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MA―SHA   作者: 水持 剣真
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white snow on north 彼を好きになった理由

white snow on north 彼を好きになった理由


私――北野 白雪が始めて紅赤兄妹と出逢ったのは中学に入学してからすぐの頃です。

その頃の私はやっぱり、周りから浮いていてまたいじめられるのかな? なんて思いを少なからず感じていました。

そんな不安でいっぱいの自己紹介の後に彼は、

「お前が北野か? 話は春野から聞いていたけど本当に髪が白いんだな」

髪が白い……その言葉は私の心の奥底に火をつけました。気付けばもう――、

「髪が白い……それを口にしないでください!」

彼をフルボッコにしていました。




気絶した彼を嵐君と運んでいる途中に、

「ごめん! こいつの事言ってなかったね。こいつの名前は紅赤 灯焔。僕の親友だから」

「そういうことは早く行ってください! 嵐君の知り合いだったと知っていたら、こんな姿にならなかったかもしれません……」

保健室で看病していると彼は寝言で、

「人型のホワイトタイガーが俺をぉぉぉぉ」

……私は怒るとそんなに怖いですか……。

「兄貴! 大丈夫?」

保健室にもうダッシュで駆け込んできた女の子は、私より綺麗でかっこいい人です。嵐君に誰ですかと尋ねようとしたら、

「茜ちゃん。ど、ど、どうしたの?」

「嵐! 兄貴が保健室に運ばれたって聞いたから……」

兄貴? なるほどそういうことですか。なら彼女は間違いなく……。

茜ちゃんと呼ばれた女の子は、あたしの向かい側に座って紅赤君の看病を始めました。彼女はちょっと困惑していて……、

「兄貴が保健室に送られるなんてありえない! 何があったの?」

嵐君に説明を求めていました。

その説明の途中で私のことを紹介した嵐君は、説明が終わった瞬間に、保健室を出て行き私と茜ちゃんの二人きりになってしまい、少し気まずい空気が漂っていました。

「……」

「……」

沈黙を耐えること三十秒。

「あれ? アカどうしてここにいるんだよ? 俺とお前は別のクラスのはずだけど……」

「兄貴が保健室に運ばれたって聞いたから、ダッシュで駆けつけてきたの!」


 「そうか悪かったな。俺は大丈夫だ!」

茜ちゃんは紅赤君が大丈夫である事が分かると保健室を後にしました。後で謝った方がいいのでしょうか?

「すまない、北野! お前が気にしている事をつい口にしてしまったみたいで」

「いえ、いいんです。私もごめんなさい」

最悪の出会いをした私達。

このとき、私はこんな人がどうして嵐君の親友なのかが分かりませんでした。




あれから、ちょうど一週間がたちました。

私と紅赤君はギクシャクした関係で、嵐君がいなければ会話すらも成り立ちません。茜ちゃんとは、たまに話すくらいの仲にはなりましたが……。

「嵐君の事どう思います?」

「春野はなに考えているのか分からないけどいいやつではあるよな」

「確かにそうですが……」

それ以降の会話が続かない私達は近すぎず離れすぎずの関係で、嵐君という仲介役がいないと行動も共にしません。

そんなぎこちない会話の途中で、

「おい! 早く金出せよ!」

明らかにカツアゲだと分かるセリフが私達のいる中庭に響きました。

「ごめん、北野。ちょっと、急用を思い出した」

かかわらないほうがいいのにと、胸の中でそう思いました。

なぜなら、こういうのにかかわると次のターゲットが自分になってしまうからです。

いじめは気に入らないやつから始め、それを味方するやつもいじめるという悪循環が起こり、それがいつの時代もループしていきます。

嵐君も私もいじめられていたから、かかわらないほうが身の為だと知っていました。だけど、彼は、

「何をしてるんですか? 先輩」

「見て分からないか? カツアゲだよ。カツアゲ」

「そんなバカみたいな真似止めといたほうがいいですよ」

「てめぇ! こいつを庇うのか? 何も出来ないクズはこういう風にしてる方が、世のためになるんだよ!」

「じゃあ、俺は先輩達を潰さないといけないですね?」

「なに言ってるんだ? 新入生! 一人で何が出来る?」

自分から首を突っ込んでいきました。

いじめが怖くないのでしょうか?

