表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

第7話:【特定】秘密のサインと、届かない「お疲れ様」

孤児院の生活が豊かになり、ゼノが街の「英雄」として忙しく動き回る中、MEtubeの配信画面の向こう側では、一人の少女が確信に近づいていました。


現代日本。佐藤の娘・サチは、毎日欠かさず「異世界の5歳児監督」の配信をチェックしていました。最初は「お父さんの癖に似た面白い子」だと思っていただけでしたが、ある日の配信で、その疑惑は確信へと変わります。


その日の配信は、リフォームが一段落した孤児院の談話室からでした。ゼノは視聴者からのリクエストに応え、投げ銭ポイントで交換した「現代のインスタントコーヒー」を淹れて一息ついていました。


「ふぅ……。やっぱり、仕事終わりの一杯はこれに限るな。……おっと、お前らにはまだ早い。これは『大人の潤滑油』だ」


ゼノは苦笑いしながら、小さな手でカップを持ち上げました。その時、無意識に**「ある動作」**をしてしまいます。


カップの縁を右手の親指で二回、トントンと叩く。 そして、一口飲んだ後に、少しだけ右眉を上げる。


@sachi_papa_love:「……あ。」


画面上のコメント欄が止まりました。サチからの書き込みです。


@sachi_papa_love:「監督さん、今の……。コーヒーを飲む前にカップを叩くの、それ、私の父が毎日やってた癖です。父は『こうすると熱いコーヒーでも、職人の勘で温度がわかるんだ』って、変な迷信を言っていて……」


ゼノは心臓が口から飛び出しそうになりました。 (……しまった。50年染み付いた『現場の休憩の儀式』が、無意識に出ちまった……!)


焦ったゼノは、慌てて5歳児らしい幼い声を絞り出しました。 「あ、あはは! これか? これは、ほら、僕の故郷で流行ってる……おまじないだよ! 幸運を呼ぶトントン、だ!」


必死に誤魔化すゼノ。しかし、サチの追及は止まりません。


@sachi_papa_love:「監督さん。もし、もしもですよ。……あなたが、私の知っている『あの人』なら。……去年の私の誕生日に、ケーキの火を消す前に何て言ったか、覚えてますか?」


ゼノの視界が、急に滲みました。 覚えている。忘れるはずがない。 あの日は大きな現場の工期が重なって、帰るのが遅くなってしまった。サチは怒らずに待っていてくれた。 ゼノ(佐藤)は火を消す直前、ロウソクを指差してこう言ったのだ。


『火気使用、ヨシ! 3、2、1……ご安全に!』


職人として、父親として、娘の未来が「安全」であるようにと願った、最高に不器用な祝福。


(言えるわけねえだろ。……ここで『当たりだ』なんて言ったら、お前は一生、この画面の中の5歳児を追いかけなきゃならなくなる。お前には、お前の人生があるんだ)


ゼノは歯を食いしばり、画面に向かって、できる限りぶっきらぼうに笑いました。


「何言ってるんだ、サチ……さん。僕は異世界の子供だぞ? ケーキなんて豪華なもん、見たこともねえよ。きっと、そのお父さんも現場が大好きな、熱い人だったんだろうな」


@sachi_papa_love:「……。そう、ですよね。すみません、変なこと聞いて。……監督さん、明日も、お仕事頑張ってください。ご安全に」


サチの書き込みを最後に、その日の配信は静かに終わりました。

配信を切った後


暗い部屋の中で、ゼノは一人、小さな手で顔を覆いました。


「……バカ野郎。サチ。……『ご安全に』なんて、あんな寂しそうな顔で言わせるつもりじゃなかったんだ……」


5歳の少年の体から、50歳の男の震える溜息が漏れます。 正体を明かさないことが、彼女のためだと信じている。けれど、技術や癖を通して、魂は繋がってしまう。


(……もっと。もっと立派な『現場』を作ってやる。お前がいつかこの配信を卒業して、前を向いて歩けるように。パパはここで、誰よりも誇らしい仕事をしてるってことを、見せ続けてやるからな)


翌朝。ゼノはいつもより早く起き、誰よりも大きな声で「指差し確認」を行いました。 その瞳は、これまで以上に熱く、厳しく、そして優しく燃えていたのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