中編
「お、お嬢様……。さすがにそれは、その、……無理があるかと」
侍女のアナが、引きつった笑顔で私を見ている。無理もない。
私が王都の路地裏から、泥だらけでガタガタ震えている「不審者(に見える少年)」を拾って帰り、そのまま侯爵家の客間に直行させたのだから。
「無理じゃないわ。いい、アナ。彼は『宝物』なの。今すぐ最高級の石鹸と、お兄様の古い服でいいから清潔な着替えを用意して。あと、栄養価の高いスープも!」
「は、はあ……」
パニック状態のディミトリを、半ば強制的にバスルームへと押し込む。
数十分後。
湯気と共に現れた彼は、まさに「劇的ビフォーアフター」だった。
「…………え?」
リーゼが思わず手にした扇を落とした。
長い前髪を上げ、汚れを落としたその素顔。
うっすらとそばかすがあるけれど、鼻筋はスッと通り、まつ毛の長い大きな瞳は、どこか小動物のような愛らしさと、夜の湖のような静謐さを秘めている。
「……ディミトリ、って言うのね?」
「あ……はい……。ディミトリ・ルミナーク……といいます……」
「「ルミナーク!?」」
私とリーゼの声が重なった。
ルミナーク侯爵家。代々文官を輩出する名門で、確か次男が行方不明になっているという噂を社交界の端っこで聞いたことがある……。
「あなた、侯爵家の次男だったの!? なんであんな路地裏で野良ピアノなんて弾いていたのよ!」
「……家では、兄様が完璧すぎて……。僕は、ピアノしかできないし……。 父様には『音楽など、貴族の嗜みであっても生業にはならん』と言われて……。家を、飛び出してしまって……」
俯いて指を弄ぶ彼。
ああ、もう! 典型的! 典型的すぎるわ「才能が理解されない天才」ムーブ!
前世の推し「gein」も、最初は誰にも理解されずに独りで歌っていたってインタビューで言ってたわ!
「いい?ディミトリ様、よく聞きいて。あなたのピアノは、王国の宝よ。お父様が認めないなら、世界に認めさせればいいの。……ねえ、ディミトリ様。私と一緒に、世界を驚かせない?」
「せ、世界を……?」
私は彼の前に膝をつき、その震える手を優しく包み込んだ。
「私には見えるわ。あなたが王宮のホールで、何千人もの観客を涙させている姿が。そして、その横で私が……ふふ、がっぽりと……じゃなくて、最高の拍手を送っている姿が!」
思わず本音が漏れかけたが、私の目は至って真面目だ。
彼という「最高の商品」……失礼、「推し」がいれば、この世界のエンタメ界を独占できる。
そこに私の前世の知識と、リーゼの魔法が加われば——。
「——というわけで、リーゼ。あなたの幻影魔法を、彼のピアノに合わせて展開してほしいの」
数日後。エインズ伯爵家の広大な庭園に、特設の野外音楽堂(といっても板を組んだだけのものだけど)を作らせた私は、リーゼに作戦をぶちまけた。
「ミュウ、正気? 私の魔法は、せいぜいお花を散らしたり、風景を変えたりする程度よ?」
「それがいいのよ! いい、ディミトリ様がピアノを弾き始めたら、その曲に合わせて『光の粒』を降らせて。激しい曲になったら『雷鳴』を、静かな曲になったら『水底の光』を。……音楽を『視覚化』するのよ!」
前世のライブ演出だ。
スモーク、レーザー、プロジェクションマッピング。
