表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/171

第63話 限界 ~伊織編~

 ギュウ。佑さんの私を抱きしめる腕の力、全然緩まない。私は佑さんの胸に顔をうずめたまま、ずうっとドキドキしていた。

 どうしよう。このまま、まさか、押し倒されたり?


 でも、お風呂には入りたい。


「あ、あ、あの」

「はい?」

「お風呂、沸かしてきます」

「……」


 わあ。まだ、手、離してくれない。

「あのっ」

「はい」

 やっと佑さんは手を離してくれた。そして、また胡坐をかいて座った。


 私はパタパタとバスルームに行き、お風呂の用意をした。それから、和室に入り込み、タンスから佑さんのパジャマを出した。

「あれ?何でこれ…」

「すみません。この前泊まった時に持ち帰って、洗いました」


「ああ、それで家になかったんですね」

「これ、着てください」

「はい」


 それからまた、洗面所に行き、真新しいバスタオルとフェイスタオルを持ってきて、

「これ、使ってください」

と渡した。


「はい」

 歯ブラシ、タオル、バスタオル、ちゃんと買っておいてよかった。えっと、あとは、下着。実は買ってある。というか、真広に買わされた。黒のボクサーパンツなら、大丈夫だよと。でも、出しにくい。だけど…。

「あの、実は、ぱ、ぱ、パンツもあって」

「え?」


 あ、さすがに佑さん、びっくりしている。

「真広とバスタオルとか買いに行った時に、これも買えと脅されて」

「脅されて?」

 くす。くすくすと佑さんは笑い出した。


 私はまだ袋に入ったままのパンツを持って来て、佑さんに黙って渡した。

「すみません。いろいろと用意してもらって」

「い、いいえ」


 座椅子に座り、大人しく黙り込むと、佑さんは袋からパンツを出して広げ、

「ああ、サイズ大丈夫ですよ」

と、そう言った。

「そ、そ、そうですか」


 なんだか恥ずかしくなってきて、私は俯いた。

「溝口さん、面白いですよね」

「はい」


 しん。ああ、会話がなくなった。と、その時、お風呂が沸いた合図が聞こえ、

「先に入ってください」

と、私は佑さんを先にお風呂に入ってもらうようお願いした。


「あとでいいですよ」

「いいえ。先にどうぞ」

 佑さんがお風呂に入ると、私は慌てて押し入れから布団をだし、シーツを変えた。枕カバーも新しく変え、布団を敷いて、ほっとした。


 そして、勝負下着を揃え、新しいパジャマも用意して、ドキドキしながら座椅子に座った。


 しばらくすると、佑さんがお風呂から出てきた。髪をバスタオルで拭きながら、

「伊織さん、ドライヤーは?」

と聞いてきた。


「あ、ここです」

 わたわたと、和室からドライヤーを持って来て佑さんに渡した。

「ここで、ドライヤーかけて下さい」

「ああ、はい」


 ドキドキドキドキ。佑さんのお風呂上りとか、髪が濡れているのとか、今までも見たことあったのに、やけに今日は色っぽく見えちゃう。髪が濡れてて、前髪も後ろにあげている佑さん、なんだかいつもより男っぽい。


