転生したら負け犬令嬢だったけど何で悪役令嬢に溺愛されてるんですか?
百合です。そこそこバッドエンドです。
死んだと思ったら、前世で遊んでたゲームのライバル令嬢のレティーシアになっていた。細かい事はあとで説明するけれど、そんな事より今は全く予想もしていない一大事が起きている。
どうして私は、悪役令嬢に膝枕をされているんだろうか?
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乙女ゲーム「エタニティ・ローズの誓い」は古い据え置きゲームで、1周だいたい10時間程度の中難易度ゲームだった。プレイヤーは聖女ミザリ(名前変更可能)となって、街中の瘴気を浄化したり教会に届く依頼こなしながら物語を進めていく。
その合間に男キャラの好感度をあげたり簡単なバトルをしたりと、比較的やりこみ要素の多いゲームだった。
ソーシャルゲーム時代の今、移り変わりやイベント配信の早さに疲れた私にとって、やり込み要素が多く、長く遊べるこのゲームが心地よかった。時間を見つけてはチマチマとコンプリートを目指して再配信版を遊んでいた。
その恋愛パートの貴族キャラの恋敵として用意されたのがレティーシア……つまり、今の私である。デートに割り込んだり、何かと主人公に張り合う、ゲーム上ではかなり面倒くさい令嬢キャラ。
しかし、その負け犬っぷりと子供のような陳腐な捨て台詞を吐く様子、意外とチョロい性格でファンの間では地味に愛され「負け犬」「わんこ」と呼ばれていた。
前世を思い出したのは、まさに負け犬丸出しで聖女に突っかかって攻略対象の1人に追い払われた後。
「ンもぉー! 次こそはアンタなんかに負けないんだからね! 今に見てなさいよ!!」
そうハンカチを噛みながら走り去ろうとして、石につまずき顔面強打をした瞬間だった。
散々ウザ絡みをした上で勝手に言い負かされて勝手に転んだ馬鹿令嬢にも優しく「だ、大丈夫…?」と声をかけてくれる聖女ミザリはやはり優しい子だと思う。
突然の記憶に驚きながら、帰路に着く馬車に転がり込んだのも今では良い思い出だろう。
とにかく、前世を思い出した以上、ミザリのやる事を邪魔する気はない。ウッカリ選択をミスるとこの国が滅んでしまうからだ。しかし、逆に考えれば彼女の邪魔にならなければ私は何をしてもいいのでは?
ほどほど聖女に絡んで物語を進めつつ、最終的に彼女とフラグの立っていない貴族キャラを狙っていこう!そう強打した鼻を押さえながら一人、馬車の中で誓った。
「ん゛!そうよ、目指せほどほどのハッピーエンド!」
当初の私はそんな舐め腐った考えを持っていた。
しかし、いざ冷静にあたりを見渡すと攻略対象貴族男はみんな聖女の虜。負け犬女が入り込む余地なんてなかった。
もしかすると市井の平民キャラはまだ可能性があるかもしれないが、負けても犬でも私は子爵令嬢だ。平民との婚姻なんてそう簡単には望めない。
貴族キャラはあきらめて貴族階級であればモブでも、ゲームに登場しない人でもいいから手頃な婚約者を探すため夜会に父や兄たちと参加して、人脈を作る日々を過ごすことにした。
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その日は大規模な夜会で、父と兄は早々に同派閥同士で難しい話をするかと私を放置。同世代の貴族令嬢はほとんど婚約者なり今後の生き方なりを決めているので話が合わない。誰と何をする気も起きず、ワインを飲みながら会場をふらふらしていると、壁際にすらりと背の高い見慣れない青年が一人静かにたたずんでいた。
前髪を整髪剤で撫で付け長い黒髪を後ろで結い、細身の礼服に身をまとった、真っ白な肌に妙に赤い口。
なぜか目が離せなくなり、形通りの挨拶をかわし、最初は当たり障りのない話から始めた、という事は覚えている。
だんだんとワインが回ってきて、婚約者がいないとか出会いがないとかをヤケクソで話したのも、一応覚えている。
少し高めの声で「それなら私はいかがですか?」と言われたのを「全然ありです結婚しましょう」と言ってしまったのもうっすら記憶にある。
その細められた黒い目がどこかで見た事あるなーなんて、のんきに思いながら新しい瓶からワインをグラスに注ぎ、一気に飲みほしたところまでは、ギリギリで記憶があったのに。
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そして、目が覚めてイマココだ。
「やっと起きましたね」
そう、長い黒髪、白い肌に赤い口。そして大きくはないが確実に「ある」胸。
「思い出したわ、あなた、コーネリア家の、侯爵令嬢……」
