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MA―SHA   作者: 水持 剣真
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弐 バンド部と暗躍する人達

弐 バンド部と暗躍する人達


春野が部活動新設願を出してから今日でちょうど一週間。

あれを空と先生達の会議の結果、無事に『バンド部』が設立される事になったのだけど、生徒の中には不満を持つものの方が多いという専らの噂らしい。

あれから、春野がご機嫌な事この上ない。

「なぁ、春野」

「なに? 紅赤」

正直に言ってしまえば、こいつが機嫌いいときに限って、俺の経験上ほぼ百パーセントの確率で面倒な事が起こる。

「どうして、そんなに機嫌が良いんだ?」

「それは――」

もったいぶってなかなか教えようとしない春野が怖い。その怖さは北野に対して、NGワードを言ったときと同等なくらい……。

「それは……なんだ? 春野君」

「急に入ってこないでよ! 葵さん」

「嵐君が機嫌いい理由私も気になります!」

「ウチも気になるな~。嵐」

よし! 味方が一気に増えた。間違いなくこいつはしゃべる。

「「「「それは?」」」」

四人いっせいに攻める。

「……新緑祭で僕達のライブをする事が決まったからだよ……」

新緑祭でライブ?

なに言ってるんだよ! うそだろ?

俺だけが呆れているのかと思い、周りを見渡すと空もアカも北野も呆れているようで何もいえなくなっているみたいだ。

「まだ、曲が完成してもいないのにライブだなんてお前はバカか?」

「いつも通り、調子に乗ってしまいました。マジでごめんなさい!」

「「「「一回死んでこい(来てください)ぃぃぃぃぃぃぃ」」」」

四人で一人をぶっ飛ばす。

この先が思いやられる瞬間だった……。




「聞いたか? バンド部設立の件」

「聞いたよ。あれ、理事長が一枚かんでいるらしいぜ」

「そうなのか? もし、それが本当なら――」

「潰すしかねぇ。バンド部を」

学校中の噂になっているバンド部設立。

この部活に対して賛否両論あるが、不満を持つものの方が多い。

なぜなら――

「理事長、今まで一回も学校に来た事ないのに、今年度になってから急に学校に来始めたらしい」

「それ、知ってる~」

今までの部活申請が理事長不在という理由で受理されなかったからだ。

そんな不満を持つ彼らは、

「どういう風に潰すよ?」

「簡単な事だ。あいつら新緑祭でライブをやることになっているらしいから、それを台無しにしてやればいい」

「お! それ、いいね~」

その一言を合図に彼らはライブを台無しにするために活動を開始する。

全ては自分達のために。




 新緑祭。

一言で言えば五月の中旬ごろに行われる新入生歓迎祭だ。

しかしこの新緑祭、毎年講堂で行われるライブや演劇には、スカウトが来る事で有名で新入生がスカウトされる事もある。

そんな祭りでバンド経験半年の俺らがいきなりライブをするのだから、無謀にもほどがある。出来て一ヶ月の部活が参加するのも……。

「春野、開催まで約三週間だぞ。どうするんだよ?」

「どうするもこうするもないよ。皆、一週間後に作詞だけでも完成させるんだ」

「それ、明らかに私の苦労を考えていません!」

「ごめんなさい」

本当にこいつ情けないな。しかし、アカはこいつのどこを好きになったのだろうか?

まったくもって謎だ。

「ああ、本当に謎だよ。茜は春野君のどこを好きになったのかは」

「お、お前! なんで!」

急に驚かさないでほしい。そして――

「どうして、俺が思っていたことが分かる?」

「なんとなく、だ。なんとなく……」

なんとなく分かるのなら、人は苦労しないと思う。

これも空にはお見通しなのかな?

一週間。長いようで短い時間で俺たちは作詞をしなければならなくなった。

春野のバカヤロぉぉぉぉぉお!




さて、どうしたものか?

あたし――葵 海空は正直戸惑っている。まぁ、周りから見ればそんな感じには見えないのだろうけど……。

時刻は夜の十時、あたしはあたしの部屋の中で、

「はぁ~。春野君、本当に何を考えているのか分からないな」

そんな独り言を自分の部屋で呟く。

あたしの手にはシャーペンが机の上には紙が置いてある。

あたしは作詞作業で追われている。一体どんな詞を書けばいいのか? その命題があたしの頭の中を支配する。まるで操り人形だ。

書けたのはたった一行。

〈あたしの心はあなたで支配され〉

この一行を考えるのに費やした時間が二十分だ。

一体この作業だけで何時間かかるんだろう?

