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MA―SHA   作者: 水持 剣真
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参 『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』と『挑戦者(CHALLENGER)』と風紀委員

参 『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』と『挑戦者(CHALLENGER)』と風紀委員


風紀委員――権力がある代わりにほとんどの雑用を任されてしまう、面倒な委員会。風紀委員であるからには、ネクタイにある校章の下にバッチを付けなければならない。

新緑祭が残り三日になったこの学園は、異常な盛り上がりを見せているのにもかかわらず、俺たち風紀委員は用具の確認という雑用をさせられていた。

講堂にいる俺たちは弾幕の動作確認などをやらされている途中で、

「なぁ、空。これどう思う?」

マイクコード(講堂に必要な道具は全部そろっている)に明らかにくっつけた後があるけど、よく見ないと分からないレベルだ。

「誰かのイタズラか何かじゃないのか?」

「イタズラにしては、とても不自然だ」

「どうやってこれがイタズラじゃないと証明する?」

少し違和感を覚えた俺は、講堂に監視カメラがあることを確認して、

「空の権限で南棟にある管理室にいけないか?」

「良いがどうしてだ?」

南棟に行けば、この違和感の正体が分かるかもと期待している俺は、春野を連れて行き録画映像を調べさせようと思っている。

「録画映像か……お前にしてはいい考えだ」

俺はもう、このことに関してはツッコミを入れねぇぞ……。

こいつは俺の考えが読めるのは怖いけど、普通にしていれば別になんともないからな。

それにしても、どうして俺の考えが分かるのだろう?

「よし、分かった! 管理室にいけるように手配しておこう」

「ありがとう! 恩にきる!」

「そこ! ちゃんと仕事しろ!」

そんなやり取りをしていると、風紀委員の顧問である猿飛先生(身体能力がすごい体育科の先生だ)に注意を受けてしまった。

そこで、俺は感じていた違和感を先生に伝えると、

「なるほど……これは確かに故意にやったかもしれないな……」

俺の質問を紳士に受け答えてくれるこの先生は人気があるらしく、バレンタインも生徒から十個以上のチョコをもらっているらしい。(先輩から聞いた話だけど……)

「じゃあ、猿飛先生。あたしの権限でこいつとこいつの友人を管理室に入れるようにしてくれ」

「分かりました、『理事長』」

そう言い残すと先生は消えてしまった。

流石(さすが)、忍者の子孫だな……。

一瞬でこんな事が出来るのは先生以外いないと思う。

そんなこんなで俺は南棟にある管理室にいける事になったけど、期待と不安が入り混じった気持ちがあったが……まぁ、何とかなるだろう。




春野を連れて南棟にある管理室で、講堂の監視カメラの録画映像を調べてもらっている途中で、

「紅赤、明らかに葵さんの力を借りたよね?」

「仕方ないんだよ、春野。俺が感じた違和感の正体を知るためには、どうしても借りざるを得なかったんだ」

不本意だったけど、これも新緑祭を成功させるためだと自分に言い聞かせ、春野と空に協力してもらっているのだから、全力で俺の出来る事をするまでだ。

「もうすぐ、終わりそうか?」

「急かすなよ。僕だって久しぶりなんだから時間が掛かる」

「すまない」

急ぎすぎていたみたいだ。

俺は何をしていたのだろう?

自分で自分をバカにしてしまいそうだ……。

「終わったよ、紅赤」

「ありがとう、春野」

そこに映っていたのは三人の生徒の姿で、遠目の映像だから誰だか分からないけど、ネクタイのところに何か光っているのを見つけた。

「春野、ちょっと拡大してくれないか? 真ん中のやつのネクタイを」

「いいよ」

拡大したものを見ても分からない俺は監視役としてここにいる猿飛先生に、

「このネクタイについているバッチは何ですか?」

「これか? これは生徒会役員がつけるものだ」

生徒会?

生徒会役員が夜遅くに講堂にいるはずないのに、どうしているんだ?

まさか……

「先生。学校で今一番の噂は何ですか?」

「確か……バンド部新設の噂だけどそれがどうかしたのか?」

やっぱりそうか!

生徒会役員なら俺たちが新緑祭でライブをすることを知っているはずだ。しかも、バンド部の新設に不満を持っているならマイクコードに仕掛けなんて簡単に出来る!

