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D・M ~古き穴はランプで  作者: 藤原時照


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公益通報者

 道灌氏から最初に頼まれたのは、とある業界の何次受けかわからない下請けだった。そこではある種の取引システムを扱っていたのだが、何かがおかしい、と噂になっていた。私はその会社で動作チェックを担当した。チェック手順を書いた指示書どおりにチェックし、動作を記録する仕事だ。

 私は四六時中大声でしゃべりつづける中年女の下に配属された。その中年女が指示書を作り、そのとおりに作業することになっていたのだが、まず、指示書がでたらめだった。おまけに、さらに下位の下請けから納入完了したはずのシステムは、実際には完成などしていなく、気がつくと書き換えられている始末。

 そんなことだから、指示書を書き直すだけでなく何度もチェック作業のやりなおしをする羽目になり、いつまで経っても終わらない状態に陥った。しかし、マネージャーは、チェック作業の途中でシステムが書き換えられても、書き換えられた部分は無視して先に進めという。

 さて、さらに下位の下請けとは中国企業。私はきさらぎ氏から聞いて、スパイの実態をよく知っている。こんな管理状態なら、取引システムにバックドアを仕掛けるのは簡単だ。ちなみに、私はそれでいいのかと問い質したのだが、納期が最重要だと言われたあげく、最終的にはすべての責任をなすりつけられてクビを切られる羽目になった。

 告発者は告発時には内部にいなければならない。

 私は日付が変わらないうちにレポートを提出した。

 多くのIT企業がこの会社と同じように中国企業を下請けに使い、同じような状態になっていることを私は知っている。だから、システムトラブルなどのニュースを見るたびに、そのニュースの裏側で何かが起きているのではないかと疑ってしまう。

 

 つぎに頼まれたのは建築業界での仕事。その業界でソフトウェア開発と解析の受託をしている企業がターゲットだ。

 私はその会社で、実際の建築図面通りに建物の3Dモデルを作成する、という業務を担当することになった。その3Dモデルは3DCADとほぼ同じで、面倒なだけでたいして難しくはない。問題は、職場がパワハラ環境で、周りは肉体的かつ/または精神的に病んだ人ばかり、ということだった。仕事中、役員の怒鳴り声と病んだ人たちの独り言がBGMのようにずっと聞こえているのだ。

 そんな会社だから、辞めていく人、辞めさせられる人が多く、自社で開発したソフトウェアの中身さえ把握できない状態に陥っていた。その状態は悪化の一途をたどる。インターンで大学生を受け入れているが、それは却って問題になる。その会社の異常な環境が学生の間で有名になれば、まともな人材は採用できなくなる。だが、経営者たちは、そんなことにも気づけないほど傲慢に成り果てていた。

 私が勤務していたときは、旧バージョンとの互換性でユーザーからクレームが来て、担当者らはその対応に追われていた。そんな状態でも問題を解決する能力がないため、クレーム対応は嘘に嘘を重ねるだけの自転車操業。それでも経営陣は必要な手を打たず、ただ喚き散らすだけ。さらに、経営陣が命じたことがあとで致命的な問題になり、その当人が「誰がこんなこと決めたんや」なんて怒鳴り散らしているとき、私たちは「おまえだろ!」と言いたいのを必死でこらえていた。そんな毎日だった。

 私はそこで建築業界の闇に触れた。

 耐震診断をするときは、地盤データが必要となる。だが、この地盤データ、実は何種類もある。ランダムサンプリングを装っているが、実はデータを選別して使用している。もちろん、最悪のケースを想定して建築する良心的な企業が大部分だろう。だが、一部の企業では、都合の良いデータを選ぶのが慣例化している。

 それだけではない。

 ある日、比較的温和な社員が大手ゼネコンの社員と電話で怒鳴り合っていた。怒鳴り合いの原因は、崖の上に建てられた建物に関すること。

 ゼネコン側は建物が崩壊しない結果を出せという。それは、崩壊しないように対策を示せという意味ではなく、解析結果を捏造しろという意味。つまり、一定以上の地震で倒壊すると結果が出ているのに、その計算結果を改竄しろと言っているのだ。大きな地震が頻発するこのご時世、ほんとうに建物が崩壊したらどうするつもりなのだろう。

 だが――

 相手は大手ゼネコン。

 結局この担当者は負けた。

 つまり、要求通りに解析結果を捏造したのだ。


 私は日本の衰退の裏側を体験し続けている。

 日本の衰退。

 だが、考えてみれば、衰退しているのは日本だけではない。

 私が体験した事々は、ほかの国々では常識のように起きて来たこと。

 これらの事々は、日本が外国の不要な文化まで取り入れた結果なのだ。

 何かをはじめる時、やたらと外国の事例を持ち出すことをやめればいい。

 外国文化と対立が生じる時、日本国内では日本文化を優先するよう明文化すればいい。

 そうするべきなのだ。

 ノストラダムスはキリスト教をもとに戻そうとしていた。

 我々日本人も、取り入れてしまった有害な外国文化を掃き出す時が来たのだ。


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