今日は春野君も北野さんも泊まっているから(新緑祭までの時間をこの家で過ごすつもりらしい)後で聞いてこようかな……。

そう思っている間にも夜はだんだん更けているし、時間は待ってくれない。

世の中本当に儘ならない。




どうしようかな?

いつもならそう思う前に行動を起こすウチ――紅赤 茜だけど、この作詞の作業だけはそう行かない。

なぜなら、これは行動さえすればどうにかなる作業じゃないと分かっているから……。

本当に嵐は何を考えているのかな~?

さっきから必死に考えているのだけどなかなかいい言葉が出てこない。

「もうちょっと先だと思っていたんだけどな~。ライブ」

急にライブの開催が決定されるなんて思いもしなかったから、正直困りまくっている。

どんなに考えてもどんなに時間を掛けても思い浮かばない。嵐は、兄貴は、海空にユッキーはもうこの作業終わっているのかな? そんな思いがウチを焦らせる。これじゃあ、昔の兄貴みたい。

「思いつかないな~」

 誰か聞いている訳でもないのに、ウチはそんな事をいつの間にか呟いていた。

あきらめて寝ることにしたウチはベットに倒れこむ。

本当になんて書こう?




嵐君は本当にバカな人です。

私――北野 白雪はそう思っています。

何を考えているのか分からないのと同時に、調子に乗りすぎて皆に迷惑を掛ける事もある人は正直言って嵐君しか知りません。

「校歌でも編曲しますか」

私は作詞をしなくていいと嵐君に言われたので、暇で仕方ありません。さらに、皆の詞が完成しないと私の出番はありません。

暇つぶしで校歌を四人で演奏できるように編曲していると

トントン。

「北野さん。部屋にいるかい?」

「何ですか? こんな時間に」

海空ちゃんが私に質問をするために来たみたいです。

そこで私は前々から気になっている事を質問してみる事に、

「どうして、海空ちゃんは服装も口調も男っぽいんですか?」

「それは……どうでもいいじゃないか」

答えをはぐらかすなんて……。

これは絶対何かあります。

「質問があるから、ここに来たんじゃないんですか?」

「そうだった。詞を書くときのコツを訊こうと思ってきたんだ」

なるほど……彼女は作詞作業で戸惑っているから、私のとこまで来たという訳でしたか。

詞を書くコツは――、

「自分の正直な気持ちをストレートに且つ遠まわしに表現する事です」

「分かった。ありがとう北野さん。こんな遅い時間に失礼した」

「いえいえ、どういたしましてです」

彼女が部屋を出て行った後、私は校歌の編曲作業を続ける事にしました。

願わくは、私の想いが伝わりますように……




翌朝。

皆、作詞作業に時間を掛けていたみたいで、起きる時間が遅い。

朝食の支度をしながら、俺は詞を一生懸命に考えている。

そんな中、一人だけご機嫌なやつが、

「おはよう、紅赤。今日の朝食はなに?」

「おはよう、春野。お前はどうしてご機嫌なんだ? ちなみに朝食は鮭の塩焼きに味噌汁、おひたしと白米だ」

我ながら豪勢だと思うけど、昔から(うち)の朝食はこんな感じだ。今は仕事で葵家(があった場所)に住んでいる、親父と御袋が結婚したときから変わらない朝食。変わるものといったら、鮭の塩焼きがブリの照り焼きになったり、ししゃもになったりするくらいだ。

五人分を一人で作るのだから結構つらい。そこにアカと空、自分の弁当(春野と北野の分も)を作らないといけないのだから、猫の手も借りたいくらいだ。まぁ、好きでやっているのだから文句は言えないのだけれど……。

「見てないで手伝ってくれないか?」

「断る! 専門外だから逆に足手纏いになるだけだよ」

食べる専門かよっ! こいつ、人の家に泊まっておきながらそれはないだろう。マジで猫の手も借りたいぜ……。

「おはよう、灯焔。済まない、起きるのが遅れてしまったな」

救世主参上!!

空がいれば百人力だぜ!

「ああ、おはよう。弁当のほう頼んでいいか?」

「わかった。あたしにまかせろ!」

どこかのバカとは違い頼りになる。マジで、こいつと一緒に住んでいて良かった。これだけは流さんに感謝しないと。

そういえば、アカの姿が見当たらないけど……まだ寝てるのか? キッチンに俺と空、リビングには春野と北野。まさか、あいつに限って風邪を引いたとか、熱を出したなんて事無いよな?