「わたくしの事ご存じでしたの? 驚いた」
全くそう思えない口調でころころ笑い、白く細い指が私の頬を撫でる。
知っているもなにも、カミラナ・コーネリアは冒険パートのラスボス。私と違って正真正銘の「悪役」令嬢だ。
だんだんと戻ってきた意識で見渡すと、私が寝そべっているのはふわふわで豪華な天涯付きのベッド。しかしそれがある部屋は石造りの質素な壁と床に、使い込まれた作業机と古い本がぎっしり詰まった本棚。
全てがちぐはぐのおかしな場所だった。
「どこですかここ…」
「覚えてないの?自分でついてきたのに」
「ごめんなさい全く…」
コーネリア曰く、あの後酔いつぶれた私はあなたの嫁になるこのまま行くと駄々をこね、面白がった彼女はそのまま自宅である侯爵邸の離れにある、彼女の部屋につれてきた、という事だった。
「もっと驚くかと思ったわ」
「いやぁ…さすがにこのやらかしは…結構驚いてますけど」
「じゃなくて、わたしの部屋なのよ、ここ。そうは見えないでしょ?」
「ああ、えっと…」
確かに、高位貴族用の牢獄と言われても少し納得できそうな場所に気まずげに視線をそらした。
コーネリアは「悲劇の悪役令嬢」だ。
母親は彼女が生まれてすぐに亡くなり、父とその再婚相手には蔑まれ、腹違いの弟妹と差別をされて物置や兵士の一時待機所であるこの離れに押し込まれて育った。高い魔力があり、王太子の婚約者第一候補だったのだが、聖女が現れた事でその存在が不要とされた哀れな令嬢。恨みと羨望を闇魔術に変えて、国を乗っ取ろうとした恐怖の魔女となる予定の女……。
「そんな方に、なんで膝枕してもらってるんでしょうか私」
「だってあなた、私に求婚したじゃない?」
それはうっすら記憶にある。
「だって男性だと思ったので。貴族の夜会にいて女連れじゃないけど、礼服姿だから使用人とかでもなさそうだったし、伯爵令嬢の私ならいけるかなって」
「うんうん」
「嫁入り先なくって」
「私もよ」
「ええ、お互い聖女のせいで困ったもんです」
「よく知ってるわね。聖女が出て婚約白紙なんて公表してなかったのに。情報通な子は好き」
「でも、あのパーティーにいらしてるとは聞いてませんでした、男装してるとも」
「うん、行かない予定だったのよ、でもね」
そこで言葉を区切って少し悩んだそぶりを見せる。
あどけない少女みたいだと思った矢先、その赤い口がニィと大きく裂けるように広がる。
「憎い人たちを、見に行きたくなったから忍び込んだの」
自分を追いやった自分の家族、自分の立場を奪った女、あっさり見限った男とその家族、みんなみんな。
自分が捨てて潰す存在が輝いてる瞬間を見ておこうと思ったのにーー。
「あなたに見つかっちゃって」
「ごめんなさい」
「隠匿魔法を使ってたのに」
「直感で生きてる犬令嬢で本当にすみません」
「でも、わたくしね、見つけて貰うのも、求婚されるのも初めてだったから」
――だからあいつら、どうでもよくなっちゃった。
そういうと裂けたような口はスゥっと形の良い唇にもどり、私のひたいに小さな口づけを落とした。
その唇があんまりに冷たくて、それが寝ぼけた頭に気持ちが良くて優しくて、「これも悪くないな」と思ってしまったのだ。
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かくして私はコーネリア侯爵家の分家である子爵家の長男、カミオ・ネリアと運命の出会いを果たして結婚した……
という建前でカミラナの妻になった。
闇魔術で分家を乗っ取り、存在しない長男になり替わった悪役令嬢カミラナ・コーネリアと、その口車にのった負け犬の私。
下手な男に嫁ぐより、カミラナ…カミィの側でネリア夫人になった日々はとても満たされていた。細い白い指で触られて、高い声でレティと呼ばれるのはとても心地いい。あんなに憧れた他の貴族男子に媚を売っていた時よりも、胸が熱い。
「子が成せないのが問題よね」
「できるわよ? 禁呪だけど、私とあなたの体液と錬金術の秘薬で。ガラス瓶で作るもよし、赤子の素をあなたの腹に入れ直して育てるもよし」
なんという将来安泰。
よく考えれば、聖女はきちんと攻略対象と愛を育んだ。私は聖女に負けてテキトーな家と婚姻をした(事になっている)。悪役令嬢は闇魔法で違法な洗脳と家乗っ取りをして自分の望みのため日々悪事に励み、禁呪にも手を出している。愛を知らない悪役令嬢が憎悪で国家乗っ取りを企む以外、シナリオ通りになったじゃないか。
昨日届けられた新聞には、王太子と聖女が婚約を結んだ報せが掲載されていた。1年の王妃教育、その後1年の実務を以て正式な結婚、その後に正式に王位を継ぐ事になるらしい。
なんというハッピーエンド!
