ターニングポイント
――そろそろ終わりにするかな。
もう公益通報には十分な情報を集められた。
もう退職してもいい時期になっている。
この日、私は昼休みを職場の前にある広場で過ごしていた。
心をすり減らして仕事をする毎日。
のんびりベンチに座って空をながめている時間は貴重なもの。
だが、この日はその大切な時間に邪魔が入った。
あの白人二人組が来たのだ。
小説は完成している。完成した小説は、すでに出版社に渡してある。その出版社は、彼らが裏で手を回したようで、ボツになることはないらしい。
「諸世紀第三章77に絡めて2025年10月27日に販売になります」
流暢な日本語を話せる方がそう言った。
その予言は「キリスト教徒への大侮辱があるだろう」で終わるもの。
その日、私の書いた本は、G7七カ国で同時発売になる。
対象がG7になったのは予言詩の「七つの丘」に基づいているそうだ。
城壁のあるところ、太陽あり、月あり
そこにあるものの破滅は近く
天は汝の運命を変えるにいそがしく
七つの丘が同じ状態の中で
諸世紀第五章32
この予言詩をどう解釈したのかは聞かなかったが、いずれにしても、その2025年10月27日に係る予言詩は、「キリスト教への大侮辱があるだろう」で終わるわけだから、彼らは大侮辱を甘んじて受けることにしたのだ。
「いま、翻訳が問題になっています」
彼はつづけて言う。
予言詩の引用は、すでに存在する各言語に翻訳された版を使わず、昭和五十年初版発行の日本語版を新たに翻訳しなおして載せるという。
考えてみればそれは当たり前。私の小説の中では、日本語への翻訳過程でノストラダムスが本当に言いたかった内容に変換される、というロジックを用いている。私の書いた小説に意義があるのなら、そのロジックには従うべきだ。彼らはそう考え、フランス語の原本や既にある英語版などの記述は無視するそうだ。だが、私の持っている版には、重要な箇所にさえ誤訳が含まれていることがある。変換ロジックを使うのは、誤訳について開き直ったようでもあり、厚顔無恥と謗られそうな気もする。
大侮辱を受け止めると決めたからか、彼らの行動には澱みがなくなった。その一方で、彼らと歩調を合わせられない諜報系の者たちは、立場を失いつつあるらしい。襲撃動画や飛行機墜落に関する動画には英語字幕も付いていたので、彼らにとって都合の悪い情報が世界中に拡散されるまであっという間だったのだ。この状況に中国やイスラム諸国が相乗りしたうえに、アメリカの野党も政権への攻撃材料として利用し始めた。アメリカの学生たちもそれにつづく。こんなふうに世界は予言の成就に向けて動き始めたのだ。
思うに、世界中の不和の歴史をたどると、その背後には第二の反キリストがいた。
中東の争いは――
アメリカが後ろ盾になった組織がテロリストと化していたり、アメリカが難癖をつけて攻撃したあとでアメリカの難癖が間違っていたと判明したり、アメリカが火種を作り続けている。
ノストラダムスによるとアメリカの影響でイギリスも反キリストに染まった(諸世紀第十章66)。そのイギリスは国連に働きかけてパレスチナの地を分割させ、イスラエルを建国させた。その結果生じた争いはいまだにつづいている。
新しい法が新しい国を占領し
シリア ユダ パレスチナにむけて
異教の国は滅びる
ヒィービーが道を決める前に
諸世紀第三章97
ロシアは――
第二次大戦末期、ソ連はアメリカの誘導で日本への侵攻を決定した。やはりアメリカ発の問題だ。
かつてのソ連/ロシアはアメリカの対極にあり、冷戦と代理戦争をつづけて世界に多くの闇を生み出した。ウクライナ侵略もその流れから来ているものだと言えよう。
中国は――
もともと正統な中国として国連に加盟していたのは台湾だった。
アルバニア決議で台湾が国連から追い出されることになったのだが、この背後には、アメリカがベトナム戦争停戦に関して現在の中国に協力を求めたことがある。やはりアメリカの作り出した問題なのだ。
アフリカの治安悪化や貧困の原因は――
第二次大戦後、アメリカとソ連がアフリカに大量の武器を持ち込み、アフリカで代理戦争をしてきたことが根本にある。
日本が周辺国から責められる残虐行為にしても、戦時中に第二の反キリスト――アメリカが行った情報操作が核になったもの。日本が残虐行為をまったくしなかったとは言わないが、大部分は証拠のないもので、証拠として新たに提示されるものは捏造されたものばかり。逆に、朝鮮から引き上げる際、朝鮮人によって行われた日本人虐殺や略奪、ソウルにプールされていたアジアから集めた資金の隠匿、南京事件前に起きた中国軍による日本人虐殺事件(通州事件)などは蓋をされ、隠蔽されている始末。だが、これからは、覆い隠された事実が常識へと変わっていくのだ。




