日本の秘密
ノストラダムスの予言は日本人が解き明かす。
そう予言にある。
故に日本が神託のはじまるところ。
彼らはそう解釈した。
そう思い込んでしまった。
火球など年中落ちていてめずらしいものでもないのに、予言に囚われている者たちは何事も都合良く解釈してしまう。彼らが待ち望む、神託が降りる時が来たと。
こうして彼らはまた私の前に現れた。
二人のうち一人は頭に包帯を巻き、松葉杖をついている。
「もちヅきさんにィ、ききたイことーあリます」
痛々しい姿の男は私の名を調べたようだ。
「もうー、Nostradums、書かなイーんですかー?」
外国人らしくというべきか、男はノストラダムスの部分を日本語発音しなかった。おかげで理解するのに数秒を要した。
発音はともかく、ノストラダムスを書く?
何を言っているのかわからない。
そう言いたかった。
でも、何となくわかってしまった。
彼が言っているのは、私がこっそり書いている小説のことだろう。つまり、彼らは私の使っているデスクトップに侵入しているのだ。ということは、掲示板メンバーと掲示板以外で話し合った内容さえも知られている可能性が高い。メールでのやりとりも、オンライン会議も、公にしないようやってきたことは無駄だったのだ。
腹が立った私の対応は自然と厳しいものになる。
「あなた、それって犯罪行為を自供しているわけだよね?」
男は私からの反撃を受け、返答に窮しているようだ。
そこで、もう一人の男が口を開いた。
「合衆国の組織ですから。そういうことができるのはご存知でしょう?」
彼はもう一人の男とは違い、なまりのない日本語でそう言った。
そういうことというのはアメリカ政府がハッキングツールを使っていることだろう。
2016年8月16日、とある事件がアメリカで報道された。その事件とは、ハッカー集団の手によってアメリカスパイ組織からハッキングツールが流出し、アメリカのしていたことが暴露されたこと。そして、2021年10月22日の時点では、隠す気さえなくなったのか、アメリカ総務省がハッキングツールの輸出規制を発表している。輸出規制とは、すでに行っていた輸出を規制するという意味。要するに、それまでアメリカは何の規制もなしにハッキングツールを他国に輸出していたわけだ。
「望月さんの小説は、設定した条件にしたがってAIが拾って来たものです。ほかは見ていませんから安心してください」
――信じられるか。
だが、いまは感情にまかせて彼らを撥ねつけるべきではない。こちらも情報がほしいのだから。
「悪いけど小説は書けない。そういう気分にならないから」
私はプロの小説家ではない。書く内容はその時々の気分に左右される。いまの私が書いたとしても、ただ毒を吐くだけの駄作になるだろう。
「だめぇ、でーす。イーまー、よげンのとーリィになってイールじゃあなイーですかー」
最初の男が復活して、また口をはさんだ。話し方がうっとうしい。だが、私は我慢して話を促す。
「何のことかな?」
「火球でーす。よげンのとーリィ、落ちたーでショウ」
「火球なんて年中どこかに落ちているでしょ」
この私の発言は即座に否定された。根拠も並べ立てられた。だが、そこには主観が入りすぎていて、客観的な根拠だとは思えない。火球はただの現象であり、頻繁に落ちているのだから、そこに彼らの主張する占星術的な意味などあるものか。
――占星術的な意味……
ノストラダムスの予言では、それが日本人に宛てたメッセージなら占星術とはちがう表現しているはず。
私は金星をはじめとする惑星の意味について、とあるひらめきを得た。
それは――
うっとうしいしゃべり方をする男の耳障りな声が、ひらめきを追う私を現実に引き戻した。
「そんなことより、あなたたちと襲撃犯はどういう関係なんですか」
「合衆国にはUFOや超能力に関する機関があるのはご存知ですか」
また訛りのない方の男が口を開いた。
「あまり知られていませんが、その機関の中には神の奇蹟や呪術を調査・研究するグループもあります」
急に話の流れがちがう方向に転じた。
「いろいろな干渉をしていることでわかると思いますが、我々はノストラダムスの予言が真実だと確信しています。だから、代々日本への工作をしかけてきたのだと聞いています。そう確信するだけの証拠もあります。残念ながら国家機密の扱いなのでお見せすることはできませんが」