違和感の正体が掴めた俺は早速、空に電話をかける事に、

「もしもし、空か?」

「なんだ? 灯焔。何か掴めたか?」

「ああ、これからお前の名前を使いたいんだけど――」

「構わない! その調子だとコードを会社から借りるか、新しく買わないといけないんだろう? それなら、仕方ない。あたしの名前を使うのだから、新緑祭は絶対に成功させろよ?」

「もちろんだ! 『赤い(レッド)(サファ)(イア)』」

久しぶりに空の事を二つ名で呼び、俺は新緑祭を成功させるために

「猿飛先生。今から理事長の名前で指示を出します! まず、この三人の生徒会役員の判明。次に、『JAブルー』からマイクコードを借りる手配をしてください。コードは明後日までに学校に届くように、三人の生徒会役員に関しては、判明次第俺に知らせてください。風紀委員権限で俺が処罰します」

「分かりました」

すぐに行動を始める先生。その姿は本当に忍者のようだ。

実際、忍者の子孫だけど……。

先生が完全にいなくなったのを確認してから

「春野、ゴミ掃除手伝ってくれるか?」

「もちろん! 二人でもう二度とこんな性質(たち)の悪い悪戯が出来ないようにしてやろうじゃないか!」




翌日。

新緑祭まで時間がない残り二日でマイクコードをだめにした(あの後講堂に戻って確認した)生徒会役員を判明させないと……。そして、「JAブルー」から借りたマイクコードもまだ届いてないらしい。本当に間に合うのか不安だ……。

「灯焔、昨日はご苦労様」

「ああ。でも、これからだ。本当に大変になるのは」

「そういえば! 昨日、会社から電話がきたのだが何か知らないか?」

「マイクコードを借りるために学校から連絡したんだ。多分、それで電話が着たんだと思う」

「そうか。じゃあ、あたしはこの件には余り首を突っ込まないで置こうかな。責任は全て灯焔と暁おじさんだからな!」

それはない……。

なんかはめられた気分だな。

『一年A組の紅赤 灯焔君。猿飛先生がお呼びです。至急、応接室まで来てください』

猿飛先生が?

あの糞生徒会役員のクラスと名前が分かったんだな!

なら、すぐ応接室に行こう!

「悪い! 空。俺、ちょっと呼び出されたからすぐ行かなきゃならねぇ」

「そうか。なら、きっちりと叱られて来い」

俺が望んだとおりの回答をする空は本当に頼りになるやつで、こういうときは本当に助かる。

俺は行く。あの糞生徒会役員共の正体を知るために応接室まで。




「来たか。よし、理事長の名前を出されている限り、オレに拒否権はないからな。適当に席につけ、これからお前が知りたい情報を全て教えてやるから」

猿飛先生が飯を食べている途中に俺が来たらしい。

目の前にある光景はすごいもので、おにぎりを片手にハンバーグを食べている。

この先生、本当に竹を割ったような性格をしている。だから、しゃべりやすいのかもしれない。

「まず……『バンド部』新設とマイクコードの損傷の関係についてだが――」

前置きしなくても俺の知りたい情報は二つしかない。

一つは今、猿飛先生が説明してくれている事。

もう一つはあの糞生徒会役員共がどこのクラス、どの役職、どんな名前のやつなのか。

「お前が思っている通りでほぼ間違いない。彼らはやっぱり、今までの部活申請を『理事長』不在という理由だけで、受理してもらえなかったという事に腹を立てているというのが、主な理由でその腹いせとして、新設した『バンド部』を潰そうとしている。これが一つ――」

部活申請が受理されなかったのは後で空に謝罪文を書いてもらう事で解決するだろうけどその腹いせとして新設した「バンド部」を潰そうというのが許せない!

それだけで俺の怒りが臨界点を超えそうだ!

「二つ目の情報だけど、これに関しては俺が教えるより実際、会ったほうが早い。よって、今日の放課後、オレの名前で講堂に呼び出すから、そのときに風紀委員権限で思いっきり殴ってやれ。その後でも遅くはないだろ? あの三人の生徒会辞退とマイクの弁償費請求は。でも、三人の処分は『理事長』直々に下してもらうからな」