「じゃあ、私、入ってきます」

 そう言って、バスルームに行った。服を脱ぎ、鏡でなんとなく自分の裸を見て、少しがっかりした。

 なんで、色っぽくないのかな。


 それから、腕とか足とか見て、脇も確認した。

「だ、大丈夫…」

 ひゃあ。どうしよう。お風呂から出たら、もう、逃げられないよね。


 そう思いつつ、風呂場に入り、体を洗い出した。それも、念入りに。

 髪の毛も洗い、洗い残しはないよね…とか思いつつ、バスタブに浸かった。


 佑さんは、どんな思いでお風呂に入ったのかな。

 ああ~~~~~~~。ドキドキしまくって、おかしくなりそう。


 のぼせそうになり、お風呂から出た。バスタオルで体を拭きながらも、ドキドキした。

 勝負下着をつけながら、こんな下着でよかったかなと考えたりした。そして、パジャマを着て、一回深呼吸をしてから、部屋に戻った。


「伊織さんも、ここで髪、乾かしますか?」

「はい。あ、いいえ。向こうで乾かしてきます。あ!パジャマだけで寒くないですか?」

「そうですね、少し寒いかな」

「私のパーカー着ますか?」


「……。布団、敷きましょうか?」

「もう、敷いてあります」

「じゃあ、布団であったまっていますよ」

 ドキ。

「はは、はい」


 ひゃあ。

 ドライヤーを持って、ドキドキしながら洗面所に戻った。鏡に映った私は真っ赤だ。


「あ~~~、どうしよう」

 頭の中がぐるぐるだ。髪を乾かしながら、頭の中で二人の私が喧嘩をしている。


 こうなったら、あげるしかないよ。

 でも、なんだか、怖くなってきた。

 その年で何を言ってるの。

 だって、未知の世界だよ?

 

 観念しなさい!


 その一言で、私はドライヤーを止め、和室に移動した。


 ドキン。ドキン。和室の襖を開けた。布団の中に佑さんは入っている。

「あ、あの」

 おずおずと、佑さんの足元辺りで座り込み、声をかけた。だが、返事がない。


「あ、あの?」

「すー…」

 すー?!


 まさか、寝てる?!!!


 両手を布団について、そっと佑さんの顔を覗いて見た。目を閉じ、すーすーと寝息を立てていた。

 寝てる。

 綺麗な寝顔だ。


 じゃなくって、ちょっと拍子抜け。

 ほっとしたような、がっかりしたような。


 もう一度、佑さんの顔に顔を近づけてみた。

 決意したのにな。疲れて寝ちゃったのかな。


 パチ。


 うっわ!佑さんの目があいた!!!


「ああ、しまった。寝てた」

「あ、あわ、あわ」

「伊織さん?」

「お、起きたんですね」


 私は思わず、佑さんから体を遠ざけ、押し入れにドスンと背中をぶつけていた。

「あたた」

「大丈夫ですか?」

 佑さんは上半身を起き上がらせ、私の腕を掴みそう聞いた。


「は、はい」

 のけぞったところ、見られちゃった。恥ずかしい。と、恥ずかしがっていると、そのまま、佑さんは私のことをぐいっと自分の胸に引き寄せてしまった。


「ひゃ!」

「伊織さん」

「はいいっ?」

「すみません」


 え?何で謝ったの?

「もう、嫌だと言われても、無理そうです」

「え?!」

 ドサッ。そのまま、布団に押し倒された。そして、佑さんは私の顔に、思い切り顔を近づけ、

「我慢の限界です」

とボソッと言うと、キスをしてきた。


 我慢の、限界?


 って、え?


 キスがいつもと違う。

 舌…。佑さんの舌が…。


 どうしようとか、下着が変とか、怖いとか、全部、思考は吹っ飛んだ。

 

 もう、なんにも考えられない。


 ただ、佑さんの私の髪を撫でる手とか、頬に触れる指とか、キスとか、眼差しとか、伊織さんと呼ぶ声とか、全部が優しくて、胸がそのたび高鳴って、でも、満たされて、佑さんの優しい温もりに触れ、どんどん満たされて、幸せいっぱいになっていく。


 私、なんだって、こんな優しい佑さんを怖がったり、拒んだりしていたのかな。

 そんな自分が、バカだなあって、つくづく思う。


 そして、佑さんの優しさに、前よりも数倍、ううん、何百倍も佑さんを好きになっている自分に気が付いた。


「伊織さん?」

 優しく髪を撫でながら、佑さんが耳元で私を呼んだ。

「はい」


「大丈夫ですか?」

 う。声がなんでそんなに優しいの。それだけでも、胸がいっぱいになって、涙が出そうだ。

「はい」

 声が震えた。


「伊織さん?」

「なんか、胸がいっぱいで」

「……」

 佑さんが私の前髪を優しく上げ、私の顔を覗き込んだ。


 ああ、その目が優しい。眼差しが優しすぎる。

「幸せすぎて、泣きそうです」

「幸せすぎて?」

「はい」


「……僕もです」

 そう言って、優しく佑さんは私にキスをした。


 私の隣に佑さんは寝転がり、腕枕をしてくれた。

 ドキドキ。初腕枕だ。佑さんの腕って、筋肉質なんだ。


「…伊織さん」

「はい」

「伊織さん」

「はい?」


「…伊織…」

 ドキン。呼び捨て?!

