよろしくな、燕くん」


 鴻灰の姉、鴻空。黒夜もあの奇々怪々の料理部の部長だと言うことは知っていたので、強い青葉を10倍に濃縮したような人がきた、と少し不安になっていた。


「なんだね!君はこのハーレム状態に目を回しているのか!全く持ってナンセンスだねェ」


(やべぇ…キャラも青葉の10倍っぽい………)


 不安的中。大げさな身振り手振りも交えて世迷い言を垂れている空に、黒夜は脳内変人ランキングの堂々1位に彼女を据えた。


「こちらこそ……」


 あの盗聴器を仕掛けていたマッドサイエンティストを遙かに凌駕する変人っぷりに、黒夜の危機察知センサーは警報を鳴らしっぱなしだったが、ふと空の言葉の端っこに引っかかる。


(ん?ハーレム…?)


「鷺塚翠だ。よろしく」


 空の言葉が切れるのを見計らって、DQNと紹介されても眉根一つ動かさなかった冷静な人物が簡潔に名を名乗る。


「どうぞよろしく」


 黒夜はこちらは気味が悪いほど肝が据わっているなと思ったが、こっそり小声で「DQNっってなんだ…?」と聞かれ、どうみたってDOQとしか言いようのない格好をしているが、肝が据わっているのではなく単に世間知らずな人なんだなぁと思い、本当の意味をちゃんと教えてやろうかとも思ったが、自分がほんの少し逡巡している間に、3人は自分を置いて、早速Aくんの倉庫の方へむかっているのに気づき、急いで後を追っかけた。

 ちなみに青葉の言うとおり倉庫のある辺りは大変柄の悪いお兄さんたちでにぎわっており、善良そうな学生4人(一人はDQN)はあっと言う間に武器を手に持った兄貴たちに囲まれてしまう。


(やべえ!!)


 少年マンガの主人公くらいしか切り抜けられなさそうな窮地に、黒夜は自分が死神代行だったら…!などと荒唐無稽なことを考えながら鴻の様子をうかがった。


「…………ふぅむ。囲まれてしまったな」


 少年マンガの主人公でないと切り抜けられないような状況であっても、空にとっては余裕しゃくしゃくといった状況らしく、不敵な笑みまで浮かべて不良たちを見回した。


「さて、4人でこの状況とはどう考えたってまずい………」


(まずい状況なのかよ!!!)


「……………よって………」


 つっこみにはそこそこの自信があった黒夜ですら、次の瞬間起こったことには、つっこみを入れる余裕がなかった。


「わーーーーーーー!!」


 有り体を言えば空を飛んだ。


 鴻はピンチだと宣言した直後、黒夜、赤菜、鷺塚の首根っこを掴んで、不良たちの輪の外側まで投げた。


 クルクルクルクルクル     シュタッッッッ

 ポフッ

 フーワフーワフーワ…………ポフ


 そして、鷺塚は見事な着地をし、落ちてくる黒夜を受け止め、同じく落ちてきたのだが、たまたま上空を飛んでいた風船に掴まったおかげでゆっくりと降りてきた赤菜を受け止める。


「空!!」


「さすがに私もお前たちをかばいながら戦ってはこの人数には敵わん。蹴散らしておくから、お前たちはお祓いをしてこーーい!!」


 鷺塚の非難がましい呼びかけに、空はどことなく楽しげな声でそう応じる。呼びかけの直後、異様に導火線の短いお兄さんたちは、一斉に空に飛びかかり、その場が一気に騒然とする。


「たぶん空なら大丈夫だ。行こう」


 鷺塚に促され、3人は問題の倉庫へとむかい、問題の悪霊を探し始める。

 ちなみに一斉に飛びかかられた空は、バーテン姿の最強男を彷彿とさせるようなパンチ一撃で、数名の不良を空へと打ち上げていた。

 軽く数十メートルは吹っ飛ばされ、戦闘不能に陥った不良たちが残していった得物を両手に拾い上げ、空は不良全体をねめつける。


「本気で殺る気があるなら、全員まとめてかかってこいッッッ!!!!」


 空と不良たちはそもそもパワーにも技術にも圧倒的な差があった。束になって羽交い締めにしようが、空はそれを腕一本でなぎ払い、手に持っている武器は同じはずなのに、不良たちの武器を空の得物は粉砕していく。