「わかりました。それでお願いします」

俺は怒りが爆発しないように出来るだけ冷静にそう答えた。

でも、あの先生の事だから何でもお見通しなんだろう。あの人が本当に先生で助かった。もし、生徒なら空と同じで敵に回ったら手も足も出ない……。

「失礼しました。あと、ありがとうございます」

「いや、な~に礼を言われるほどのことはしてないよ」

彼は残りの飯を食べながらそんな事を言っていた。

本当に格好いい先生だ。




放課後。

西に沈み始めるオレンジ色の宝石はとても綺麗で、今いる場所がこの世の果てだという事実を出されたとしても、疑いはしないであろう景色を背景に、

「空、今日、帰りが遅くなるから夕食はお前に任せる。後、これも渡しておくから」

鍵をポケットから出し空に渡そうとしていると、

「兄貴~、嵐はどこ?」

「春野? 俺はどこにいるのか知らないぞ」

ごめん、アカ……本当はどこにいるのか知っているけど、それを教えるわけにもいかない。

それを教えてしまえば彼女は、絶対に彼を止めに行くだろう。「そういうことは兄貴に任せればいい」というセリフを使って。

「じゃあ、頼む。夕食、期待してるから!」

「任しておけ! お前のために青椒肉絲(チンジャオロース)を作ってやるから楽しみにしてるんだな」

「それは勘弁してくれ!」

他愛もないやり取りをしてから俺は講堂へ向かう。

全ては新緑祭を成功させるために!




「お久しぶりです。いつ以来でしたっけ? 先輩」

講堂にいた人物は俺が昔、灰にした人物が一人と元ストーカーが二人いた。

「何でお前がここにいるんだよ! 俺たちは猿飛先生にここに来るように、といわれたからここに来ている。お前みたいなやつが呼び出されているはずがない!」

よく、生徒会なんてものをやる事が出来るな。根性が腐りきっている。早急に、叩き直してやらないと駄目だな。

「ねぇ、あれ誰?」

「紹介するのがまだだったな。右から生徒会会計・西村先輩。真ん中が生徒会書記・南先輩。左が生徒会副会長・(あずま)先輩だ」

ちなみにこの三人、右から北野を誘拐した誘拐犯、アカのストーカー、空のストーカーという経歴を持っている俺が会いたくない先輩なんだけど……それは多分お互い様だな。こいつら本当にクズな考えしか持っていないのかなぁ~。

「ふ~ん。さっさと成敗しますかね、紅赤」

「いいぜ! 早く終わらせよう、春野」

春野は俺ほどではないけど喧嘩が強い。俺がこっちに引っ越してきて、始めて喧嘩したやつが春野だ。何が原因で喧嘩したのかは忘れてしまったけど、俺を一人で追い詰めた事があるのはプロの人達を除けばこいつしかいない。

まぁ、俺は合気道、ボクシング、空手、柔道、ムエタイをやっていたからそう簡単に負けないけど。

これだけやっていれば人を殺す事なんて簡単だが、そんな事をしたら俺は殺人罪で訴えられてしまうので手加減をしつつ相手を倒さないといけない。

「昔は簡単にやられたけど、今回はそう簡単にやられない。覚悟しておけ、『地獄の業焔』」

そう言って俺に向かって駆けてくる西村先輩を、カウンターの要領で鳩尾に右ストレートを決め、後ろにいる東先輩の右頬に上段回し蹴りをヒットさせる。

南先輩の相手をしている春野のところにいこうとすると、

「おい、お前の相手はここにいるぞ。だから、南のところには行かせねぇよ」

「そうですか、東先輩。なら、先輩達を消し炭にしてやりますよ、風紀委員として」

二人ともあの一発で沈んでくれたら、風紀委員権限を使わないつもりだったのに、もったいない事をするな。本気の三分の一も出してないのに。

どこかで猿飛先生も見ているはずだから、早めに終わらせますかね。

俺は体勢を低くし両手であごをガードしながら、ダッシュで西村先輩のところに行き

バン!

左ストレートをもう一回彼の鳩尾に決め、ものすごい轟音とともに西村先輩を講堂の端まで一気に吹き飛ばす。

「マジか……これが――」

「『地獄の業焔』の本気だと思ったら大間違いですよ、南先輩。これが紅赤の本気なら、西村先輩は死んでいます」

おいおい、お前会話している余裕なんてないだろ?

俺の後ろにいる東先輩は反撃のチャンスだというのに、こっちに来る気配が一切しない。まさか、あの一撃で怖気ついたとか言わないよな?

