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D・M ~古き穴はランプで  作者: 藤原時照


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26/50

あらごと

「キョウさん、私は荒事苦手なんでよろしく」

 きさらぎ氏は犯人を押さえているので手が離せない。

 私が三人の相手をしなければならないわけだ。

 殺すのなら簡単だが、加減をするのは――

「了解」

 私は考えるのをやめた。

 幸い相手は三人とも素手。服の上からは鍛え上げた筋肉が見てとれる。だが、歩き方を見る限り、武道の高段者ではありえない。

「あんたら、コイツの仲間なんだよね?」

 私は一応声をかけてみた。

 しかし、誰も答えない。

 後ろから降りた二人はそのままゆっくりと歩を進める。

 前から降りた一人は一旦立ち止まり、手を白衣の中に――

 白衣の中に黒光りする何かが見えた瞬間、私は屈んで前に飛び出し、ついでに落ちていた瓶を拾って男の顔面に投げつけた。

 液が目に入ったのか、男は目を閉じて手で拭おうとする。

 瓶を握った私の手にも不快感が拡がっていく。

 私はその感触を我慢し、男の手首近くにある気穴を狙った。

 鉤のように曲げた人差し指の第二関節が男の気穴をえぐる。

 その気穴を突かれ、男の銃を握る力が緩んだ。

 その機を利用して男の懐に入り、銃を持った手を取る。

 同時に肘を水月に入れる。

 そして銃を持った男の手を残りの二人に向けた。

 男の人差し指を上から押さえる。

 一旦指の力を抜き、また押さえる。

 最初の弾丸は一人の男の腕を。

 二発目の弾丸は二人目の男の腹を。

 私は二人を撃った。

 男の手に力が戻るのを感じ、私は男の顔に頭突きを加える。

 つづけて男の銃を持った手を下に向け、男の足の甲を撃つ。

 撃たれた瞬間にできた隙を利用して、私は逆をとった。

 銃が地面に落ちる。

 その状態から男の下に潜り、そのまま一本背負いの要領で投げた。

 手首の逆をとられたまま投げられ、男は受け身をとることができない。

 私はつづけて男の頭に踵を落とそうとしたが、思いとどまった。

 足元の男は地面に後頭部を打ちつけて白目をむいている。

 血だまりが徐々に拡がっていく。

 ここまでがほんの五秒程度。

 振り向くと、腹を撃たれた男は、撃たれた場所をおさえて地面に横たわっていた。腕を撃たれた男は救急車に向かい、逃げようとしている。

 そのとき、きさらぎ氏は押さえていた男の首に手刀を当てて落とし、逃げる男の前に飛び出した。

 反射的に男は立ち止まる。

 次の瞬間、きさらぎ氏の掌底が男の顎を突き上げた。

 つづけて水月に当身。

 地面には制圧された四人が転がっていた。

「どうする?」

 三人で四人を押さえこむには?

 ロープなどの縛るものはない。

 ベルト?

 きつく縛る自信がない。

 ほかには――

 途方に暮れていると、パトカーのサイレンが聞こえた。

「あとは警察にまかせよう」

 道灌氏がそう言い、私ときさらぎ氏は頷いた。

 きさらぎ氏が男を押さえこんだ辺りから、道灌氏はスマホで動画を撮り続けている。いろいろな権力が関わって来る可能性があるので、できるだけ手札を残しておきたいのだろう。

 警察が到着すると、道灌氏は手をぶらんと下ろし、スマホはただ持っているだけのように見せかけた。光っているランプを指で隠しながら。

 到着したのはパトカーが二台。

 乗っていたのは四人。

「通報したのはどなた?」

「私です」

 道灌氏が声をかけて来た警官の応対をする。

 私ときさらぎ氏は放置状態で、ほかの警官たちは話も聞かずに三々五々現場および犯人の状況を調べ始めた。

「あ、それ、犯人が酸らしき液体を入れていた容器です」

 一人の警官が瓶を蹴飛ばしたのを見て、私はあわてて声をかけた。

 小説なんかとちがって、現実の警官がいい加減なのはよく知っている。しかし、この手のマスコミが飛びつきそうな事件で、現場保存をきちんとしないのは如何なものか。私は彼らの様子に呆れていた。

 瓶を蹴った警官は、私の声に舌打ちをして瓶を拾い上げた。一応手袋をしてはいるが、そんな風に持ってしまって良いのだろうか。手袋で指紋が擦られて消えそうだ。その警官は、そんなふうに心配になるほど、無造作に瓶を握っていた。

 そこに新たなパトカーが二台到着した。

 すると――

 液体をかけようとした男と二人の白人が立ち上がり、意識を失っている男を担いで救急車に向かおうとする。私ときさらぎ氏は咄嗟に彼らを止めようとしたが、目の前にいた警官たちにブロックされた。

「まあまあ、落ち着いてください」

 そう言っている間に男たちは車内へと入り、ハッチが閉まる。そして救急車が動き出した。

 私たちを遮った警官が二人の警官に追うよう指示を出した。

 一台のパトカーが救急車を追いかけて行く。

 サイレンを鳴らさずに。

 新たに到着したパトカーからは私服を着た者たちが降りてきた。

 一人の制服警官が彼らのところに行き、小声で説明をはじめる。

 目の前で犯人たちを逃がしておいて気にする様子もない。

 時間が無駄に過ぎていく。

 それなのに――

 刑事と思われる私服の者たちは車に戻り、引き上げていった。

「どういうことですか」

 道灌氏が目の前にいる制服警官に食いついた。

「察してよ。何を相手にしているかわかるでしょう?」

 彼はそう言って背を向けた。

 食ってかかろうとしたら、道灌氏が私を止めた。

 道灌氏と話した警官は、私に背を向けたあと、パトカーの後部座席に乗った。そして、すべてのパトカーが現場から去った。現場検証はただのやったふり。あまりにも露骨な不作為だった。

 パトカーが見えなくなってから、道灌氏はようやく口を開いた。

「あの人の階級章、ゴールドだった。かなり上の立場の人だよ」

「実行役が白人であの言い方。そんでもって国家権力に圧力をかけられる相手。ということは――」

 きさらぎ氏が呟いた。

 きさらぎ氏の言いたいことはだいたい理解できた。そのせいか、酸でただれた手の痛みが酷くなったような気がする。だが、こうなって幸いなこともある。それは私が銃を使ったことまでうやむやになったこと。過剰防衛とみなされる可能性もあったのだ。

「ところで動画撮れました?」

 私が聞き、道灌氏はスマホを見る。

「あー、だめだ。バッテリー切れてる」

 私はこの道灌氏の言葉を録画失敗と解釈してしまったのだが――


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