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眠れぬ夜は温もりを

作者: lazurite

ある世界の、ある国の、ある高級娼館の、女主人と自分の子供同然に可愛がられている幼い少女と、女主人の男の話

眠れぬ夜は温もりを



 まっくらやみ・・・


 なぁんにもみえないまっくらのなか。


 また、ひとりになったの?


 また、わたしのそばに、だれもいてくれないの?


 -------------おかぁさん。



「・・・ひっ・・・ぅ・・・くぅ・・・かぁさまぁ・・・」


 ふかふかのベッドの上に座り込み、大きな瞳から流れる涙を両手で懸命に拭いながら、母を呼ぶ幼子。

 何も分からないうちに捨てられ、一人で生きて来た幼子は温もりに触れてしまった。


 それだけで十分、母を恋しがる理由になる。


「・・・かぁさま・・・・ふぇ・・・ぇっ・・・」


 子供一人にしては広いベッドの上で、声を殺して泣いている。


 キィイ・・・


 微かな音を立ててドアが開かれる。


 反射的に振り返り、そこから入る灯りに目を細める。


「エリィ・・・どうしたの?」


 訝し気な女の声に、吃驚して止まっていた涙がまた溢れ出す。


「あらあら・・・怖い夢でも見たのかしら?」

「かぁさまぁ・・・っ!」


 手を伸ばして温もりを求める幼子を抱き上げて、ベッドに座り、その背をゆっくりと撫でてやる。


 ワードローブを握りしめて、安心したとばかりに泣き出す幼子に優しく問いかける。


「ひとりが・・・怖かったの?」

「・・・」


 こくこくと頷く幼子に微笑み、その小さな体を包み込む様に優しく抱きしめる。


「もう大丈夫よ。かぁさまがここに居てよ?お前を抱きしめているでしょう?」

「・・・セラ?」

「あら・・・貴方も起きてしまったの?」

「あぁ・・・その子供は?」

「拾ったの。私の子よ」


 さらりと言い放ち、腕の中の幼子の頬にキスを送る。


 男が現れた事で身を固くして、さらに彼女にしがみつく幼子に苦笑する。


「驚かせてしまったか・・・俺は恐い顔をしているか?」


 彼女の隣に座り、優しく笑いかけながら幼子と目を合わせる。


「子供が起きているような時間でもないが・・・怖い夢でも見たのか?」

「・・・また、一人になる・・・真っ暗な夢見たの」


 そうかと頷いて、ヒョイッと子供を抱き上げて彼女にも立つ様に促す。


「あっちの広いベッドで三人で寝よう。お前も、それなら怖い夢を見るまい?」

「ぅわ・・・ぁ・・・」

「それにしても、凄い色合いの子だな?俺と君の色を足したような感じだ」


 男は金髪に碧眼で、女は髪も瞳も蒼銀。

 幼子は光の加減では金にも銀にも見える髪、銀の混じった緑色の瞳である。


 いつも柔らかな女の腕に抱かれていたためか、男の力強い腕に抱き上げられ驚いている。


 そんな幼子に構わずに部屋を移動し、広いベッドの真ん中に寝かせ、自身もその隣に体を横たえる。


「セラ」

「まぁ。シィンったら、本当に嬉しそうねぇ」

「嬉しいさ。何か新鮮だ」


 くすくすと笑いながら、子供を挟んで反対側に身を滑り込ませる。

 しっかりと毛布をかけてやりながら、幼子の額にキスをする。


「お休み、私の可愛い子。良い夢を」

「お休み、小さな子。今度は怖い夢は見ない」


 大きな手が幼子の頭を撫でて眠る様に促す。


「おやすみなさい・・・かぁさま、とぅさま・・・」


 再び安らかな眠りについた幼子の顔を見つめ、驚いたような表情で呟く。


「父様?俺が、か?」

「あら、良いのではなくって?嬉しいのでしょう?」

「いや、嬉しい事は嬉しいが・・・俺が父親でこの子は良いのだろうかと」

「良いから父様と言ったのよ。だっこされて嬉しかったのねぇ」


 幼子の額にかかった髪を払い、安心しきった寝顔を眺める彼女は穏やかな笑みを浮かべている。


 起きてしまわない様に、小声で話しながら二人で幼子の寝顔を眺める。


 そして、穏やかに夜は過ぎて行く。




 ------数年後。


「・・・セラ様」


 溜息混じりに名を呼んではみたものの、その後にどう続けて良いか分からず溜息を吐く。


「なぁに?可愛いエリィ」

「私には過ぎた品です。受け取れません」

「あら、どうして?母が娘の為に買って来たのに・・・気に入らない?」

「そんな!とんでもないです。ただ、私に似合わないだろうと思ったので・・・」


 悲しそうな顔を見せた主に思いっきり動揺し、慌てて言い訳をするが、逆に言い切られる結果となる。


「似合わないはずがないわ。私がお前の為に似合うものを選んで来たのだから」


 ---似合わないものなど、最初から選ばない。


 きっぱりと言い切られる。


 そしてにっこり笑って、主は彼女に腕の中のワンピースを手渡し、隣の部屋を指す。


「着て見せてちょうだい。私の見立ては確かなのだから。絶対に似合うわ」


 諦めて示された部屋に入り、服を着替える。


 シンプルなデザインのワンピースは淡い色の生地にそれよりも少し濃い色の糸で刺繍が施されていて、なかなか凝った作りになっている。


 腰のベルトリボンを後ろで結び、部屋を出る。


 待っていたのは主と、もう一人。

 金髪碧眼のもう一人の主。


「・・・これで良いですか?・・・シィン様、お久しぶりです」

「ほら、やっぱり私の見立ては確かでしょう?」


 にこにこと崩れている所を直してやりながら言う女。


 深々と頭を下げて礼を取る彼女に、シィンと呼ばれた男は深い笑みを刻む。


「エリィ。昔みたいに抱きついて頬にキスをしてくれないのかな?」

「・・・シィン様」

「あら、駄目よシィン。私にだって最近してくれないのよ?」

「セラ様・・・」

「それは悲しいな・・・久しぶりだから、娘のキスが欲しかったんだが・・・」

「甘えてもくれないのよ?淋しいわよねぇ・・・」


 二人同時に溜息を吐かれ、じっと見られる。


「お二人とも、戯れ言もいい加減になさって下さい・・・」

「あら、戯れ言だなんて・・・私の娘なのに」

「俺達は本気でお前を娘だと思っているのに、戯れ言などと・・・」

「だって・・・」


 -----私は拾われた子供です。


 そう言いたいのに言えない。


「シィン。エリィが困っているわ・・・でも、そうね。この部屋に居る時は『父様、母様』と呼んでちょうだい?」

「あぁ。それは良いな」

「ね?良い考えでしょう」


 にこやかに笑いあう主二人に、何を言って良いか分からなくなる。


「お前は私達の子供なんだから、遠慮しなくていいのよ」

「もっと甘えていいんだ」


 抱きしめられ、頬にキスをされ、頭を優しく撫でられる。


「ありがとうございます・・・・・母様、父様」


 雫が一粒、頬を伝う。




end


前に投稿した話の、そこへいたる前の、ほのぼのとした日常の一コマです。

今回、やっとキャラの名前出てきました(笑)



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― 新着の感想 ―
[一言] 前日譚があると知ってそちらを読んで、ちょっと(どころじゃないけど…)打ちひしがれて、また戻って来たり。僅かな情報量なのに、これほどまでに想像力を喚起させるとは。エリィが輝いていた頃をもっと知…
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