俺の怒りは収まりきれない。

あなた達先輩のせいで、この新緑祭のために努力している人達の涙を見る事になると、考えるだけで俺は本当にこの先輩達を殺しそうになってしまうが、その衝動を必死に我慢し殺さないけど、気絶ぐらいはさせてやる気で俺は拳に怒りを込める。

後ろにいる東先輩のところまで距離を詰めたところで、彼は俺に右ストレートを打ってきたけど、それを左ステップでかわし彼の顎にアッパーを決める。

勢いよく上に跳んだ彼はその勢いのまま床に倒れこむ。

二人とも完全に伸びている。もう一発ずつ決めてやりたかったけど、それをやってしまうと本当に殺しかねない。

「終わったかい? 紅赤」

「もちろんだ! お前にしてはずいぶん苦戦したじゃないか? 昔のお前なら無傷で倒せたはずだぞ」

「久しぶりだからね。勘がなかなか戻らなくて……」

春野の頬には殴られた後が十箇所ぐらいあった。

俺は無傷で勝ったって言うのに本当にこいつは何をしているんだか……。

「猿飛先生、いるんですよね? こいつらさっさと運んじゃってください、邪魔なんで」

「結構ひどいな、お前。三人とも気絶しているじゃないか。介抱するのが面倒だな、これは」

「当然です。自分達が悪い事をしたからこうなるんです。えっと……こういうことをなんて言うんだったけ?」

「因果応報」

「そうそう、それそれ!」

彼は講堂の扉から入ってきた。

俺はてっきり俺たちの後ろから出てくると思ったんだけど……。

「よし、お前らはもう帰れ! 三人とも顔に目立った後はないから、保健室にでも運んで置けば何とかなるはずだ。しかし、二人とも喧嘩強いんだな。オレが相手でも勝てるんじゃないか?」

「冗談はやめてください。俺は自分のための喧嘩なんか一回もしたことないんですから」

「その通りです、先生。僕達が二人がかりで挑んだとしても勝てないですよ」

残りの事は猿飛先生に任せて俺たちは家に帰ることにした。

それにしても少しやりすぎたかな? 怒りがあふれていたとはいえ気絶までさせなくても良かったなと軽く後悔してしまったが、今となってはもう遅い事。

その日、俺は久しぶりに春野と二人きりだった。



「「「おかえりなさい(です)」」」

家に帰ると出迎えてくれたのは三人の女の子と、とってもいい匂いがする夕食――コーンクリームスープとステーキ、ポテトサラダに白米――だった。

青椒肉絲(チンジャオロース)じゃなかったのか?」

「冗談に決まっているだろ。お前が頑張っているのになぜそんなものを準備しなければいけないんだ?」

そう言われるとそうなのかもしれないが、俺としては頑張ってみようかなと本気で思っていたりする。

「「「「「いただきます!」」」」

そういって食べ始める空が作った料理はとってもおいしく、とくにコーンクリームスープは神だった。

他愛もない会話を繰り広げていると、

「明日、あたしは生徒会役員の処分についての会議があるみたいだから、遅くなるかもしれない。もし、夕食の時間までに帰れなかったら先に食べていてくれ」

明日は、空が練習に参加できない。

新緑祭まで明日が最後だというのに、マイクコードの損傷や生徒会役員の処分決定会議なんかで時間が取れないのだ。

俺も別件で動かないといけなくなるから、練習にほとんど参加できないんだけど……。まぁ、明日、コードが来るのを待つだけだし。

明後日(あさって)、最終調整として朝練をする代わりに明日は休みにする?」

「そうだな、明日は俺も別件で動かないといけないから」

「姫と茜はそれでもいい?」

「「かまわないわよ(です)」」

「じゃあ、それでいこうか」

夕食の時間は辛気臭い会話が中心になるのかと思っていたら、

「あ! そうだ! 新緑祭でやるライブの衣装だけど、昨日やっと家に届いたんだよね! だから取りに帰るけど、すぐに戻って衣装合わせするからよろしく!」

すっかり忘れていた!

こいつがライブを制服でやるやつじゃないという事を!

すぐに衣装を取りに自宅に行った春野は俺たちの休息を奪っていった……。



春野が衣装を取りに帰ってから十分後。

「やっぱり茜はこういうコスが似合うね」

完全に自分の世界に陶酔している春野の姿が俺の目の前に。

アカは『桜学園』の制服を身に纏っていてとても綺麗。

『桜学園』というのは、最近人気絶頂のラノベである『星降る谷の優しい雨』に出てくる高校の事で、ここの制服はピンクが主体のセーラー服だ。

こういうものを平気で偽名(春野 桜というらしい)を使って買えるから、春野が春野(オタク)である理由なのかもしれない。

だから、今の彼女はピンクのスカートにピンクのセーラーを着ていて、細い黒のリボンを締めている。

アカはこういうのが好きだから別に良いんだけど、まさか……それを空と北野も着るとか言い出さないよな?

