表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/171

第43話 決意 ~伊織編~

 午前中、佑さんはお客さんが来て、ずっと応接室に入っていた。お茶は、北畠さんがさっさと席を立って入れに行ってしまった。

 

 12時を過ぎ、ランチの間中、

「勇気出すんでしょ」

と、真広に言われ続けた。


 昼休憩が終わり席に戻ると、すぐに佑さんは野田さんと塩谷さんと3人で出て行ってしまった。そして、戻ってきたのは5時を回っていた。


 デスクに着くなり、パソコンを起動させ、佑さんは忙しそうに入力を始めた。とても声なんてかけられる感じじゃない。私は仕事も終わり、定時に真広と席を立った。


「ちょっと、いいの?」

 駅までの道、真広に問いかけられた。

「主任と一回も話していないんでしょ?」

「うん。だって、忙しそうだし」


「も~~~。なんかじれったいよ」

「だよね」

 自分自身でもそう思う。だけど、会社だとどう話しかけていいかわからない。

 二人きりになる時間も取れないし、話がありますなんて声をかけることもできない。


 帰ってからメールをする?電話?

 でも、何時まで佑さんが残業をするかもわからないし。


 家でもモヤモヤしたまま、結局、携帯と睨めっこをしただけで夜中の12時を回ってしまった。


 翌朝、やっぱり佑さんと一緒になるのを避け、ギリギリの時間の電車に乗って、走って会社に行った。

 ぼさぼさ頭のままトイレに行き、髪だけとかして部屋に駆け込む。真広も同じようにデスクに駆け込んで座った。


 時計を見ると、8時59分。これは、佑さんに怒られるかと思いきや、佑さんは、

「出るぞ、塩谷」

と、颯爽と上着を羽織り、塩谷さんと出かけて行ってしまった。


「今日も外出…」

 ぼそっとそう呟くと、

「急な出張だって」

と、北畠さんが教えてくれた。


「え?出張?」

「塩谷さんと仙台に行くんだって。なんでも△△機械の仙台支店に行くんだとかって。明日、ついでにうちの栃木の工場も見学に行くらしいから、戻るのは明日の夕方とか言ってたわよ」

「…そうなんですか」


 また、塩谷さんと二人で出張?

 ダメだ。モヤモヤする。


「伊織」

 ランチの間、暗い顔をしていると、また真広に、

「いいの?」

と聞かれた。


「……」

「塩谷さん、主任のこと好きじゃん?狙ってたらどうする?」

「狙う?」

「そう。二人きりでの出張だよ?思い切りチャンスって思っているかもよ?」


「ね、狙うって?チャンスって?」

「例えば、夜、部屋に忍び込むとか。酔って、迫ったりしちゃうとか?あの人、酔うと別人みたいになるじゃない」

「う、うん。そう言えば」


「いいの?プロポーズの返事も宙ぶらりんにしていたら、他の女にかっさわれるかもよ」

 嫌だよ~~~~。

 ああ、ダメだ。心がざわつく。


 ランチは隣のビルの地下でしていた。そこから、オフィスに戻ってロッカーに行くと、今宮さんが私をとっつかまえてきた。

「あの!ソフトボール大会の日、魚住さんと湯川部長の娘さんって、何もなかったんですよね?」

「え?」

 何をいきなり?


「昨日も今日も、朝、主任と同じ電車で出社したんですよ」

 え、そうなの?

