オンライン会議
「じゃあ始めようか」
道灌氏が口を開いた。
ここは都内にあるベンチャー支援施設。きさらぎ氏の運営する法人が入居している。その貸し会議室に、道灌氏、きさらぎ氏、そして私がいる。ほかのメンバーはオンラインでの参加だ。テーブルの上にはノートPCが一台置かれ、会議アプリが立ち上げられている。
今日は、ネットで公開できない内容について会議を行うのだ。
「最近、メンバーの自宅近くで不審なできごとが多発しているらしい。私のところも実害はいまのところ出ていないけど、防犯カメラにたびたび不審者が映っている。みなさんのところで不審なできごとがあるようなら教えてほしい」
「あのー、うちは帰ったらマンションのドアノブがはずれてた。これも不審なできごとに入るんすかねー」
画面にはお面をかぶった人物が映っている。声は女性のものだ。画像の下には「まおん」と書かれていた。
「それ、経験ある。帰ったらドアノブ外れていて、引っ越しても同じことが起きた。そのあと、家で電話した内容を上司が知っているみたいにあてこすっていたんで、盗聴器が仕掛けられていたんだと思う」
私は自分の経験からそう答えた。
「えー、盗聴器っすかー」
まおん氏はキャラづくりなのかチャラ男の口調でそう言うが、声は可愛い女の子のもの。おまけに、お面はインターネットミームとなっている「やらないか」で有名な男。そうれがどういう漫画なのか具体的には知らないが、とにかく違和感がものすごい。
「え、うちもそうかも……」
今度はザビエ氏だ。こちらは画像がオフになっていて、女性の声だけが流れている。
「うちはドアノブが特殊な形状だからそういうことはないけど、郵便物が開封されていたことは何回かあったかな」
これは平次氏。彼は堂々と顔を晒している。映っているのは細面で痩身の男だ。
「そういえば――」
私は以前住んでいたマンションが爆発炎上したことを告げた。考えてみれば、このSNSに入会したときは青葉区のマンションに住んでいた。登録した住所はあのマンションのままになっている。爆発したのは私の住んでいた部屋のようだし、私が狙われた可能性は十分にある。
「いまのは、映ってないけどキョウ氏です」
PCのカメラは道灌氏の方を向いていて私は映っていない。だから、道灌氏がそうフォローを入れた。
「キョウ氏だけレベルがちがう。われわれの書き込みとキョウ氏の書き込みのちがいから犯人の素性が判別できないかな」
きさらぎ氏は顎を撫でながらそう言った。
道灌氏は口を閉じてスマホをスクロールさせている。
過去の書き込みを調べているのだ。
「いまパッと見た感じで言うと、目をつけられそうな話が出たのは日本の政治家、アメリカ、韓国かな。何年か前、キリスト教の奴隷貿易が話題になったから法王庁もかな。キョウ氏はまんべんなくって感じだね。政治家やアメリカなら私が狙われそうだし、キリスト教だとザビエ氏、韓国だときさらぎ氏かな」
「統計解析で言う交互作用かもね」
「交互作用ってなんすか?」
まおん氏にはきさらぎ氏の言う統計用語がわからないらしい。
「複数のパラメータが絡むって言えばいいかな。日本の政治家×アメリカとか、数式化するとそういう項があるっていう意味」
「え、受けは日本の政治家じゃないんすか」
「まおんちゃん、やめて。ばっちいLOVEの話にしないで」
これはザビエ氏の声だ。
深く追求すべきではないような気がして、私たち三人は彼女らの会話に反応しないよう目配せをした。
道灌氏は女性陣の話題をさっと流し、自分の意見を言う。
「アメリカ絡みだと、都合の悪い人物の死が大事件とセットになっていたりするよね。日航機墜落とかマレーシア航空機行方不明事件とか。これからは事故に気をつけようね」
「日航機はプラザ合意反対の人とかトロンの技術者とかが乗ってたんすよね。で、マレーシア航空はなんすか?」
「エイズ研究者が搭乗直前に、エイズはアメリカが作ったという証拠を学会で発表するって宣言していたんだよ。で、飛行機が行方不明になって真実は闇の中」
「そんなことあったんすか。知らんかった」
「ほかにもアメリカに都合の悪い人が乗っていた飛行機が墜落した事件は何件かあるし、米軍のミサイルで撃ち落とされた可能性のある事件なんかもある。この手の話はいろいろあって、実のところアメリカに限らないんだけどね」
「キリスト教も裏でいろいろ工作してそうですよね。秀吉以降、日本がキリスト教を禁教にしたのって、信者にしてから奴隷として売り飛ばすっていうビジネスをやってたのが原因なのに、その話題はタブーみたいになってるし。徳富蘇峰の近世日本国民史初版本に書いてあった話もあちこちのサイトから一斉に削除されたし」
以前のザビエ氏はキリシタン大名にロマンを求めていた。
しかし、彼らとイエズス会が奴隷貿易をしていたことを知る。
その手順は――
領民をキリスト教徒にする。
パライソに行くと説明して船に乗せる。
そして領民たちは奴隷にされる。
これがイエズス会のやっていたビジネスだ。キリシタン大名は奴隷貿易の代償として武器を手に入れていた。そこにはロマンの入り込む余地などなく、彼らのやっていたことは人身売買と大量殺人の準備。
数年前、こうしたキリスト教史が懐古園で話題になった。そのとき、彼女はこの仕組みを知ってしまい、キリスト教に対して批判的な考えを持つようになったのだ。
「靖国の件と同じで、アメリカによる日本支配の方針には法王庁が関与しているから、やっぱりキリスト教がらみの情報は操作されていると思う」
「そういう操作をやっていなかったら欧米には黒人のキリスト教徒はいないでしょうね」
「そう言えば黒船も歴史改変の一例なんじゃない?」
今度は平次氏が口を挟んだ。
「甲賀の里にさ、黒船の内部を正確に描いた図面があるでしょ」
「え、忍者っすか?」
「そう。忍者が忍び込めたんなら水に毒を入れたり火薬樽に火をつけたりできたでしょ。やろうと思えば間違いなく撃退できたと思うんだ」
「なるほど」
「そういうことなら確かに黒船が怖くて開国したって話はおかしいよね」