「じゃあ、姫と葵さんも着て。早く! 早く!」

完全にスイッチが入っている……。

こいつが一度こういう状態になると自分が満足するまで戻らない。しかも、目的のためならどんな犯罪にも手を染めてしまう危険極まりないやつになってしまう。

まだ、一度も犯罪に手を出してないからいいけど……。そのうち本当にやってしまうんじゃないか?

「待て! どうして、あたし達までこれを着なければならないんだ?」

「どうしてってそれは衣装合わせだから♪」

春野に空と北野が強制連行されてから、二十分後、(衣装合わせと言われ俺も着替えた)

「「どうだ(ですか)? 灯焔(紅赤君)。似合っている(ます)か?」」

「二人ともよく似合っている。でもよく着たな、それ」

「着ないと大人しくならなそうだからな」

「まったくその通りです! 私達のサイズどうして知っているのかが、ものすごく疑問に思います!」

「おい! 春野!」

どうしてお前がそんな大事な事を知っているんだ! その情報俺にも教えろ!

彼女達は俺があいつに説教をするから呼び出したと思っているのだろうけど、真実はいつだって残酷だ。

俺が呼び出した理由は、

「三人のスリーサイズを教えてほしい」

「いいよ、紅赤。こればかりは聞かないと男じゃないよね」

春野は俺にだけ聞こえる声でそう答えると空、アカ、北野の順に教えてくれた。さらに、それを知るための方法まで俺に教えてくれる。なんて気前のいいやつだ!

「これを他の人達に言っちゃだめだかね。この情報は売れるんだから」

考える事がやっぱり腹黒いやつだ。

まさか、売るとは……俺にはとても思いつかない。

俺と春野の衣装の事は誰からも何も言われなかった。

それもそのはず、俺たちは普通に学ランを着ているのだから、感想を求めても仕方ない。実際、中学のときにきていたものをそのまま使っているからな。

違う点といえば校章が中学のものから春野がわざわざ買った物(『桜学園』の校章)になった事くらいだ。

「三人ともピッタリだね! これなら問題ないかも。じゃあ、ライブはこの衣装でいくことになるから宜しく~」

その瞬間三人とも着替えに行った。

写真にとって置けば良かったかな~。

後悔しても仕方ないから俺も着替えて風呂にでも入るとするか!




まったく、何もなかったかの様に帰ってきて、本当にバカなやつだ!

あたし――葵 海空の名前を使うという電話をかけてきた時はこの学校に……いや――新緑祭の開催に支障が出るほどのものだという風に予想はしていたけど、本当にそうだったとは……。

何も言わなかったが春野君の顔には明らかに殴られて後があったぞ!

灯焔のやつ風紀委員権限を使ったな?

あの権限は簡単に言えば、学校内の警察権限で犯人は問答無用で処分会議にかけられてしまう性質の悪い権限でしかない。

これがあるから風紀委員は学校内で高い権力がある。

しかし、この権限はそう簡単に使えるようなものじゃないのに、あのバカどうやってあの権限を使ったんだ?

「お人好(ひとよ)し……」

あたしは何をしている?

あいつのお人好しは今に始まった事ではないのに……。

あれを使った現場には猿飛先生がいたのだろう。

あたしは勝手にそう結論付けると自分が担当するボーカルの練習を始めた。

歌詞を早く覚えないと!

紅赤君は私達に知られないように何かしているみたいですけど、嵐君の顔の傷がとてもひどかったです。

私――北野 白雪と海空ちゃんは何も言いませんでしたが、今頃茜ちゃんにしかられているはずです。

なぜなら、一番彼のことを心配しているのは彼女ですから……。

私も紅赤君のことを叱ろうかなと思いましたが、それは紅赤君らしい行動でしたからやめておくことにしました。

彼は昔から何も変わりません。

海空ちゃんが転校してきたときは少し冷や冷やしましたけど、彼は私と同じように接してきたので、少しほっとした事を今でも覚えています。

しかし、彼女は彼のことは何でもお見通しみたいで、彼女に紅赤君を取られるのではないかと不安に感じてしまいます。

「少しくらい心配してもいいですよね」

彼が私を心配するように私が彼を心配しても罰は当たらないはずです!