それを魔法で代用する。
今のこの国の音楽会は、ただ座って静かに聴くだけの、退屈な「お勉強」のようなものばかり。
そこに、心臓を揺さぶるような音響(反響板の設置)と、幻想的な視覚効果(リーゼの魔法)を叩き込む。
「名付けて、『異世界ドームツアー・エピソード・ゼロ』よ!」
「ドーム……? 」
「ツアー……?」
ポカンとする二人。いいのよ、今はわからなくても。
私は早速、実家のツテをフル活用して「完全招待制・秘密のコンサート」の招待状を各方面に送った。
ターゲットは、流行に敏感な若手貴族と、何より「刺激に飢えている夫人たち」。
「お父様、お母様。ちょっとだけお庭を貸してくださいね」
「ミュウが楽しそうなら何よりだ。……おや、その少年が例のルミナーク侯爵家の? ……うん、いい面構えだ。頑張りなさい」
父は相変わらず甘い。
兄のアルフレッドも「宣伝なら任せてくれ。私の友人たちを全員呼んでおいたよ」と協力してくれる。
よし、舞台は整った。
そして、コンサート当日。
夕闇が迫る庭園に、招待された貴族たちが半信半疑の様子で集まってきた。
「エインズ伯爵令嬢の新しい遊びかしら?」
「婚約解消のショックで、奇行に走ったという噂もあるけれど……」
ひそひそと囁かれる陰口。
でも、私は舞台袖で不敵に笑っていた。
舞台中央には、磨き上げられた漆黒のピアノ。
そこに、最高に「盛った」衣装に身を包んだ、少し震えるディミトリを送り出す。
「ディミトリ様、深呼吸して。……大丈夫、あなたの後ろには私がついているわ」
「……ミュリエル様。僕……頑張ります。あなたの信じてくれた、この音で」
彼は意を決したように、ステージへと足を踏み出した。
静寂。
彼が最初の鍵盤に指を触れた瞬間。
——ドォォォォン!
重低音が響き渡ると同時に、リーゼの魔法が発動した。
何もない空間に、無数の「光の花」が爆発するように咲き乱れる。
観客席から「きゃあ!」という悲鳴に近い歓声が上がった。
そこからは、まさに「異世界のフェス」だった。
ディミトリが奏でる激しい旋律に合わせて、光の龍が空を舞い、幻想的な森の風景が客席を包み込む。
ただのピアノソロじゃない。それは、観客の感情をダイレクトに揺さぶる「体験」だ。
前世のバンギャの血が騒ぐ。
私は観客席の端で、誰よりも激しく(令嬢の嗜みの範囲内で)リズムに身を任せていた。
一曲、また一曲と終わるたび、観客の顔から「退屈」が消えていく。
最後の音が消え、リーゼが放った最大級の「オーロラ」が夜空を埋め尽くしたとき。
静寂のあとに訪れたのは、これまでの王国の歴史にないほどの、地鳴りのような拍手と喝采だった。
「素晴らしい……! こんなもの、見たことがないわ!」
「あのピアニストは誰!? どこに行けばまた聴けるの!?」
殺到する観客たち。
私は、隣で腰を抜かしているリーゼの肩を叩いた。
「ね? 荒稼ぎの……じゃなかった、新しい時代の夜明けよ、リーゼ!」
目の前で、呆然としながらも初めて「喝采」を浴びて涙を流すディミトリ。
その姿を見ながら、私は確信した。
これ、チケット代と物販だけで、私の持参金なんて余裕で倍にできるわ。
さらばロンバート。あんたの塩対応を思い出している暇なんて、一秒もなさそうよ!
