AM7:05
椀子そばのように、次々と人を呑み込んでいく駅。俺も同じ穴の狢となる。
改札を通り、ホームにできていた列に並んで電車を待っていると、すぐに後ろから誰かが来た。
「あ゛ー、死ぬかと思った」
幼馴染だった。
「お帰り」
「お前なあ……今回はマジでヤバかったんだぞ!
気がついたら大草原だわ、馬車の周りには血まみれの人が倒れてるわ、しかも血で真っ赤になった剣を持った連中がわんさかいるわで」
「良く無事だったな」
「ああ、更に通ってきた穴が閉じかけてたから、ヤバイ連中蹴飛ばしながら無理矢理こじ開けて這い戻ってきた」
「それで赤かったのか」
後ろを見ると、こいつの歩いてきた足跡が赤く残っていた。
「うげ……マジか」
「えんがちょ」
「古いわ」
適当に幼馴染と駄弁っていると、耳に優しいメロディと共に駅員のアナウンスが聞こえてきた。
『三と二分の一番ホームに参ります列車はあああ~んっ♪ けやき坂発ぅううう~ん、異世界行き快速急行ぉおおおぁああ~ん♪』
「……」
「……」
なんてオカマっぽいアナウンスなんだ。
「どうやらホームを間違えたらしい」
「なんで間違えたんだろうなぁ……行こう」
「ああ、急ごう」
ホームの時計を見る。いつも乗っている列車は出てしまっているが、次のに乗ればまだ何とか間に合う。
念のため、普段から一本早いのに乗っていて良かった。皆勤賞は逃せない。
「待つのだ少年よぼぅおおお!?」
列を離れようとしたら、スーツを着た砂漠化の激しいおっさんが立ちふさがったので金的で沈ませた。
最近は男相手の痴漢も出ると聞くからな。世も末だ。
呻くおっさんの声と、ホームに入ってくる猫型列車の「にゃあああああ」という警笛の音を背中に、俺達は本来のホームへ向かった。
いつものホームに着き、向かい側のホームの屋根の上で羽を休めている雀やハーピーを眺めていると、見慣れた箱形の列車がやって来た。
満員一歩手前の列車から学生やサラリーマンやOLや騎士が吐き出され、入れ替わりに俺達や他の乗客が乗り込んでゆく。反対側の扉の近くが空いていたのでそこへ滑り込んだ。
俺達の周りは、たちまちランドセルを背負った耳の長い児童達で一杯になった。小学校から電車通学とは恐れ入る。
「何とか間に合ったな」
「ああ」
自動扉が閉まり、後ろに流れる景色を何とはなしに見る。ホームを抜け、低い住宅地を見下ろし、鉄橋を越え、ビルやショッピングセンター、闘技場などが見え始める。
それにしても、あのビルの『水兵服反逆同盟(株)』とは一体何をしている会社なのだろうか?
『次は学園都市ぃぃいいい~ん♪ 学園都市でごじゃいましゅうううう~っ♪』
乗った時にも聞いたようなオカマっぽいアナウンスが聞こえ、列車は最近になって見慣れてきた駅のホームへと滑り込んだ。……この駅員、双子なんだろうか?
新たな謎を残し、様々な制服を着た少年少女達と一緒にホームへ降り立つ。セルフサービスである偽のベルトコンベアの流れに乗り、俺達は駅の口より吐き出された。
「さあ、行くか」
「ああ」
「そうねぇええええん♪」
「あんたは仕事をしろ」
「あたし、不器用なのよおお~ん♪」
「よくオーバーランしなかったな」
何故か横にいたオカマ駅員を丁重に蹴り返して返品し、俺達は歩き始めた。
目的地は、小洒落た駅前の繁華街を抜けたその向こう。なだらかな丘の上に見える白亜の学舎。
俗に「ふあ高」と呼ばれる、私立不安多爺学園高校である。