俺が糞生徒会役員共を気絶させてから二日後。

彼らは二週間の停学処分に生徒会役員を強制辞退させられてマイクコードの弁償費を出す事になった。

コードは無事学校に届けられ、今日が終われば返さなければならない。親父に感謝しないと! 本当に。

新緑祭開催日の今日は生徒のテンションがとてつもない位高い。

多分、噂の「バンド部」がライブを講堂で行う事になっているからだろう。

今日の朝練は少しつらかったけど、とても楽しくすごく綺麗な演奏をしたと思う。この調子なら今日のライブも問題ないなと感じさせるくらいに。

「今日のライブ、成功するといいですね!」

「そうだな! 絶対に成功させよう!」

俺は教室で北野やアカと一緒にいるせいか最近、嫉妬の目で見つめられている事のほうが多いような気がしてならない。

このライブをきっかけに本当にファンクラブでも作られるんじゃないか?

そうなったら俺は一体どうなるんだろう?

「心配するな。皆がお前を見捨ててもあたしはおまえの味方でいるから」

「ありがとう……」

さらっと告白みたいなセリフを言った空だけど、本人はそんな気は一切ないのかもしれない。

北野が嫉妬のまなざしでこっちを見ている感じがするが、俺の気のせいだと思い過ごしたい。

「兄貴~! 講堂の方は準備OKだって~!」

「ありがとう、アカ。じゃあ、移動しますか」

「それ、僕のセリフ!」

着替えるために俺たちは移動を始めた。




あたし――葵 海空が着替え終わるとそこにいたのは、

「結構似合っているよ、その制服」

「ありがとう。灯焔はどこにいる?」

「あいつなら多分、講堂でチューニングをしているよ」

「ありがとう、茜のこと頼む」

「もちろんだよ! 葵さん」

彼はここで待つつもりなんだろう。自分の彼女を。

あたしも早めに出て緊張を解そうと思ったけれど、どうやらそうはいかないかもしれない。かえって緊張してしまう。

自分が好きな人の前で歌う事がこんなに緊張するものなんだというのを知ったのは、中学生の頃。好きな人の前で歌うのでさえ緊張するのに、大勢の観客を目の前にして歌うのはもっと緊張してしまう。

「空、似合っているじゃないかその衣装。やっぱり緊張してるのか? 俺も緊張してるよ。これをどうにかする方法知らないか?」

「知らない。もし、そんな方法があるのなら教えてほしいものだ」

黒いエレキベースをチューニングしながらそんな事を言っている。そんな灯焔はいつも以上に頼りになる。

あたしは灯焔以上に緊張しているのに、灯焔はそんな様子を微塵も感じさせない。

これがあたしと彼の決定的な違いなのかもしれない。

彼は緊張していると口にしつつもそれを感じさせない何かを持っているのかも。

あたしには無い何かを……。

「やっぱりここにいましたか! 最後に皆で気合を入れませんか?」

「いい提案だね。茜もそれでいいよね?」

「うん! 嵐がいいならウチも良いに決まっているわよ♪」

皆が賛同し円になり五人の手を重ね気合を入れる。そのセリフは

「MA―SHA! ファイトォ!」

「「「「いっぱぁーつ!」」」」




弾幕が上がりあたし達の初ライブが始まる。

「皆さん! 始めまして! 僕が噂の『バンド部』部長の春野です!」

『おぉぉぉ!』

講堂から沸きあがる歓声はあたしにとってすごいものだ。

まだ、曲を披露していないのにこの盛り上がり。「バンド部」が学校中の噂になっていたのは知っていたけど、ここまですごいものだとは思ってもいなかった。

「曲を披露する前にメンバーを紹介しましょう! まず、キーボードの北野 白雪!」

「皆さん! 始めましてです!」

彼女はそういうとキーボードで軽くパフォーマンスをする。あたしはパフォーマンスしたくても出来ないというのに……。

「次、ベースの紅赤 灯焔!」

「始めまして! 以後、よろしくお願いします!」

灯焔は北野さんみたいなファンサービス(まだ、ファンすらいないけど)をしなかった。誰よりも他人のことを考えるやつだからやると思ったのに、ちょっと期待はずれだ。

「ギター! 春野 嵐!」

自分で自分を紹介するのはなんか悲しいな……。

彼も何もしなかった。自分のことだけで精一杯なんだろう。

「ドラム! 紅赤 茜!」

「よろしくお願いします!」

やっぱり兄妹だな!