「ねえ、ミュウ。これ、どういうこと……?」
コンサートの翌朝。リーゼが引きつった顔で私の自室に飛び込んできた。彼女の腕には、入り切らないほどの招待状と、文字通り「重たい」金貨の袋が抱えられている。
「どういうことって、大成功の証拠じゃない。リーゼ、あなたの幻影魔法は、もうただの『お遊び』じゃないわ。これは世界を変えるエンターテインメントの核なの!」
私は優雅にクロワッサンを頬張りながら、次々と届く夜会への出演依頼に目を通した。
前世の記憶にある「光の演出」と「音響理論」を、リーゼの魔法と我が家の財力で形にした結果は、想像以上だった。
社交界の夫人たちは「あの夢のような時間をもう一度!」と熱狂し、若手貴族たちは「あのかっこいい演出を自分の屋敷でもやりたい」と、もはや一種の信仰に近い状態になっている。
「招待状の転売まで起きてるらしいわよ。一枚につき金貨三枚で取引されてるって噂」
「転売ヤー!? 異世界にもいるのね……。対策しなきゃ」
私はペンを走らせる。
シリアルナンバーの導入、あるいは魔法による本人認証。前世で培った「チケット当選への執念」と「転売撲滅の知恵」がこんなところで役に立つなんて。
「それでね、ミュウ。……ディミトリ様のことなんだけど」
リーゼが少し頬を赤らめて、ディミトリのいるであろう客間の方を見た。
昨夜のステージで、彼は一躍「王国の宝石」となった。長い前髪を少し切り、エインズ侯爵家が用意した最高級の衣装を纏った彼は、儚げで、でも意志の強い瞳を持つ美青年へと脱皮したのだ。
「彼、あんなにすごかったなんて。……私、魔法をかけてる間、ずっと彼の音に聞き惚れちゃって……」
「あら、リーゼ。もしかして『推し』になっちゃったの?」
「お、推しって何よ! 違うわよ、ただのビジネスパートナーよ!」
慌てて首を振るリーゼ。ふふ、可愛いわね。
人見知りでコミュ障な天才ピアニストと、お転婆で才能溢れる幻影魔法使い。……これ、二次創作なら一番人気のカップリングじゃない? 尊い。
そんな私たちの和やかな(?)やり取りを、ド派手なノックの音が遮った。
「失礼します、お嬢様! ……ルミナーク侯爵家の嫡男、ヴァレリアン・ルミナーク様がお見えです。……かなり、ご立腹の様子で」
アナの報告に、私は「あ、ついに来たわね」と確信した。
行方不明になっていた弟が、突然エインズ伯爵家で「見世物(彼らの視点ではそうだろう)」になっていると聞けば、飛んでくるのも無理はない。
応接間に向かうと、そこには一人の青年が立っていた。
整った顔立ち。派手さはないが、育ちの良さを感じさせる洗練された佇まい。そして、何より——「弟を連れ去った誘拐犯」を見るような、冷ややかな瞳。
「エインズ伯爵令嬢。……うちの弟を、返してもらおうか」
ヴァレリアンの声は、低く、威圧感に満ちていた。
普通ならここで怯えるところだが、私は前世で何度も「運営への抗議メール」や「理不尽な上司の叱責」を乗り越えてきたOLだ。これくらい、ライブの機材トラブルに比べれば何てことない。
「返して、とは心外ですわ。ヴァレリアン様。私は、路地裏で泥に塗れて死にかけていたディミトリ様を保護し、その類まれなる才能に光を当てただけです」
「才能に光を? 貴族の子息を、芸人のように舞台に立たせることが、ルミナーク侯爵家への礼儀だとでも言うのか!」
ヴァレリアンが一歩踏み込む。
だが、その背後から、ひょこっとディミトリが顔を出した。
「……兄様」
「ディー! 無事だったのか! さあ、帰ろう。父上も心配……はしていないが、激怒されている。あんな見世物小屋のような真似はやめなさい」
ヴァレリアンの手がディミトリの腕を掴もうとした瞬間、ディミトリが力強くその手を振り払った。
「……嫌だ」
「は……?」
「僕は、初めて自分の音を、誰かに届けることができたんだ。ミュリエル様が……僕を見つけて、信じてくれた。……僕は、もう『ルミナーク侯爵家の恥』として屋敷の隅でピアノを叩くだけの生活には戻らない!」
ディミトリの叫びに、ヴァレリアンが絶句する。
彼は知らなかったのだろう。弟がどれほどピアノを愛し、そしてどれほど外の世界との繋がりを渇望していたかを。