「それで、部長の娘さんの話題を振ったら、なんか変な感じだったから。何かあったのかなって思って」

「…さ、さあ?私はよく知らないけど」


 そうすっとぼけた。それにしても、今宮さんって積極的なんだな。朝、一緒に出社しちゃうなんて。

 会社まで一緒だったのかな。

 私が佑さんと一緒の電車に乗るのを避けている間に、佑さんは今宮さんと一緒に会社に来ていたんだ。


 なんか、もやもやする。

「なんとか、主任にもっと近づけるチャンスってないですか?」

「は?」

「今宮さん、やり過ぎじゃない?朝まで主任と一緒になんて」

 真広が呆れかえりながら、そう今宮さんに言ってくれた。


「え~~~。でも、偶然を装っていますよ~~」

「いやいや。いくらなんでも二日続けてなんて、主任だって偶然とは思っていないでしょ」

「でも、そのくらいアピールしないと近づけないでしょ?名前はもう覚えてもらいましたよ」

「…そうなんだ。へえ」


 真広とデスクに戻ってから、

「伊織、あの子の半分でもいいから、頑張んなよね」

と言われてしまった。


 家に帰り、携帯を見た。佑さんからメールが来るわけがなかった。

「はあ…」

 夕飯はまたコンビニ弁当。そして、お風呂に入り、何も考えたくなくてすぐに布団に入った。


 だけど、今頃、佑さん、まさか塩谷さんと二人きりでいないよね。佑さんの部屋に忍び込んだりしていないよね。そんなことを思うと、なかなか寝付けなかった。

 ああ。自信がなかろうがなんだろうが、やきもちだけは立派に妬いちゃう自分が嫌になる。


 翌朝、佑さんはまだ出張から戻ってないんだな…と、そんなことを思いつつ電車に乗った。いつものようにギリギリの時間に会社に着き、ギリギリの時間に席に着いた。


 佑さんのいないオフィス。なんだか、気の抜けたサイダーだ。緊張感も何もあったもんじゃない。北畠さんのやる気の無さも丸わかりだ。


 夕方、4時を過ぎた頃に佑さんと塩谷さんが戻ってきた。ああ、顔を見ることすらできないくらい気まずいのに、やっぱり佑さんが戻ってくると嬉しいなんて。


「塩谷、ちょっといいか」

 戻ってくるなり佑さんは塩谷さんを呼び、会議室に入って行った。


 モヤモヤモヤモヤ。佑さんってずうっとここのところ、塩谷さんといる。仕事のパートナーだもん。しょうがないよ…と思いつつ、モヤモヤする。


 ここ何日も佑さんと話すらしていない。これって、付き合ってるってことになるの?やっぱり、私が「考えさせてください」なんて言ったからこんな状況になっているんだよね。

 せっかく、いい雰囲気になっていたのに。


 そうだよ。プロポーズをしてくれたんだよ?なのに、私ったら、なんですぐにはいって言わないかな。ああ、なんだかだんだんと、自分のバカさ加減が嫌になってきた。


 塩谷さんと佑さんが会議室から出てきたのは5時半。

「伊織、仕事終わった?」

「うん」

 最近は、残業するほど忙しくもなく、私はすぐに真広とオフィスを後にした。


「どんより~~」

「え?」

「ずっと、伊織はどんよりしている」

「うん」


 わかってるよ。

「まだ、話していないの?」

「うん」

「しょうがないなあ。メールでも電話でもしたらいいのに」


「うん」

 暗くなりながらエレベーターを待っていると、後ろから、

「ご飯でも食べて行かない?」

と、塚本さんがいきなり声をかけてきた。


「行きませんよ。塚本さんも早く帰れる日くらい、とっとと家に帰ったらどうですか?」

「奥さん、実家なんだよね」

「喧嘩ですか?」

「まあね~」


 塚本さんはそう言うと、私の隣に並び、

「ね、確か一人暮らしだったっけ。一緒に夕飯食べない?家に帰ってから作るのも大変だよね?」

と聞いてきた。


 もう~~~。なんなの。それに近いよ。

「塚本さん!奥さんと喧嘩しているからって浮気しないでください」

 真広がそう言ってから、

「それに、伊織には彼氏がいるんですよ」

と、ばらしてしまった。


「嘘。じゃ、諦めたんだ。そう言えば最近、残業して気を引くこともなくなったし、声もかけられなくなったね。何?主任にふられた?」

 ええ?!!