「さん」

 違った。


「はい…」

「すみません。僕も幸せ満喫中です」

「え?」

「やばいですね」


「やばい?」

 佑さんは、腕枕をしていない手で自分の目を隠し、しばらく黙り込んだ。

「あの」

「僕は、実を言うと、あと何か月も待たされる覚悟でいたんです」


「え?」

「だから、ちょっとびっくりというか、いきなりのことで、突然過ぎて、かなり舞い上がっています」

 舞い上がる?


 佑さんは顔をこっちに向けた。そして、私の髪を優しく撫でて、

「大丈夫ですか?」

と、また聞いてきた。


「え、はい」

 何で何度も聞いてくるのかな。

「痛かったですよね」

 ドキ!それで?私、痛がっちゃったから?


「あ、あの、でも、その、今はもう大丈夫です」

「そうですか」

「それに、佑さん、すごくすごく優しかったし」

「……」

「だから、全然…」


「はあ…」

 ため息?

 腕枕を外され、ギュウっと抱きしめられた。

 ドキン。


「伊織さんは、可愛かったですよ」

 ひょえ!

 そんなことを言われるとは。


「あ、あの、でも、この年で初めてとか、引きましたよね」

 思わず、可愛いという言葉に照れてしまい、わけのわかんないことを聞いてしまった。

「いいえ」

 うわ。いいえという声まで優しいよ。


「で、でも、賞味期限ぎりぎりですよ」

「なんですか、それ」

「クリスマスケーキだったら、賞味期限ぎりぎりなんです」

「ケーキ?」


 佑さんは、私の顔をじっと見ながら聞いてきた。

「美晴に言われて。私、もう25で、ほら、クリスマスケーキ、25日までに食べないと、26日じゃ、アウトですよね」

「ああ、なるほど」


「だから、そのっ」

「じゃあ、一番おいしい時に食べれたってことですね」

 ええ?!!!

 一番、美味しい?!!!


 何そのたとえ。ど、どうしよう。なんかもう、顔、見れないかも。恥ずかしいよ。


「くす」

 あ、笑ってる。

「今も可愛いですけど」

 ドキ。また可愛い?


「今までもずっと、可愛かったですよ」

 え~~~!

「すぐに真っ赤になったり、一生懸命だったり」

 うわ~~~~。恥ずかしい。


 思い切り、佑さんの胸に顔をうずめて隠した。そんな私の髪にキスをして、佑さんはまた抱きしめてきた。

「明日、起きれるかな」

「ですよね。目覚まし、早めにかけておきます」


 わたわたと、佑さんの腕の中から抜け出し、布団から手を出して時計を手にした。そして、

「何時に起きますか?」

と聞くと、

「5時半ごろかな」

と言うので、5時半にセットした。


「今、12時なんですね」

 佑さんは、布団の脇に置いた時計を見てそう言った。

「はい」

「5時間半は寝れるか。あ、電気消しましょうか。真っ暗なほうがいいですか?」

「うわ~~~~~っ」


「え?」

 布団から出ようとしていた佑さんが、ものすごくびっくりしながら、動きを止めた。あ、やばい。佑さんのお尻が見えた。慌ててグルッと布団の方に視線を移し、うつ伏せになった。


「消していいんですか?」

「はい」

 電気を消すと、佑さんは布団に入ってきて、私を抱き寄せた。


「僕の裸を見て、叫んだんですか?」

「いいえ。あ、えっと。見てませんから」

「いや、別に見てもいいですけど」

「私は、見られるの困ります」


「…今さら、それ、言われても、もう見ちゃいましたけど?」

 やっぱり~~~~~~~~~~~~!!!

「電気、ついていたんですよね」

「ああ、はい。すみません、気になってはいたんですが、伊織さん、何も言わないから」


 ぎゃ~~~~~~~。なんか、そこまで気が回らなかったと言うか、キスだけで、脳みそ停止したから。

 

 掛け布団もさっきは、佑さんがどこかにほっぽっちゃってたし、しっかりと裸見られたよね。

 っていうか、もう見ちゃいましたけどって、佑さん、さらっとそう言っていたよね?


 しばらく私は恥ずかしがっていたが、佑さんからすーすーという寝息が聞こえてきて、私は佑さんの腕の中で、安心しながら眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