と感じた直後に彼女はドラムパフォーマンスを披露した。彼女の運動神経とリズム感は尊敬に値するな。

「最後にボーカル! 葵 海空!」

「皆さん! 盛り上がっていこうじゃないかっ!」

あたしはそう言うので一杯一杯だったが、他のメンバーがフォローとして演奏してくれた。

「メンバー紹介が終わったところでまず一曲目! 校歌MA―SHAヴァージョンを聴いてください!」

そう言ってから始まる校歌の前奏はこの間の入学式に聞いたものではなく、北野さんが(本人は暇つぶしでやったといっているが)わざわざ、編曲してくれたものだ。

彼女が音楽を好きなのは知っていたが(頭に自作したピアノの鍵盤模様にト音記号をつけたカチューシャをしているから)ここまで校歌を自分達の耳に残るサウンドに出来るものなんだと知ったときは驚いた。

そんな彼女とは明らかなる恋敵(ライバル)だけど、灯焔のことを抜きにすればいい友達だとあたしは思っている。

話題が少しそれてしまってすまない。

あたしの歌声は観客の皆さんにはどう聞こえているか?

そんな事を疑問に思ったけど校歌が終わると

「サイコー」「綺麗な歌声」

観客席から聞こえた言葉があたしの緊張を解してくれる。

その歓声は今までに感じた事が無いくらい気持ちのいいものだ。(実際、まだ二回しか、感じた事無いのだけれど)

「次の曲はボーカルの葵さんが作詞した曲です! どうぞ、お聴きください! 僕達MA―SHAでMarionette’s heart!」


Marionette’s heart

作詞 葵 海空

作曲 北野 白雪


あたしの心はあなたに支配され、自由じゃない頭であなたの事を思う


あなたは困っていたあたしを助けてくれた

あたしはその姿に何度も救われ、何度も憧れてきた

どんなにあたしが変わっても、昔と同じように接してきた

あなたの心がとても嬉しかった。だから――

あたしの心はあなたに支配され、自由じゃない頭であなたの事を思う

そして、あなたに伝えたいあたしのこの思いを


簡単なものほど難しく、何回も伝えようとしているのに

言葉に出来ないあたしの心は、あなたの心より弱くて儚い。

そんなあたしをあなたは何回も励まし、エールを送ってくれたね

その強さがほしかった。だから――

あたしの心はあなたに惚れ、あたしの思い描く未来にあなたがいる

勇気という強さであなたに届けたい、あたしの気持ちを


この曲はあたしの正直な気持ちを書いたものだ。

そして、あたしの心の状態と未来を書いたものでもある。

この曲に込められているあたしの思いを灯焔は感じ取ってくれるのか?

少し不安だけど、あいつなら感じてくれるはずだと信じるしかない。

一週間前に初めてこの曲の練習をしたけど、バラード調のリズムで刻まれる思いはあたしにとって、とても大事なものだ。

サビに入るとキーボードの音が耳に入ってくる。

「あたしの心はあなたに支配され――」

観客はこの曲に身を任せているのか、歓声がまったく聞こえてこない。しかも、このライブに来ている女子生徒はうっとりしている。この曲に共感しているならとても嬉しい!

あたしの心がどうか彼に届くのを祈るばかりだ。

そんなこの曲も、もうすぐ終盤を迎える。

それはあたしの『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』である時間が終わる事を意味している。

「勇気という強さであなたに届けたいあたしの気持ちを」

約三分半。この時間はあたしが『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』でいられた時間……。

あたしの思いはこの歌がある限り永遠に続く。

例えあたしが灯焔以外の誰かを好きになっても永遠に――。

「皆さんどうでしたか? 僕はこの曲を気に入っています。共感できた人もたくさんいたのではないのでしょうか? 次の曲は僕達五人で作った曲です! どうぞ聴いてください! 僕達五人の絆を!」

そう紹介をする次の曲は五人の絆の形だけど、あたしから言わせれば、五人で作ったとはいえプロには届かないところがたくさんある。まぁ、あたしが作った曲もだけれど。

それでも、五人で何かをやり遂げたという事実のほうが大きい。

ずいぶん話がそれてしまったような気がするが、気にしないで聴いてもらおう! あたしたち五人――MA―SHAでCHALLENGER!