「……ディミトリ様」
私はそっと、ディミトリの肩に手を置いた。
「ヴァレリアン様。あなたは弟君を愛していらっしゃる。それは見ていればわかりますわ。ですが、あなたの愛は『保護』であって『理解』ではなかった。……ねえ、ヴァレリアン様。一度、彼の演奏を『客席』からご覧になりませんか? 弟君が、どれほど多くの人の心を奪い、熱狂させているかを」
ヴァレリアンは、私を射抜くような目で見つめた。
怒り、戸惑い、そして——ほんの少しの、好奇心。
「……もし、私が納得できなければ?」
「その時は、私の首をお父様に差し出しても結構ですわ。……もっとも、私、これでも元バンギャ……じゃなくて、勝算のない勝負はしないタチですの」
私は不敵に微笑んで、予備の「VIP招待状」を彼に差し出した。
「次の公演は三日後。……その時、ヴァレリアン様が納得できたのなら、その時は私たちが彼を、そしてルミナーク侯爵家の名誉をもプロデュースさせていただきます」
「プロデュース……? 何を言っているんだ、君は」
ヴァレリアンは困惑したように招待状を受け取った。
その指先が、私の手に微かに触れる。
その瞬間、彼の冷たかった瞳に、少しだけ熱が宿ったような気がしたけれど——。
「……いいだろう。その三日後、この目で確かめさせてもらう」
彼は翻り、去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、私は心の中でガッツポーズをキメる。
「よし! リーゼ、ディミトリ様! 三日後の演出、最高にエモい……じゃなくて、感動的なやつに変更しましょう! ターゲットはブラコンのお兄様よ!」
「ミュウ、あなた、本当に婚約解消した直後の令嬢なの……?」
リーゼの呆れ声をBGMに、私の脳内ではすでに「ヴァレリアン・ルミナーク攻略プラン」が立ち上がっていた。
あんなに弟想いなら、弟が輝く姿を見せつければイチコロよ。
ついでに、その真面目そうな顔を、ヲタク知識でぐにゃぐにゃに溶かしてあげようじゃない。
こうして、私たちの「荒稼ぎ」は、ついに国を代表する名門貴族をも巻き込んだ、巨大なプロジェクトへと発展していくのであった。
運命日。
エインズ伯爵家の庭園に設置した野外特設ステージは、前回を上回る熱気に包まれていた。
しかし、今夜の本当のターゲットはただ一人。最前列のVIP席に座り、腕を組んで険しい表情を崩さない男——ヴァレリアン・ルミナーク侯爵子息だ。
「ディミトリ様、準備はいい? リーゼ、今日の魔法は『追憶』と『再生』よ。セピア色の光から、一気に鮮やかな極彩色へ繋いで」
「任せて。ミュウのプロデュース?理論、最近ちょっと怖いくらいだけど……やるわよ!」
舞台袖で気合を入れ、私はディミトリを送り出した。
今夜の彼は、あえて装飾を抑えた白いシャツ一枚。孤独な天才が、一筋の光を見つけるまでを物語として構成した「コンセプト・ライブ」だ。
演奏が始まった。
最初は、重く、苦しく、何かに怯えるような繊細な旋律。
リーゼの魔法が、観客席を薄暗い霧で包み込む。ヴァレリアンの顔が、弟の苦悩を映し出すような音色に歪んだ。
だが、中盤。
旋律が、一気に高音域へと駆け上がる。
光の粒が霧を払い、ディミトリの指先から黄金の音符が飛び出すかのように、ステージ全体が眩い光に包まれた。
それは、彼が「外の世界」と「自分を認めてくれる人」を見つけた瞬間の爆発。
「…………っ」
ヴァレリアンが、思わず席から立ち上がった。
弟のピアノは、もはや「貴族の嗜み」などという枠に収まるものではなかった。
そこにあるのは、一人の人間が魂を削って生み出す、圧倒的な「生命」そのもの。
最後の一音が夜空に溶け、リーゼが放った数千の花火のような光が消えたとき。
ヴァレリアンの頬を、一筋の涙が伝っていた。
「……負けだ。私の、負けだ」
終演後。
楽屋に現れたヴァレリアンは、憑き物が落ちたような顔をしていた。
彼はディミトリの肩を掴み、震える声で告げた。
「ディー。……済まなかった。私は、お前のこの音を、ずっと閉じ込めようとしていたんだな。……素晴らしい。お前は、ルミナーク侯爵家の誇りだ」
