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D・M ~古き穴はランプで  作者: 藤原時照


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転職活動

 トラブルに巻き込まれて三週間。

 退職届を提出し、有休を一ヶ月半確保したわけだが、いまの私は尻に火が付いた状態にある。猶予は残り一ヶ月を切っている。転職するなら職歴にブランクがあるのはマイナス。だから、この有休の間に次を決める必要がある。複数の転職サイトに登録しているものの、韓国企業と中国企業以外からは反応がない。こちらから何社かの日本企業に応募してみたが、即座にお祈りメールが返信されて来た。

 きさらぎ氏から反日嫌がらせやスパイ行為の実態などを聞いているので、韓国企業に勤めるという選択肢はない。中国企業にしても、しきりに勧誘をくりかえすエージェントに、「スパイ行為などの違法行為をしているのを見かければ即座に通報すると思いますが、それでいいですか」と聞いてみたら、ものすごく焦り出して紹介する案件がないと言い出した。それではまるで私から紹介をお願いしたように聞こえる。この仕事をやってもらいたいと案件を示したのはそちらだろうに。

 いまは2018年。

 私は41歳だ。

 三十代を越えれば転職が一気に難しくなるのは知っている。それでも私は自分の能力に自信があり、なんとかなると思っていた。だが、現実はそれほど甘くないようだ。

 現政権は、企業に定年を65歳以上にするよう求めた。そして、それを実行する大手企業が徐々に増えている。ネット上の工作員たちは、それをしきりに賛美する。

 しかし現実はどうだ。定年を65歳に延長した何社かは、その発表とほぼ同時に四十代リストラをはじめた。羊頭狗肉。看板と中身がちがうのは政治の常。企業はそれに倣ったようだ。

 この動きは非正規労働者にも波及した。あたかも非正規労働者のためであるかのように主張するいくつかの政策で、実態は正反対に作用していく。

 これらは失策かと思いきや、実はちがう。こうした動きこそが政府にとって好ましいことなのだ。おかげで政府は労働者の収入がアップしたという統計データが捏造できるのだから。

 低賃金労働者を労働者の統計データから排除できれば、賃上げしなくても見かけ上は労働者の所得が増加する。これまでも政府はこの操作で所得増をアピールして来た。さらなる弱者排除はより高い成果を生む。

 だが、この操作は見かけだけのもの。ほんとうに所得が増えているわけではないから、実質経済は大きくダメージを受ける。世で言われて来たとおり、実感なき経済再生になるのだ。

 わかりやすいように単純化して統計を考える。

 所得が10の人……1人

 所得が1の人……2人

 3人の平均所得は12割る3で4。

 所得が1の人を全員無職にし、労働者の統計から排除する。

 すると、平均所得は10割る1で10になる。

 つまり、平均所得は賃上げがないのに2・5倍になった。

 10の所得が8に下がっても、平均所得は8。

 全員が貧しくなっても、統計上は平均所得が4から8に倍増したことになる。ここで何らかの政策をやって見せれば、たとえそれが失策であっても見た目は効果が出ているように装うことができるのだ。

 実際に行われている統計操作はこんな単純な話ではない。だが、統計は見せ方次第でこんな具合に結果を粉飾することは容易だ。

 実感なき経済再生、実感なき景気回復などという言葉がずっと語られて来た。それは日本の政治家や官僚たちはこの手法をずっと利用してきた結果なのだ。

 政治家が所得増の実現をアピールする裏側で、生活保護申請者が年々増加しているという報道があるのは、この種の統計的トリックがこっそり実行されていることを裏付ける。加えて、生活保護関連の裁判の過程で、物価に細工をして統計詐欺を行ってきたことも露見している。少なくともこの数十年、いくつもの統計詐欺が並行して行われて来たのだ。

 こんなふうに、政府は国民の貧困化を加速する政策をこっそりと積み重ねてきた。それは明らかに日本にとって良いことではない。加えて、こうした流れは人財の流出をまねく。現実に、能力のある人たちは、ずいぶん前から外資へと流出しはじめている。そういう環境だから、多くの外資が急激に日本法人を設立する方向で動いているわけだ。政治家は、日本への投資を加速させ、外資を誘致して雇用を創出したとアピールする。だが、その実態は?よく言えば、日本企業で燻っていた有能な人材を発掘したということができる。しかし、悪く言えば、無能な上司のもとで職場を支えていた人材を取り上げることになったわけで、その職場に大穴をあけたことは明らかだ。職場からリカバリー能力のある人材がいなくなったとしたら?あとは不正が積み重なるだけ。こうして日々日本企業の不正が頻繁に報道される時代がやって来たのだ。

 中韓からのオファーを受けるべきなのか。

 私はずっと悩んでいる。

 だが、その選択肢は、できることなら選びたくない。

――とりあえずは転職サイトまかせか。

 私は徐々に転職活動をする意欲を失っていった。

 そして私は書庫にある諸世紀に手を伸ばす。


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