■ 神となりて
勇者の俺は、魔王と対峙した。
だた最後の決戦の中で知った驚愕の事実。それは魔王の正体が、実は神であるというものだった。
「神よ、なぜ世界を滅ぼそうとするのです」
俺の問いに、神は、
「それは人間や他の生命体が愚か極まりなく、もう滅ぼすしか救いの道はないと思ったからじゃ。
神の名を出して滅ぼしてもよかったが、それでは絶望しかないじゃろう。”もしかしたら、神が助けてくれるかも知れない”という僅かな希望を抱かせておくのが慈悲というものじゃ」
と、こたえる。
「それはそうかも知れませんが、どうかチャンスを、もう一度だけチャンスを下さい」
俺は、なりふりかまわず懇願した。
そんな俺を見やりつつ、神は、
「うーむ。
勇者として艱難辛苦を乗り越えて来たおぬしがそこまで言うのなら、もう一度だけチャンスをやろう。
ただし、今度はお前がワシの代行者として世を変えるのじゃ」
と、おごそかな声を響かせる。
「あなたの代わりに?」
神の突拍子もない提案に、俺は困惑した。
「そうじゃ。おぬしに神としての力を与え、今から三千年の猶予をやろう。その成り行きを見てから、結論を出そうぞ」
「ありがとうございます。必ず世を正しくします」
俺はその日から、神として新たな世づくりにまい進した。
――三千年後。
「どうじゃ、世は正しくなったか」
再び現れた神の問いに、俺は押し黙った。
「どうした。答えよ」
神が詰問する。
「……駄目でした。あらゆる努力を尽くしましたが、人々の愚かさは御しがたく、全てが徒労に終わりました」
俺は、うつむきながら応じた。
「では、世界を滅ぼしても良いな」
「……はい。三千年も頂いたのに、その時間は無駄になってしまいました」
俺の心は、悔しさよりも虚無に近かった。
「そうでもないさ。えいやっ……」
神が一声あげると、辺りの景色が一変し、俺は魔王と雌雄を決したあの時へと戻る。何もかもが、昔のままだった。
そして神である魔王が、特大のファイヤーブレスを放する。
絶望の炎が近づく中、俺は何一つ抵抗する事なく、黙ってその業火を受け入れた。
【終わり】