「ちょっと!失礼でしょ!そういうこと言うなんて」

 真広は思い切り怒った。来たエレベーターにすぐに真広は私と乗り込み、

「次のエレベーターに乗ってください。気分悪いから」

と、塚本さんはそのエレベーターに乗せなかった。強い。さすがだ。そして、なんて頼りになるんだ、真広。


「ああいう無神経男、大っ嫌い」

 エレベーターから降りると、真広はまだ怒っていた。

「うん。ありがと、真広。怒ってくれて私もすっきりした」

「あ、でも…」

「え?」


「今日、課の男性に聞かれたんだ。主任、まさか部長の娘さんと付き合うことになった?って。だから、伊織が沈んでいるのかってさ」

「え?」

「伊織が元気ないの、みんなにばれているみたいだよ。主任も伊織に話しかけないしさ」


「…そう」

 そんなこと、思われていたんだ。

「早いとこ、返事しちゃいなよ。結婚OKですって、それだけじゃない」

「うん。でも」


「何?」

「もう遅いってことはないかな」

「え?」

「例えば、他の子がよくなっちゃったとか、ないかな」


「そんなに早くに心変わりするような男?」

「ないよね。佑さんに限って」

「いや、わかんないよ。男なんだから、もし他の女性に言い寄られたら、魔がさして、なんてこともあったりするかも」


 え~~~~~~。

「うそ、うそ。でも、そうなる前に、ちゃんと返事しなよね」

「そういう真広は?結婚の話、してみた?」

「…岸和田?」


「うん」

「まだ。最近、あいつも忙しくてデートもできていないから…」

「そう」

「私から見たら、伊織、贅沢だよ。プロポーズされたの」

「うん」


 本当だよ。大好きな佑さんに、プロポーズされたんだよ。結婚したら、ずっと一緒にいられるんだよ。

 毎日、佑さんと…。


 アパートに帰り、いつものようにお弁当を食べていると、電話が鳴った。母からだ。ああ、絶対にお見合いの話。

「もしもし、伊織。今週末には戻れるわね」

「帰れない。今、それどころじゃない」


「何がそれどころじゃないなの!こっちだって、もう待てないわよ。先方にも言っちゃったし」

「先方?」

「見合い相手よ!」

「見合い?私、見合いなんてしないからね」


「するの!帰ってらっしゃい。真面目で、あんたにはもったいないくらいいい人なのよ!」

「お母さん、私、いるの」

「何が?」

「好きな人」


「……好きな人?何よ、それ。まさか、不倫?」

「違うよ」

「じゃあ、何。中学生じゃあるまいし、なんなの、その好きな人って言うのは」

「お付き合いもしているの」


 バクバク。いきなりそう言ってから、心臓が早く鳴った。とうとう言ってしまった。言っちゃったよ。

「へえ、そう」

 あれ?何、その、薄っぺらな反応。なんでもっと、驚いたり、テンション上がらないわけ?

 一度連れてこいとか、何で言ってこないの?


「とにかく、土曜日帰ってくるのよ、伊織」

「お見合いはできないからね」

「じゃあ、いつ結婚できるの?」

「だ、だから、お付き合いしている人がいて…」


「だから、なんなの?あんたの言うお付き合いって、たいしたことないんでしょ?あ、まさか、結婚相談所とかで紹介されたとか?その人、大丈夫なの?詐欺師とかじゃないわよね」

「違うよ!なんでそうなるの?!!」

 信じられない。娘のことをなんだと思っているの。


「いいから、一度お見合いの相手に会ってごらんなさい。あんただって気に入るわ。お父さんだって、申し分ない人だって言ってるのよ?」

「帰らない。お見合いなんてしない。好きでもない人となんだって、結婚しないとならないの」


「へえ。そこまで言うならわかったわ。今度の土曜、お見合いはしないでもいいわ。でも、あんたが付き合っているって言う男を連れてらっしゃい」

「え?」

 やばい。やっぱり、そうなった。


「いい?ちゃんと連れてらっしゃいよ。わかったわね」

「……い、忙しい人だから、どうかな。仕事あるかも」

「そんな言い訳許しませんよ。あんた一人で来るなら、お見合いしなさいね!」

 そう言って母は、電話を切った。


 うわ。

 うわわわ。

 えらいことになってしまった!どうしよう。


 誰かに相談。美晴…、いや、真広。

 すぐに真広に電話をした。真広も夕飯が終わり、部屋でのんびりしているところだった。


「え?何か問題でもある?プロポーズOKしたら、次は両親に紹介でしょ?ちゃんとした順番になっているじゃない。とっとと主任にOKして、今度実家に来て両親に会ってくださいって言えばいいだけでしょ?」

「……そんな簡単に言わないで」


「簡単なことじゃない。なんにも問題ないわよ。あの、クソまじめな主任だったら、ご両親もすぐにOKするって」

「だよね。私もそう思う。いや、なんで、あんな素敵な人と結婚できるのかって、疑われるかもしれない」

「は?」


「だって、佑さんほど素敵な人っていないし。最高だし」

「……恋は盲目って言うもんね。私から見たら、クソまじめで、細かくて、性格悪くて、最低!な男だけど」

「酷い。真広」

「でも、伊織には素敵に見えちゃうんだね」


 真広は知らないからだよ。本当は優しくて、あったかい人なんだから。


 そうだよ。私、本当に佑さんのことが大好きだよ。ずっと一緒にいたいよ。

 自信はない。でも、一つだけ、きっとだれにも負けないところがある。それは、佑さんを好きなことだ。


「へ、返事する」

「え?」

「頑張って、返事をするよ!」

「うん。頑張れ、伊織!」


 電話じゃ嫌だ。ちゃんと顔を見て返事をする。明日、思い切って言おう。時間、作ってくださいって。ちゃんと、結婚、お受けしますって…!云うぞ!!!

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