「フハハハハハハ!!」


 空が不敵な笑い声をあげながら不良を粉砕している間に、赤菜たちは悪霊を発見し、浅ましくも逃げ回る悪霊を何とか捕まえたところだった。


【へへへへー。下着クレタラ成仏スルヨー】


「破ッ!!!」


【ウギャアアアアアアアア】


 最後まで浅ましい悪霊だったが、3人は無事退治し、不気味なほど静まり返った空の元へと戻っていった。


「おっつかれ〜、うまくいったみたいだな。こっちはぜんぜん歯ごたえの無い連中だったよ」


 屍と化した不良が山となったものの頂上に腰掛け、空は髪型一つ崩さず3人を迎える。


「では、駅まで行こうか。この辺りの不良はあらかたかたしたからな、帰りはきっと安ぜ」


 不良の山から降りてくる空に足が、予想外に滑った。滑ったと言うより山の一部が崩れてしまったと言えるだろう。空はベシャリと地面にこけた。



「やっぱり……このヒールが合うか」


 お祓いの翌日の朝、着飾った空は二足のヒールを見比べてヒールの低い赤い方の靴にした。


「茶乃はあまり背が高く無いからな」


 失礼だが事実なことをつぶやきながら、空は遊園地での待ち合わせへと向かう。



「イチゴのが食べたいぞ!!」


「わかった」


「おいおい!ほら金!」


「クレープぐらい奢ってあげるよ」


「学生が身の丈に合わない事するな!一回のデートで奢ってもらうより、私は何回も割り勘のデートがしたいんだ!」


 処女を奪われたくせに彼女に奢ろうとするプライドはあるらしい茶乃に自分の財布を押しつけ、空はベンチに腰掛けて足をさする。

 茶乃が行ってすぐ、駒鳥と鷺塚も追いつき、なぜか挙動不審な鷺塚に無理矢理休まされた駒鳥が空の隣に腰を下ろした。


「…………足、怪我してるだろ」


 駒鳥は座るなり空の左足をじぃーっと見つめ、心配そうな真剣な顔で空に尋ねる。


「…………………」


 普段なら否定でも肯定でも瞬時に行うのに、空は何もいわずに駒鳥から目をそらした。


「さっきから、おまえの歩き方は試合前に怪我しちまった部員にそっくりだ。試合にでたいからって怪我を隠してる部員の」


 さすがバスケ部副部長だな、と空は心の中で独り言をつぶやく。


「カラーストッキングで、変色してるかどうかまではわかんないけど、ぱっと見腫れてるし、相当痛いだろ」


 普段はうるさすぎるぐらいなのに、空は一言も発っせずにただクレープ屋の屋台を見つめている。


「折れてるかもしれないから、早く病院行った方が良いって!鶴森も鷺塚も、絶対わかってくれるし……」


 不意に空が駒鳥の方に視線を向け、横目でキッとにらんだ。しかしいつもの猛々しさはなりを潜め、空の表情は困りはてた少女のもの他なら無かった。


「……………だから駄目なんだよ」


 ようやく口を開いた空は、屋台でなにやら楽しげにしている茶乃を見ながら、苦痛に顔をゆがめて悔しそうに告げる。


「あいつ、私が怪我してるって知ったら絶対謝るだろ。あいつが謝ってもどうしようもないのに、悲しそうな顔して、『気づかなくてごめんね』とか、私はあいつの泣き顔が大好きだけどな、私が、ふがいない所為であいつが悲しそうな顔すんのは我慢ならないんだよ……………!!」


 足の痛みだけでなく、茶乃のごめんねを想像して苦々しい表情を浮かべる空。


「………………はぁ」


 エベレストよりも高いプライドで歪んだ恋人への愛情。駒鳥はこのオレ様体質な怪我人にあきれて、ため息をつく。


「わかったよ。料理部部長のプライドのために、鶴森には怪我のこと隠しといてやるよ。でもお前は病院に行ってくれ!俺がドタキャンして、それに鴻が激怒して帰ったって事にするから」


 つい最近足を折ったこともあり、駒鳥は空の足が気がかりでならないらしく、有無を言わせずそう命令すると、空を出口の方へ向かわせてから、屋台の方へ走っていく。

 痛む足を引きずりながら空は遊園地を出て、とりあえほど近くのドラッグストアに向かう。


(氷…氷……)


 お祓いの帰りからすでに痛かった足は今更冷やしても無駄かもしれないが、ともかく痛みを和らげたい空はとぼとぼと歩く。


「鴻ーーーー!!」


 ドラッグストアに入る寸前、空の財布を握りしめた男が風のように走ってきて、空の腕を捕まえた。


「なんでもう遊園地を出てるんだよ!」


「そりゃ、彼女が怒って帰ったって言われたら、すっ飛んでくよ…!それに、財布僕に渡しっぱなしだし」


 そう言いながら息を整えると、茶乃は空の顔をのぞき込み語りかける。


「…………具合でも、悪くなったの?」


「!!」


 茶乃の言葉に、空はなぜバレた!?と心底驚き、とっさに目を見開いた。


「あははは、おもしろい顔。そりゃ分かるよー。だって、駒鳥くんが帰るって言ったからって、空は僕を鷺塚さんと一緒に置いて帰ったりしないし、それに帰んなきゃいけないぐらい具合が悪くなっても、プライドが高いから僕らに正直には言えないでしょ?」