彼らにとって、彼らが反キリストだと認識されることは絶対に避けねばならないことであった。加えて、予言には、アメリカが日本に負けると解釈できるものがある。日本のせいでアメリカは没落していくのだ。こうした背景から彼らは反日本工作を続けてきた。
だが、戦後、方針が変わった。
きっかけはルーズベルトの死。
戦後、彼らは日本政府の内部情報に触れ、その背後にある事実を知ったのだ。
どうやら、日本という国は、戦争において調伏や祈祷を頻繁に行って来たらしい。第二次大戦の折は、宗教関係者が積極的に祈祷して国に貢献しようとしていたという記録が残っている。本当に日本は国を挙げて呪詛を行っていたのだ。
対ルーズベルトでは――
1944年8月に「今や戦局まことに重大なり、神明奉仕の職にあたる者いよいよ職務に奮励し、驕敵の一挙撃滅を訴願すべし」と内務大臣から訓令が発せられた。この動きには、日本伝統の宗教だけでなく、キリスト教関係者まで追従している。つづいて、11月にも「米英撃滅祈願祭」が行われた。
仏教界では1945年の1月半ばから呪詛が行われたという。ただし、密教僧を東京に集めてという説と、全国の寺院で個別に行ったという二つの説があり、具体的に何がどういった方法で行われたのかわからない。だが、呪詛が行われたのは間違いなく、ルーズベルトの死後、参加した者たちが自分たちの祈祷こそが効果を上げたのだと主張してアピール合戦になっている。
遡って日露戦争、日清戦争でも同様のことが行われていた。その結果なのか、日露戦争においては戦場で起きた不思議な出来事の記録も残っている。
『日露戦争の当時は満州の戦場では不思議なことばかりがあった。ロシアの俘虜の言葉に、日本兵のうち黒服を着ている者は射てば倒れたが、白服の兵隊はいくら射っても倒れなかったということを言っていたそうであるが、当時白服を着た日本兵などはおらぬはずであると、土淵村の似田貝福松という人は語っていた。』
遠野物語拾遺 一五三
アメリカはこの手の情報すべてを精査した。加えて、将門の首塚を壊そうとして祟りというものを目の当たりにすることになった。彼らは呪力がほんとうに存在すると信じるようになり、日本への対応を変えたのだ。
最終的に、アメリカは日本の政治家を抱き込んで日本を裏から操る、という方針を選んだ。
この時期、自国内でやっていた歴史改変を日本にも適用するようになった。日本人のアイデンティティを歪めるために。そして、日本から呪術的な要素を排除するために。
『「世界で最も軍国主義的な国民」という日本人像は、事実の歪曲と日本人の行動様式の曲解をもとにして描かれている。戦争中のアメリカの新聞が報道した記事を丹念に読めば、それがはっきりとみえてくるだろう。私たちの事実認識の中でも、「無敵のサムライ」神話はほとんどマンガである。アメリカの新聞論説委員、コラムニスト、ラジオ解説者たちは執拗に日本兵を東洋の邪悪なスーパーマンに仕立て上げた。日本兵は、神道の神々の命を受けて現人神の天皇を「世界の王座」に就けるために戦う「戦士信仰」の野蛮な信者なのだ。』
アメリカの鏡・日本 第二章3
『これを聞けば、占領政策は日本国民と文明の抑圧であることがよくわかる。この計画は戦争の合法的行為、すなわち賠償行為の常識をはるかに超えた、圧倒的スケールの「懲罰」と「拘束」である。これが、もし計画どおりに実行されれば、私たちの意図とは関係なく、日本の伝統文明は破壊され、国民はアメリカの下僕となり、人口は減少するだろう。』
アメリカの鏡・日本 第一章1
そして、その歴史の書き換えを周辺国が利用する。
誠意は悪意へと書き換えられる。
『日本は思いやりの態度で韓国に接していると思う。今度こそ、韓国を中国の束縛から解放しようとしているようだ。韓国国民に平和と繁栄と文明開化をもたらすことによって、力の弱い隣国を安定した独立国にしようと考えている。こうした日本の動機は韓国の知識層である官僚の多くが歓迎している。アメリカにも異論がないと思われる。』
アメリカの鏡・日本 第四章2
こうした真実は覆い隠され、情報操作によって反日の燃料へと変じた。そして、アメリカの意に沿って、日本の政治家たちはその反日を壊さぬように動いてきた。思いやり、大人の対応という言葉で国民を欺きながら。




