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貞操逆転世界で、僕は希少な男子らしい  作者: きなこもち
第4章

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39/50

エピローグ 「拒絶の仕方を選ぶ」

 


 夜の部屋は静かだった。


 机の上には、保護局から渡された資料がまだ置かれている。

 最初に見たときほどの圧はもうない。

 でも、なくなったわけでもない。


 白い紙の束。

 整った文字。

 安全のため、保護のため、調整のため。

 どこを読んでも、間違ったことはあまり書いていない。


 それが、この世界のいちばん息苦しいところなのかもしれなかった。


 悪意なら分かりやすい。

 怒りなら反発しやすい。

 でも、正論で差し出される拘束は、拒み方まで難しい。


 ベッドに腰を下ろしたまま、僕は資料を一度だけ手に取って、すぐにまた机へ戻した。


 今日はもう、読み返す必要はない気がした。

 内容は頭に入っている。

 そして、それに対して自分がどう思っているかも、昨日よりは少し分かっている。


 拒絶は必要だった。


 あのまま曖昧にしていたら、僕はたぶんずっと同じことを繰り返していた。

 やわらかく笑って、少しだけ期待を残して、好かれている気持ちよさだけを受け取る。

 そして最後に、誰かを泣かせて、自分でも嫌になる。


 だから、拒絶できるようになったのは大きかった。


 でも、それだけでは足りなかった。


 断れば雰囲気は静かになる。

 歓迎はされにくくなる。

 話しかけにくい男子になる。

 保護局には“守りにくい男子”として見られる。

 玲那みたいに、拒絶をむしろ価値として読む人間もいる。


 ただ断るだけでは、この世界では生き残れない。


 かといって、全部受け入れて、何も考えず、全部管理される方へ寄るのも違う。

 それでは今度は、自分の意思の方が少しずつ薄くなる。


 拒絶か、服従か。

 前までの僕は、その二つしかないみたいに苦しんでいた。


 でも違った。


 そのあいだも選べる。

 線の引き方を、自分で決める段階がいる。


 どこまで受けるか。

 どこから先は譲らないか。

 誰にどう返すか。

 何を断って、何を引き受けるか。


 それはたぶん、ただ“拒絶する”よりずっと面倒だ。

 ずっと疲れるし、ずっと大変だ。

 でも、ここまで来た今の僕には、もうそうするしかない気がした。


 スマホを手に取る。


 通知は多くない。

 前より確実に減った。

 その静かさにまだ少し慣れない自分もいる。


 でも、前みたいにその通知の数で呼吸していた自分には戻りたくなかった。


 ひよりとのやり取りを開く。

 最後の文面は短い。


 **おつかれ。ちゃんと選んだね**


 それにまだ返していなかったことに気づいて、少しだけ苦笑する。


 ちゃんと選んだ。

 そんな大げさなことでもない気がする。

 まだ途中だし、今日だって保護局に“全部は受けません”と伝えただけだ。


 でも、その“だけ”が前の僕には難しかったのも事実だった。


 僕は返信欄を開く。


 少し考えてから、打つ。


 **まだ途中だけどね。たぶん、次はもっと面倒なことになる**


 送る。

 すぐに既読がつく。


 返ってきたのは、ほんの短い文だった。


 **それでも、前よりはちゃんとしてる**


 その言葉を見て、少しだけ息を吐く。


 前よりちゃんとしてる。

 それはたぶん、今の僕を、いちばん無理なく言い表している気がした。


 強くなったわけじゃない。

 器用になったわけでもない。

 ただ、前より少しだけ、自分のやっていることと向き合えるようになった。


 それだけだ。

 でも、その“それだけ”が今は大きい。


 しずくの言葉も思い出す。


 **自由はある。でも、歓迎はされない。**


 玲那の言葉も残っている。


 **欲しい側は、折れるのを待ったりしない。**


 澪さんの声も、静かに残る。


 **ここだけで全部済ませる場所にはしたくない。**


 ひとえの少しだけ人間らしい声も。


 **それは、何もかも拒絶するより、ずっと成熟した面倒さです。**


 どの言葉も、結論を代わりに出してはくれなかった。

 でも、そのどれもが、今の僕を少しずつ次の段階へ押している気がする。


 窓の外を見る。


 夜の色は濃くて、ガラスには部屋の明かりがうっすら映っていた。

 その中にいる自分の顔は、前より少しだけ静かに見える。


 好かれていたい気持ちは、まだたぶん残っている。

 楽な方へ寄りたい気持ちもある。

 誰かに決めてほしい夜だって、きっとこれからもある。


 それでも。


 もう、何も考えずに曖昧な方へ戻ることはできない。

 拒絶できるようになったから。

 その痛みの方が、本当だと知ってしまったから。


 だから次に必要なのは、たぶんもうひとつ先だ。


 ただ拒絶することじゃない。

 拒絶の仕方を選ぶこと。


 自分の一線を、自分で決めること。


 答えが見えたわけじゃない。

 でも、向かう方向だけは少し分かった。


 断るだけでは、生き残れない。

 受け入れるだけでは、自分が残らない。


 そのあいだで、僕が僕のまま立てる形を探さなければいけない。


 それはたぶん、これまでよりもっと面倒で、もっと難しい。

 でも、ようやくそこまで来たのだとも思う。


 机の上の資料を見て、スマホを伏せて、僕はゆっくりとベッドへ横になった。


 夜は静かだった。

 でも、その静けさはもう、以前のようにただ冷たいだけじゃない。


 少しだけ、自分で選ぶための時間に変わり始めている気がした。


 次に必要なのは、拒絶することじゃない。

 拒絶の仕方を選ぶことだ。


 そう思いながら目を閉じると、暗闇の中で、その言葉だけが妙にはっきり残っていた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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