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D・M ~古き穴はランプで  作者: 藤原時照


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48/50

これから

 この日、私とザビエことケイは、グランベリーパークで会っていた。

 かつてグランベリーモールであったこの場所は、リニューアルしてグランベリーパークになっている。

「おとうさん、私ね、NPOを立ち上げようと思うの」

 おとうさんと呼ぶのは、あの日あの場だけのことだと思っていた。だが、ケイはその後もずっと私をおとうさんと呼んでいる。ただ呼ぶだけなので何も問題はない。実のところ、そう呼ばれるのが嬉しくなって来つつある。

 いま、ケイは何かたいせつな決心をしたような目で私を見ている。

「沖縄でアメリカ兵から酷い仕打ちを受けた女の人たちを助けようって運動があるの。知っている?報道されないけど、首都圏でも同じようなことが起こっているのよ。だからね、私、おかあさんみたいな人を助けたいの」

 私はその件に関するテレビ番組を見たことがあり、彼女の言うことについては多少知識がある。あのテレビ番組では、広く浅くではあったが、アメリカ兵が起こした事件を広く網羅していた。女性限定で言えば、結婚詐欺のようなものから性犯罪まで。

 この問題については、あまりにも頻繁に発生するために、米軍では処理のしかたが確立されているそうだ。警察が来る前に弁護士を走らせ、被害者の無知をいいことに、被害者が一方的に不利になる契約書にサインさせてしまう。被害者がサインしてしまえば、警察もマスコミも介入できない。すべては握り潰されてしまうのだ。こうした現状を踏まえ、あの番組では、被害者にサインしないよう呼び掛けていた。

 あのテレビ番組で報道していたのは沖縄のことだけではない。首都圏でも似たような状況で、自宅を基地で囲まれてしまった一家などについてレポートされていた。

 米軍関係者による窃盗や傷害事件は頻繁に発生している。時には殺人も発生する。しかし、そう言った事件を日本は裁けない状態にある。犯人が黒人ならば日本に引き渡されたこともあったが、犯人が白人であったなら、常に地位協定が適用されて来たように記憶している。

 横浜に住んでいても、米軍関係者による不法行為に出くわすことはめずらしくない。私自身、彼らがやりたい放題しているのは何度も目にしている。

 夜、京浜東北線に乗ったら、十代と思しき大量の白人や黒人が車内で暴れていて、体当たりされたり、意味もなく飛び跳ねる太った女が足の上に着地したり、という目にあったことがある。彼らはやりたい放題やって迷惑をかけても謝罪すらしない。通報しても警察は役に立たない。

 246では蛇行運転する軍用車両に前を塞がれたこともある。あれは、東急田園都市線のすずかけ台駅の近くだった。あのあたりにはネズミ捕りの白バイがよくいるが、彼らはその車両に対して何もしなかった。

 深夜の大江戸線では、米兵のナンパに出くわしたことがある。車両のなかに、私のほかは女性二人組だけ。そこに、車両の中をさまよう二人組の黒人が近づいてきた。女性二人は黒人たちを完全に無視していたが、黒人は女性の腿に手を置き、英語で自分が米兵であることなどを話していた。彼らが諦めてほかの車両に移って行ったので私の出番はなかったが、あのとき、私は葛藤していた。殺すための技を使えば確実に勝てる。だが、その技を使うところを見ている人がいる以上、「誤って」という言い訳は効かない。かといって、彼らはかなり鍛えている様子なので、加減をしたら私が負ける。やるなら決心が必要だ。そんな風に葛藤し、私は自分に絡んで来いと願いつつ黒人たちを睨むことくらいしかできなかった。

 ふつうに生活していても、米兵やその家族のやりたい放題に出くわすのだ。基地周辺がどうなのか想像に難くない。戦後間もない頃は、もっとひどかったようだ。だが、その情報は、彼らに買収された日本の政治家たちによってずっと隠蔽されて来た。

 たとえば、人数については諸説あるが、大部隊で東京大森の病院を襲い、看護士患者を問わず女性を暴行したうえ、新生児でキャッチボールをして面白半分に殺している。こんなことが占領下では日常的に行われていたのだ。

