AM??:??
――気がつくと俺は、白い世界にいた。
別にスキー旅行に来たわけではない。見渡す限りの何もない真っ白な空間に、突っ立っていたというだけである。
要するに夢だな。自覚のある夢……明晰夢だったか? どうでも良いが。
まずは状況を確認しよう。自分の手足は……ちゃんとあるな。パジャマだが服も着ている。お気に入りのクマさんパジャマだ。
裸足で床を踏んでみると、滑らかで固い感触が返ってくる。特に冷たくはない。
さて、俺自身は普通のようだが、これからどうしようか? 自然に目覚めるのを待つか、適当に歩き回ってみるか――。
「これ、少年」
突然後ろから男の声。だが、そんな事もありそうだなと思っていた俺は驚かない。お約束だな。
「なんでしょう」
堂々と振り返ると、いかにも神様然とした白ローブ姿のオッサンが立っていた。だが、思いっきり日本の中年サラリーマン顔である。
おデコの環境破壊と砂漠化が進み、最早おデカになっている辺りが哀愁を誘う。
「何がおデカだ」
心を読まれるのもお約束だ。
「あなたのことです、デカ長」
「誰がデカ長だ!」
「格好良いじゃないですか、刑事○ジャックみたいで」
「ツルッパゲではないか!?」
「ではピカー○艦長」
「同じだああああっ!!」
頭に血が上り、デカ長からタコ長に進化しようかという瀬戸際になってようやく我に返ったらしく、深呼吸の後に極めてわざとらしい咳払いをした。
「……私は神だ」
今までのやり取りはなかった事にされたようだ。別に構わんが。
「珍しい名字ですね」
「名字じゃない、神だ」
「珍しい名前ですね」
「名字でも名前でもないわ!」
「珍しいニックネームですね」
「……」
「うちのカミさんがねぇ?」
「……ぐす」
泣くなよ、いい年したおっさんが。
「泣くなよ、いい年したおっさんが」
「心と口で二度も言うなあああああ!」
「大事な事ですから」
そしてお約束です。
「……話が進まんから先に進むぞ。私も暇ではないのだ」
メタな発言もお約束である。嗚呼、素晴らしき王道なり。
「奇遇ですね、俺もです」
「…………まあ良い。少年よ、新しい世界で勇者になってみ――」
「みません」
「……」
「……」
白い空間に白い空気が流れた。
「即答か」
「即答です」
異世界とはいえリアルで人から勇者と呼ばれるなんぞ、羞恥プレイもいいところである。
それこそ勇者だ。
「今なら、チート能力も付くが」
「いりません」
政治的権力とか隷属魔法とかで雁字搦めにされるだけだろう。もしくは金と女か。
元の世界への送還を餌にして脅すという可能性もあるな。
「ハーレムだって作れるぞ?」
「ドロドロの人間関係は御免です」
男の愛をパイでもって奪い合い、血で血を洗う争いに明け暮れる女達。表でも裏でも刺しつ刺されつ。
そんなのは各種メディアを通じて客観的に見るから面白いのであって、当事者なんぞなりたくない。女の実家の利権争いも加わって、修羅場もいいところだ。
挙げ句の果てには、後の世に後継者争いまで生み出すという泥沼の極み。
「その気になれば、世界征服だってできるぞ?」
「征服しちゃったら、それは勇者じゃなく魔王です」
それに世界統治なんて面倒だ。魔王の次は内部腐敗や反乱勢力、飢饉、疫病、インフレやデフレなどと戦うのか。
それならまだ、お米券の方が余程マシである。
「じゃあお米券」
「…………こ、こ、断る」
少し心が揺れ動いてしまったが、何とか踏み留まった。
「何故、頑なに断る!」
「何故、あなたがやらないんですか」
だって神なんだろ?
「……やむにやまれん事情があるのだ」
「そんなの知りません」
どうせ神どうしの力関係やら管轄やら、そういう理由だろ。
もしくは、自分のやらかしたミスが発覚する前に秘密裏に処理したいとか。
「うっ」
「図星か」
「……頼む!」
「嫌です。人の尻ぬぐいをする趣味も時間もありません」
そろそろ起きないと、学校に遅刻するんじゃないか?
俺は皆勤賞という夢がある。 記念品のシャーペンが是が非にもほしいのだ!
コイツと運動会の参加賞のノートだけは、誰にも譲れない。
「頼む! このとお――ぐふっ!?」
「帰ります」
恐らく土下座だろう、屈もうとした自称・神のアゴにカウンター気味の膝蹴りを食らわせる。神は白目を剥いて崩れ落ちた。アーメン。
そして俺は目を覚ますべく、目を閉じて強く念じた。