生ぬるい事を考えながら私はカミィにしなだれかかる。背が高くて、細くて、でも柔らかくて甘くていい匂い。
「カミィ、ありがと。好きよ」
「あらまぁレティ、今日も甘えん坊ね。私の可愛い可愛いパピーちゃん」
負け犬から愛玩子犬になった私は今の平和と幸せを精一杯かみしめるのだった。
そう、これは私にとって、目標通りのハッピーエンド!!!
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「ハッピー、エンド…」
赤い口を小さく歪めて、恐怖の魔女は呟く。
それはまだ彼女が魔女と呼ばれるより少し前、カミオという嘘の身分でいた時代、ほんの短い間だけ婚姻関係にあった女の口癖だった。
楽しそうにそう言う彼女に「なぁにそれ?」と尋ねると、無垢な子犬のような顔で好きな言葉だと答える。そんな単純で少しおバカで粗忽で、誰より愛おしい女との些細なやり取りを魔女は愛していた。
恐怖の魔女は物心ついた時から賢かった。産まれてすぐに母は死んだ。父も継母は魔女を疎ましく思っている。使用人は最低限しか話さない。家庭教師も必要な教本を渡し、課題を置いていくだけだった。身近な人たちは誰も、何も教えてくれない。それでも魔女は賢かったので勝手に学んで、勝手に全てできるようになった。
だから、全て初めてだった。
「ごきげんよう、お一人でしょうか」
「全然ありです。むしろ理想的、アナタがいい。絶対アナタじゃなきゃ。結婚しましょう、お嫁さんにしてください!」
「これ? 私の好きな言葉なの。幸せな終わりって素敵じゃない?」
「カミィ、カミィ!すごいお腹動いた!もうすぐ産まれてくるってお医者も、えっすご、やばっ」
誰にも見つからないようにしていた彼女を見つけてくれた。
誰からも求められない魔女が良いと求めてくれた。
誰からも教えられない魔女の疑問に答えてくれた。
禁じられた魔女の技術を受け入れ、喜んで、家族になってくれて……。
あの子は全てをくれた。
あの子がいれば、魔女は何もいらなくて、他の誰にも興味がなかった。
だから、元婚約者候補だった王太子が聖女と結婚したのも興味がなかった。その祝い事の恩赦によりいくらかの軽犯罪者が減刑をされ、雑な査定で世に放たれたのも興味がなかった。元犯罪者たちの一部が金欲しさに手を組み、ネリア子爵家に盗みに入った事も、正直に言えば興味がなかった。
ただ、偶然居合わせた愛しの子犬を辱めて、腹の子ごと殺したことは、見過ごせなかった。
「悪役になるはずだったカミィと、負け犬の私がちゃんとハッピーエンドになってよかったわ。アナタ洗脳とか、悪い事してるけど。大丈夫、ちゃんと私たち幸せになっててギリギリ許容範囲で誤差の範囲だから。セーフよ多分」
そうあの子は言っていた。悪い事も、幸せのためで誤差の範囲なら大丈夫らしい。
だから、乗っ取る範囲を子爵家でなく国家単位にしたのも誤差の範囲。
我が家の平和を壊した犯罪者だけでなくそれを許した王族とその家臣ども、そんな奴らを生み出したこの世界全部を憎んで滅ぼそうとしたのも、きっと誤差だと嗤ってくれるだろう。
魔女の屋敷の外に人の気配がする。きっと自分を倒しに来た『勇者の血を引いた王子様』だか『聖女』だかと呼ばれる人間だろう。手下の化け物たちに倒されればそれまでだが、ここまで来るなら相手をしてもいい。
「ふふ、目指すは私とあなたのハッピーエンドよね、レティ」
そう呟く魔女の幸せはもうこの世のどこにもいなかった。
ライバルキャラと悪役キャラの違いってなんだろうと考えてたらカップリングにしていました。
ワンコ系のちょっとおバカだけど元気な子が好きです。そんなワンコを人生の光にして激重感情向けるボス級キャラが好きです。
物語の輪から逃げて自分の幸せを掴もうとする「ゲーム・物語世界転生」も好きです。
「結局世界は元々の主人公でのためにあり、どんなに改心しても善性に変わってもライバルも悪役もそのために潰れていく」結末も好きです。