 アメリカとイギリスについては、「進駐軍の不法行為」なる占領下の日本で行われた大量の不法行為の記録が残っている。その記録はアメリカに接収されたが、検閲を経て現在は返されている。あの記録に近いことがいまだにアメリカによって行われている。そして、警察はそれに対応せず、報道されるのもほんの一部だけ。

 そういえば、私がかつて住んでいた町の近くでは、米軍機が墜落したことがあった。ウィキペディアでは、米軍が消火活動や救出活動に力を貸したように書かれているが、地元の人たちが語る内容はその正反対だった。彼らによると、米軍が交通規制をし、消防車や救急車が現場に駆け付けるのを妨害したのだという。死者が出たのはこの規制のせいだと言う人もいる。

「厚木基地所属の飛行機って未だにひどいよね」

 彼女と美姫は町田に住んでいたことがあるという。

 厚木基地から飛び立つ戦闘機は、最近はマシになったかもしれないが、以前は住宅地で低空飛行するなど、かなりの無法状態にあった。以前、米軍厚木基地に火炎瓶を投げ込む事件があった直後などは、嫌がらせのつもりなのか、深夜に低空飛行されてまともに生活できる状態ではなかったそうだ。

――町田にいたのか。

 思いのほか美姫とケイは近くにいた。

 私を隠し撮りするくらいだから実際に近くにいたのだろう。それを知ったいま、気づかなかったことが悔やまれてならない。

「そういえば、かなり前だけど、ここで女の子に『おとうさん』って抱きつかれたことがあったけど」

「んふふ。あれ、私。小学生の頃かな」

 あのあと、白人男性が走ってきて、女の子を引きはがして連れて行った。私に何も言わず、なぜか私に怒りを向けているような雰囲気だった。あれが美姫の父親だったのだ。

――気づいていれば……。

 いまさら悔やんでも仕方がないが、ひょっとしたら、ちがう未来もあったかもしれない。私はそう考えてしまう。自分の選択によっては、いまここに美姫も一緒にいたかもしれない。そう思うと涙が出た。

「どうしたの、おとうさん」

「なんでもないよ」

――前を向こう。

 私はそう思った。これからは、世界の流れが変わるのだから。


  多かれ少なかれ570年ころに

  妙な年代で

  703年には天のしるしがあって

  多くの大国は変わるだろう

               諸世紀第六章2


 703年、すなわち2028年はもうすぐだ。

 予言が正しいのなら、これからさらにいろいろな動きが出るだろう。

 すでにいろいろな疫病が流行しては消える、というのを繰り返すようになっている。地震や水害なども頻発するようになった。戦争や武力衝突もなくならない。世界が変わるまえに起きると予言されていたことが、いま世界中で起きている。

 もうすぐはじまるのだ。

 これから来る未来はアメリカと法王庁が望まない未来。

 ノストラダムス、イエス、日本にとって望ましい未来。

 ただ、私にはどうしても気になる予言詩がひとつある。


  動物が野獣のような人間になるとき

  努力してとびあがるものが話をするようになるだろう

  電光は未知の世界に不吉なしるしをつけ

  この世から姿を消して天界へ行くだろう

               諸世紀第三章44


 この詩は遺伝子操作や量子コンピュータについて言及しているように思える。

 三行目の「未知の世界」と四行目の「天界へ行く」からは超弦理論を連想した。

 超弦理論とは、量子もつれや重力を説明する際に使用される仮説で、十次元を示唆する。

 量子コンピュータが高次元世界でトラブルを起こす。

 何も存在しない前提であったところに何かがあったとすれば?

 高次の存在がいたとすれば?

 その結果、これらの技術がこの世から姿を消すのではないか。

 私はそんなことを考えた。

 だが、その場合、姿を消すのはこうした技術だけなのだろうか。

 それだけで済まず、ほかの技術も失うのでは?

 あるいは、姿を消すのは技術ではなく――

 予言は3797年まであるというから、そういったことが起きるのはずっと先のことなのかもしれない。

 深刻な問題なら、遠い未来のことであってほしいと思う。


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