 笑いながら答える茶乃に、空はただただ驚いた。驚いて目を丸くしていたら、茶乃は空から荷物を受け取り、背中を向けてその場にしゃがんだ。


「さっき調べたら、すごく近くに病院があったんだ。歩いてすぐのところ」


 ほら乗って、と茶乃は小さな背中を空の方へ向けている。


「…………………………おぶれるのか…?」


「大丈夫だよ!」


 足も限界だったので、空は少し怒ったような声を出す茶乃の背中にのっかった。

 意外としっかりしていて、しかも軽快な足取りの茶乃の背中に背負われて、空は病院に着くまでに左足が折れてることを説明した。


「ふ、不良にやられたの!?」


「いや、不良は瞬殺だったんだが、その屍から降りるときに転んで………」


「あらまー…」


 さっきまで、口が裂けても茶乃には説明したくなかったのに、おんぶされてて足が楽な所為か、なぜだが今はすんなり説明してしまった。

 病院に着いたら、すぐに車いすで運ばれ、看護師やら医者やらにさんざん放置したことを怒られながら添え木と湿布をつけられる。


「折れてなくてよかったね」


「…………怪我人なのに理不尽なぐらい怒られた…」


「ど、どんまい……おうちの人には連絡した?」


 支払いなどを済ませた茶乃に尋ねられ、杖を突いた空は弟に笑われるから普通に電車で帰ると言い、茶乃が空の携帯からあわてて電話をかける羽目になった。


「………ご両親が不在で、迎えにこれないって」


「だからもう大丈夫だ!杖も手に入れたから普通に帰れる!」


 先ほどまでおとなしくしていた空のプライドがまたむくむくと高くなり始めたらしく、空は茶乃から荷物を受け取ってさっさと電車に乗ってしまう。


「ねえ、おんぶしようか?転ぶと危ないし、杖は大変だよね!」


「いい気になるな!!こんな時だけ彼氏面するな!デートだってさんざん誤魔化してきたくせに!ナンセンスだよ!!」


「ご、誤魔化したんじゃないもん!よ、用事があったんだもん!!」


 つい少し前まで仲良くしていたのに、駅から空の家までの少しの歩きの間に、二人はもう言い争いをしている。


「はっ…!至高の受けかと思っていたが、私も見誤ったようだ」


 未だに受けの意味が分かっていない茶乃が何も言い返せなくなり、しばし二人にピリピリとした沈黙が降りた。


「………………私がいなくなったとき」


 静かになってしばらくして、おもむろに空が立ち止まり、茶乃の目を見つめ、問う。


「どうして、私がお前を置いていかないと思ったんだ」


 真っ直ぐな眼光とともに問われ、茶乃は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに柔らかい微笑を浮かべて答える。


「だって空は僕のこと好きだから」


 てらいを含まない茶乃の言葉は、空の顔を耳まで真っ赤に染めあげた。



END



<後書き>



ま……!

また怪我オチッッ…………!?

7まで書いてから前回も怪我ネタだったこと思い出したぁあああああああああああああッッ!!!

あぁぁ………(涙)

しかし書き直す気力もなく……書き上げちゃったよぉ………

え?怪我ネタはお好き?

ってェんなわけないかぁあああ(号泣)

文化祭ネタで挽回するしかないよぉぉおおおお(慟哭)



コホン

ちなみに結果的に、空は自信家で破天荒で自己中でドSで腐女子でまるでラスボスみたいになりました。

話の起爆材になれるようなアグレッシブでクレイジーでエキセントリックな料理部部長を!とやったらちょっとやりすぎました(汗)

男言葉にしたらあれええ?女の子の要素がないぞぉお?!な事になるし…でも、攻めだからいっか☆


茶乃は、流されやすく良くも悪くも適応力のある子です。童貞非処女です(笑)

わりとイメージ通りに仕上がった子の一人です!

でも空と対比するとどうしても女の子っぽく見えそうになったのですごく気を使いました……!!

ちなみに彼は空の足に惚れてます☆


駒鳥くんはヘタレにしないように気をつけましたが、今回は出番が少なかったので楽だったです!茶乃が空と比べるとかなりヘタレだったので良い対比になったし。


鷺塚さんは…一番ブレたし、この子は普通に乙女なはずなのに、男装の名残で男言葉っぽいのを使うので、特徴付けができなくてできなくて!

あ、ちなみに二人の遊園地のラストは「ミスリーデング×ミステイク」として一応ちょこっと書きます。たぶん超短いよ!だって今回はわき役だし!


リクエストに半分だけ応じて赤菜ちゃんと燕くんと青葉は出しましたよ〜

(黒谷と赤菜の掛け合いは、これでいいの?!これでいいの!?ってずっとなってます。今も)


他のキャラは次の文化祭の話に出せればと思います!

(話の柱は決まってるので、誰か出し物のアイディアをくれー)

他作とのかねあい(執事連合とか普通に長編とか)を見つつで文化祭ネタも書くよ〜みんな懲りずに読んでね^^

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