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D・M ~古き穴はランプで  作者: 藤原時照


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21/50

疲労

 その夜、私は夢を見た。

 あの老夫婦の夢。

 彼らは少し離れたところに並んで立ち、私を待っている。

 私はそちらに一歩踏み出す。

 すると、光景が変わった。

 そこには男が横たわっていた。

 その男の脇には熊が。

 熊が男の脇腹の肉を噛みちぎる。

 男の脇腹からは、有り得ないほど大量の黒い液体が勢いよく流れ出た。

 その周りでは外国人たちが熊を称え、浮かれ騒いでいる。

 地面が黒く染まっていく。

 外国人たちへの酷い嫌悪感が沸き上がる。

 そこで目が覚めた。

 いやな夢だった。

 気分がすぐれぬまま、私はバスルームに行って歯を磨く。

 熊と言えば、ヤルダバオートがエヴァに産ませたヤウェ/ヤハウェか、あるいは朝鮮人か(朝鮮の建国神話によると朝鮮人は熊と人の間に生まれた)。

 外国人たちは浅黒い肌で掘りの深い人たちだった。

 グノーシス神話では、黒い水/暗黒の水は闇の世界の母体だ。マンダ教にも同じような記述がある。マンダ教を信奉する者は洗礼者ヨハネの弟子とも言われ、やはりグノーシスに関わりがあり、ユダヤ教や現代のキリスト教と対立する。

――熊に食われていたのはイエスで、外国人たちは……

 私は自分が見た夢について考えながら朝食会場へ向かった。

 最初に私を迎えたのは山盛りの脱ぎ散らかしたスリッパだった。畳一畳分を優に超える範囲でスリッパが散乱している。方向が揃っていないだけではなく、裏返っていたり、積み重なっていたり。そんな状態で、私は自分のスリッパをどこに置くべきか悩んだ。考えた末、濡れ縁のようになっている部分の縁の下に押し込んでおくことにした。

 畳敷きの会場に入ると、そこはさらにカオス。浴衣でここに来るのは禁じられているはずだが、朝食会場はだらしなく浴衣をはだけ、寝ぐせのついた頭のままという人たちであふれていた。もちろん、セルフでとる料理はぐちゃぐちゃ。まるで残飯のようになっている。

 私はパッケージに入っていて安全な海苔や納豆、そして生卵を選んだ。それらを持って席につき、さっさと食べてさっさと退散する。ちなみに、帰りはスリッパの脱ぎ散らかされた範囲がさらに拡がっていて、自分のスリッパがどれかわからなくなっていた。

 部屋に戻り、私は急いで荷物をまとめた。のんびりしていると、人々が一階カウンターに押し寄せ、チェックアウトの順番待ちになりかねない。

 一階に下りてみると、幸いにもロビーは空いていた。すぐさまチェックアウトを終え、これで不快なことからおさらば。そんな風に思っていた。だが、世の中そう甘くない。不運は続けざまにやって来る。

 バイクにまたがってしばらく走ると、ガソリン警告等が点灯した。前日、国道沿いのガソリンスタンドの前を通ったとき、燃料計は半分の位置にあった。だから私は給油せず先に進んだのだ。だが、私は東北の山間部を甘く見ていた。そのあとガソリンスタンドは全く見つからず、あっても閉まっている状態だった。

 スタンドが見つからないまま人気のない山中を走りつづけ、極度の焦りからか耳鳴りがしはじめていた。バイクを押して山道をどれだけ歩くことになるのか。

――ああ、気が滅入る。

 ここは熊出没地帯。昨夜見た熊に食われていた男は自分なのか、などとネガティブな考えが頭のなかで駆け巡る。そんな状態で走り続け、気がつくと日本海が見えるところまで来ていた。

 給油できないまま日本海側に到達することになったわけだが、ようやく見つけたスタンドで給油すると給油量は19・8リットル。残りは1・2リットルだった。最近のバイクであったなら、タンクが小さすぎてガス欠になっていただろう。

 その後、私は食事をする場所を探して男鹿半島に来た。ここは観光名所ゆえに食事処も多くあり、平日なのに人出もある。面白いことに、ここはUFO出現地帯らしく、いくつかの店ではUFOの写真やビデオが紹介されていた。そっち方面も嫌いではないが、予定がつまっているので私は食事を優先する。最終的に、混んでいるところを避けて町外れにある店を選んだ。漁師が経営していることを売りにしている店だ。獲りたて新鮮。そう思った。だが、中に入ると、もうすぐ十二時だというのに客は二人だけ。何となく心配になった。。

 とりあえず席について料理を注文する。私が選んだのは海鮮丼。メニューにある写真では雲丹が大量に盛られていた。一目見て、この店は当たりだ、と思った。

 ほとんど待つことなく出された海鮮丼、見た目は非情に良かった。だが、口にした雲丹はスーパーの見切り品並みに生臭かった。産地であっても流行っていない店では鮮度を期待してはいけない。いい勉強になった。

 店を出て、気分が落ち込んだままバイクにまたがる。

 今度は亀ヶ岡遺跡だ。

 海岸沿いをバイクで北上する。

 だが、落ち込んだ気分のまま走る直線路は拷問のようなもの。似たような景色がつづく道をただただ走る。ときおり見える海の青さが救いだが、それも最初のうちだけ。あとはただ耐えるだけ。少し道を外れれば名所があるのは知っている。だが、今日以降は移動距離が長く、寄り道をする余裕がないのだ。

 ようやく津軽半島にさしかかる頃には疲労困憊。もう周りを見る余裕も無くなっていた。そんな状態で遮光器土偶像――通称しゃこちゃん石像まで辿りついたのだが、その手前にあるはずの考古学資料館へ左折する道は知らぬ間に通りすぎていた。スマホのバッテリーが十分に残っていればナビを利用できたのだが、昨夜充電するのを忘れて使用を自粛していたのがまずかった。

 とりあえず、巨大な遮光器土偶の写真を撮る。興が乗っていろいろな角度から撮影した。めったにしない自撮りまでやってから、ふと我に返る。疲れているせいか、テンションがおかしくなっていたようだ。私は周りに人がいなかったことに安堵し、バイクに戻った。

 ゆっくり道の両側を見ながら来た道を戻ると、「縄文館」という看板を見つけた。地図に載っている建物名とはちがう。だが、位置的にこれが目指す場所のはずだ。この看板、北上する方向から見ると、電柱の陰になっている。見つからないわけだ。

 そこから脇道に入ると、そこから先はさらに大変だった。ところどころに小さな看板があるのだが、何度も見落として私道のようなところに迷い込んだ。迷ってはUターンの繰り返し。縄文館へとつづく道はさらに狭く、本当に合っているのか疑いながら道を進んだ。

 ようやくたどり着いた縄文館には、知っているものとはちがう遮光器土偶がいくつもあった。展示物は充実している。余裕があれば、じっくり細部まで観察していたはずだ。だが、疲れが限界を超えた私には何も響かず、ちらっと見るだけで切り上げてしまった。家に帰ってから、私はひどく後悔した。

 このあと三内丸山にも行ったのだが、疲れている上に、見たことのあるものばかりなので、早々と退散してホテルに向かうことになった。ここがハイライトのはずだったのに。


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