CHALLENGER


作詞 MA―SHA

作曲 北野 白雪


あたし達はチャレンジャーだから

駆け抜けるこの脚で、飛び上がるこの心で

そして掴み取る、あたしだけのものを


落ち込んでいるときに教えてくれた、あたしに足りないものを

それがあればあたしは無限に飛び続ける事が出来る

どんな事をしてでも手に入れたいけど、あなたは

手に入れるためには、常にあたしらしくいる事だと言った

それは分からないけど

あたし達はチャレンジャーだから

駆け抜けるこの脚で、飛び上がるこの心で

そして掴み取るあたしだけのものを


新しい気持ちで挑むことは、簡単だけど

難しくて大変でなれないことばかり

そんな時いつもアドバイスをしてくれる、君の背中は大きく見えた

君は君らしさを見付けたのかなと、あたしは疑問に思ってしまう

だけど、あたしはいや――

あたし達はチャレンジャーだから

走り続けるこの脚で、探し続ける自分らしさを

そして、GETするあたしの翼を


道標はない、明かりもない場所で

あたしは迷っているけど

いつも、いつでもあたしを

助けてくれるあなたも迷っていたんだね

あたしらしさ、君らしさはよく分からないけど

あたし達はチャレンジャーだから

あたしは駆ける自分の道を、走り続けるこの脚で

そして、見つけ出した自分らしさで

あたしは飛び続ける遥かなる未来(そら)


灯焔も物好きなやつだ。

わざわざ、「五人で一曲を作ろう」だなんてよく考え付いたものだよ。

あたしは良いと承諾したけど、他の皆もよく快諾したものだ。提案の理由はやつが詞を書くのが面倒くさかったからだろう。

でも、そのおかげでいい曲が完成した。

この曲は歌っていてあたしも気持ちがいい!

灯焔たちも演奏していて気持ちよさそうだ!

この曲はドラムとベース――紅赤兄妹が中心になっていて、リズムが耳に残りやすい一曲に仕上がっている。

あの兄妹は意外なところで似ていて、嫌いなものもほとんど同じようなものだ。兄がピーマン、妹がパプリカと色が違うだけでほぼ同じ。

そんな似たもの兄妹だから親近感が沸くのだろう。

「あたし達はチャレンジャーだから――」

サビに入ると観客の声援が高まっているらしく、テンションが始まる前よりも明らかに高い。

紅赤兄妹のパフォーマンスがすごく、灯焔が紹介のときにしなかった理由が分かったような気がした。確かにこのためだと考えれば納得いく。もしあの場面でやっていたなら、ここでのパフォーマンスは意味の無いものになっていたのかもしれない。

彼らの表情も生き生きしているし、北野さんも春野君も楽しそうだ! この誘いに乗って正解だったな。

あたし達はいついかなるときも『挑戦者(CHALLENGER)』だから!

どんなときでも『挑戦(CHALLENG)』する心で何事も恐れずにいる事はあたし達――若者の特権だから頑張れるのかもしれない。

そう思うとあたしの中で一筋の光が見えてくる。

「そして、見つけ出した自分らしさであたしは飛び続ける遥かなる未来(そら)へ」

このフレーズがあたしの中の(ゆうき)を肯定している気がする。

あたしは頑張ってみようと思う……。

さて、話題は急に変わってしまうがこのライブはもう終わってしまう。

あたし達がこの講堂でお送りしたライブは観客の皆さんには、どういう風な印象を抱いたのだろう?

「皆さん! 僕達のライブはどうでしたか? 僕はここでライブが出来た事を光栄に思っています! さて、バンド部はいつでも入部を歓迎しています! だから、いつでも僕達の部室に来てください!」

大好評な感じだったライブは大歓声の中終わった。あたしはもうちょっとやって来たかったけど、披露する曲がもうないから仕方ない……。

あたし達も観客も満足しているからよしとしよう!




成功を収めた俺たちのライブはとても楽しいものだった。

あのライブでさらに五人の絆が深まったような気がしたけど、空が作った(か、どうかは微妙だけど)曲は明らかにラブソングだよな……多分、俺――紅赤 灯焔への。

『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』は女の子ではない俺でも共感できた。あの曲は恋をした事のない人でも共感できるんじゃないかと俺は思う。俺はあの曲に何を感じたのだろう。

感じるものがあるのなら俺はいったい……。

俺を『操り人形(Marionette)の('s )心(heart)』にする人はいるのか?

俺には周りの人が幸せならそれでいいかな、と考えているけど、もし水也さんに相談したら絶対に怒られるんだろうな。

彼なら間違いなく「自分の幸せも考えないとだめだろ! コウ」と言うはずだ。

今、本当に誰かを幸せにしているのか不安に感じてきてしまった俺は北棟の屋上に行くことにした。

扉を開けると先客がいる。その先客は――。


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