「姫! 紅赤は?」

「あそこにいます」

「また、やってるよ。怖くないのかな、本当」

そんなのんきな会話をしている間に、彼は三対一の喧嘩を始めました。明らかに不利なはずなのにたった一人でいじめられていた先輩を護るために喧嘩をしています。

「あいつ、過去に自分の幼馴染がいじめにあっていた事があってね。そのときは五対一だったかな? あのバカたった一人で目に見えている、いじめられているやつを護る気なんだよ。『地獄の業焔』って言う二つ名を使ってね」

本当にバカな人だなと思いその喧嘩を見ている事しか出来ない私達は、彼が帰ってくるまでベンチで雑談をしていました。

三対一の喧嘩は紅赤君の圧勝でした。




それから三日後、彼は校内中の有名人になり、何とかして彼を負かそうとする人達が増えてきました。

結果、不意打ちにあったりとかしているみたいですけど、難なく襲ってきた人達を一撃で黙らせているらしいです。

ある意味で非日常みたいな日常を過ごしています。

「北野はなんか困った事ないのか?」

「別にないですけど……」

あの喧嘩の後、私の中で彼に対する意識が変わってきました。

人を護るための喧嘩なんて自分が得するわけでもないのに、喧嘩をしている彼はただのお人好しではないのでしょうか?

そもそも、喧嘩は自分のためにするものであって、他人のためにするものではないと私は思っていました。

だから、彼は他人を護る事で自己満足を得ているのでは? と考えている自分がいます。

嵐君は彼の目に見えているいじめを受けている人達を護るバカな親友といっていましたけど、私はそういう風には考えられなかったのです。

帰り道の途中(彼の家の前で)彼と別れ、自宅に向かっている最中に、

「こいつがあの『地獄の業焔』と一緒にいるやつか?」

「ああ、間違いない。人質にすれば必ずやって来る」

おなかを殴られ気絶する前に私が聞いた最後の会話でした。




目が覚めるとそこは海岸線にある工場やどこかの倉庫ではなく、中学校の体育館でした。

頭の中はクエスチョンマークが支配していました。

「もしもし、あんたの大事な人は預かった。助けたければ、中学校の体育館に一人で来い!」

その言葉を聴いて私の頭の中のクエスチョンマークは消えていきました。

私、誘拐されました。

紅赤君を倒すために私を利用しようとしていますか?

電話から十分後、

「俺の大事な人? そうか、北野のことだったか。俺を倒すために人を誘拐するとはいい度胸じゃねぇか! てめぇらまとめて灰にしてやるよ!」

たった一人で紅赤君は喧嘩をしていきます。その後姿は、私が今まで見た人の中で一番格好よくそして怖かったのを今でも覚えています。

彼はどうして人のために、そこまでするのかがよく分かりません。でも、彼は十人を相手に互角にやっています。まるで、誰かを護る事で自分の存在意義を確認しているみたいに。

だから、私は――、

「どうして! 他人のために本気になれるんですか!?」

「俺は昔、俺の尊敬する人に勝ちたいと思って筋トレや合気道を始めたけど、それは違っていた! 俺の尊敬する人は自分のことなんかよりも、他人を優先する人で俺も最初どうしてなのか分からなかったけど、幼馴染を助けて分かった事があった! それは――」

彼はそこで言葉を区切り二、三人殴り倒すと、

「それは――自分よりも自分の周りにいる人に幸せになってほしいから、俺は見ず知らずの他人でも助ける! それが例えただのお節介であっても……俺は自分の出来る最大限のことをする! どんな形であっても、俺が犠牲になっても!」

最初、嵐君から聞いたときはただのバカとしか思えませんでしたが、そんな理由があったなんて知りもしませんでした。

話しながら喧嘩をする紅赤君は私が思うよりずっと強い人です。

そして、誰よりも他人を大切にする人で、誰よりも優しくて、行動力のある人なんだと強く感じさせられました。

一人で十人を相手に勝ってしまった彼は輝かしく見えてしまいました。私なんかが見ていいのかと思ってしまうくらい眩しくて、私を助けるために来てくれた、一騎当千のナイトみたいでした。

私を助けた後、彼はこのことは春野やアカには内緒だからなと言っていましたが、どうしましょう?

誘拐されたという経験よりも、誰かに助けられたという経験のほうが強く印象に残っていた私は彼を尊敬できるようになっていましたし、身近に感じたような気がします。

あの言葉に惚れたなんて口が裂けても、言いたくありませんでした。

あの言葉は私と彼だけの秘密です……。

例え誰かに言ったとしても、それは私が誰かを護るときにしか言わないような気が私の中にはありました。

絶対に忘れない言葉とはこういう事をいうんだなと思いました。

きっと、私は――


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