「兄上……!」
抱き合う兄弟。尊い。あまりにも尊い。
前世で「推しの和解」を見守るファンのような気持ちでハンカチを噛み締めている私に、ヴァレリアンが向き直った。
「ミュリエル嬢。……君は、魔女か何かか?」
「まぁ、失礼ですね。私はただの、熱狂的な『ファン』であり、『プロデューサー』ですわ」
「……君のような女性は初めてだ。弟の才能を見抜き、これほどの舞台を整え、頑固な私までをも……変えてしまった」
彼の瞳に、先日の冷たさは微塵もなかった。
代わりに宿っていたのは、私という存在を「一人の女性」として、深く、重く見つめる熱い光。
……あれ? これ、もしかして「フラグ」ってやつかしら。
だが、そんな感動的な余韻をぶち壊すように、怒鳴り声が響き渡った。
「どけ! 僕はここの婚約者だぞ! ミュリエル! ミュリエルはどこだ!」
聞き覚えのある、不快な声。
現れたのは、顔を真っ赤にして肩で息をしているロンバート・モンフォールだった。
……このタイミングで? 本当に、空気が読めない男ね。
「あら、モンフォール伯爵家の嫡男様。……いえ、『元』嫡男様でしたかしら? こんな夜更けに、何の御用?」
私はヴァレリアンの背後に守られるような形になりつつ、冷ややかに言い放った。
ロンバートは私を見るなり、指を指して喚き散らす。
「何の御用だ、じゃない! 今日、父上から聞いたんだ! 婚約が解消されたと! なぜ僕に一言の相談もなく、勝手に進めたんだ!」
「相談? ……あら、おかしいわね。手紙は読まない、お茶会には来ない。記念日も無視。コンタクトを取る手段をすべて断絶していたのは、どこのどなたかしら?」
「それは……! 君が、金で僕を縛り付けているのが不快だったから……」
「『金で売られた』っていう被害妄想、まだやっていらっしゃるの? いい加減、現実を見てはいかが? 我が家の援助がなければ、今頃あなたの家は没落して、あなたは路地裏で野良犬と一緒に寝ていたのよ」
私の容赦ない正論に、ロンバートが言葉を詰まらせる。
そこに、ヴァレリアンが静かに、でも重圧感のある一歩を踏み出した。
「モンフォール伯爵子息。……君は、自分の幸運をドブに捨てたようだな」
「 ルミナークの……ヴァレリアン様!? なぜあなたがここに……」
「私は、私の弟の恩人であり、私が心から敬愛する女性……ミュリエル嬢を、不当に侮辱する者がいないか見張っているだけだ。……君は、彼女がどれほどの価値を持つ女性か、一秒も理解していなかったようだが」
ヴァレリアンの冷徹な視線に、ロンバートが震え上がる。
そりゃそうよね。地方の伯爵家嫡男が、中央で領地経営を任されているルミナーク侯爵家の嫡男に敵うはずがない。
「ミュ、ミュリエル……やり直そう。僕が悪かった。君がこんなに有名になって、稼いでいるなんて知らなかったんだ。僕が横にいれば、もっと上手く……」
「お断りします」
私は、一ミリの迷いもなく切り捨てた。
「あなたは、私が何もない時……ただの『ミュリエル』だった時、私を愛そうとしなかった。そんな人が、私の成功を見てから擦り寄ってくるなんて、反吐が出るわ。……消えて。私の視界から、永遠に」
「……っ!」
ロンバートは、周りの観客や貴族たちの蔑むような視線に耐えきれず、逃げるように走り去っていった。
……ふぅ。これで粗大ゴミの完全撤去、完了ね。
「……ミュリエル嬢」
ヴァレリアンが、私の手を取り、その甲に優しく唇を落とした。
「邪魔者は去った。……これからは、私が君の『パトロン』、いや……もっと近い場所で支える存在になっても構わないだろうか?」
「え……?」
「君がプロデュースするこの輝かしい世界を、一番近くで見守らせてほしい。……もちろん、一人の男としてもね」
……ちょ、ちょっと待って。
この人、ブラコンなだけかと思ったら、攻略速度が「推しのライブ倍速視聴」並みに速くない!?
赤くなる私。それをニヤニヤしながら見るリーゼと、ようやく状況を把握して「え、兄様がミュリエル様を!?」と驚くディミトリ。
私の前世知識を使った「荒稼ぎ」と「推し活」は、どうやらとんでもない方向へと、猛スピードで加速し始めたようだった。