「おい、春野! お前にしか出来ない仕事だ! ここに泊まっている以上拒否権は無い!」

「何だよ、紅赤。それなら『お前にしか出来ない仕事』なんていうなよ」

確かにそうだな。でも、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

「アカの部屋に言って様子を見に行ってほしい」

「それなら、喜んで」

海老で鯛を釣るというのは、こういうことをいうのだろうか?

「いや、違うと思うぞ」

こいつ、本当に怖いな……。

「もう少しで朝食だから箸を出してくれないか? 北野」

「分かりました」

アカの様子を見に行っていた春野もアカをつれてきたみたいだし、弁当と朝食も何とか五人分完成した。こんな生活があと三週間も続くと考えると少し不安になるな~。




 「嵐のバカ! 信じられない!」

いきなりなんだ? 痴話喧嘩か?

「ごめん、茜。あれは故意にやったわけじゃないんだ」

まさか、春野のやつアカの着替え中に扉を開けたな。それならこの喧嘩も納得がいく。

しかし、アカの着替えか……俺も見てみたいな。

ゴチン!

「痛ってー! おい、なにすんだよ!」

「灯焔が変なことを考えるからいけないんだ」

「その通りです!」

だからって殴る事無いじゃないか! しかも食事中に。

「箸で目潰しするよりましじゃないか。ねぇ、北野さん」

「はい!」

笑顔でそんな事を言っている。

俺だって健全な男子高校生だ! 女子の着替えくらい覗きたいに決まっているじゃないか! どうして、この男の浪漫が分からないかな~。やっぱり、これが分かるのは春野しかいないか?

この後、春野に感想を聞いておこう。

「それにしても、朝食おいしいですね」

「だろ? 灯焔が作る食事は世界中で一番だ!」

力説しないでくださいよ。照れちゃうじゃないですか……。

「どうして兄貴は手先が器用なの? ウチも料理の練習してるのに……」

そればかりは言えません。俺にだってわからないからな。

こんな感じで進む朝食は本当においしい。さっきまで、ギャアギャア五月蝿かったバカップルの二人も静かに食べてくれる。料理はやっぱり誰かの笑顔を見るためにやるモンだよな。

「ごちそう様。おいしかったよ、紅赤。僕もここに住みたいな」

「帰る場所がある人はここには住めねぇ! よって、お帰り願います。春野君」

器が小さいくせに考える事だけは一人前なんだから、油断なら無いやつだ。

「それでは、皆食べ終わったみたいだし学校に行こうか?」




誰もいない講堂に潜む人影が三つ。

「生徒会に所属してよかったと思うな。本当に」

「こういうときだけだろ? 会計さん」

「どうやって罠を張る~?」

彼らのバンド部潰しは誰にも知られてはいけない。生徒会役員がこんな事をしていると、知られてしまったら彼らの居場所が危ないからだ。

だから、誰もいない時間を使って行動するしかない。

「マイクコードに仕掛けをしよう」

「コードね~」

ポケットから取り出すのはハサミとカッター。

「おいおい、コードを切るって言うんじゃないだろうな?」

「その通りだ。コードを切って中の銅線を一本使えなくする」

慎重にやらなければ自分達が危ない。だからこそコードを切ってから、出来るだけ元の状態に戻す事を選択する。

そう、慎重に……。




授業が終わり放課後になった瞬間に、

「部室に行こう!」

ご機嫌がいい理由はバンド部が今日から正式に活動できるし、部室が完成したからか。

俺たちの苦労なんて一切考えない迷惑なやつだ。

だけど、俺たちは他にいく場所もないしライブまで三週間を切ってるから、早く曲を完成させて練習しないと。まぁ、一曲は完成したけど……。

「北野さん、これ頼むよ」

「え! もう、完成したんですか?」

「ああ、そのおかげで昨日は寝不足なってしまったけど……」

そうか、今日、空の起床時間がいつもより遅かったのは、作詞作業をやっていたからか?

アカも同じ理由で起きれなかったのなら、理由がつく。

まぁ、あいつの場合は完成しなかったのだろうけど……。

「なぁ、三曲目は五人で作らないか?」

「いいこと言うわね。たまには兄貴もいい提案するじゃない」

「賛成です! 私、嵐君に言われて作詞できなかったんです」

春野も賛成してくれるだろ? せっかくの高校初ライブなんだから、五人で何か作った曲を聴いてもらいたいし。

「練習しようよ。ね? ね? ね?」

「校歌をアレンジしただけだろ? お前が偉そうに言うな」

「それでも、練習しなければいけない事には変わりない」

正論は時に鋭い凶器になる。

今の空のセリフがそれ。

グサッときたよ。春野が練習しようというのは、むかつくけれど正論は正論だからな。練習しないと……。

五人でのライブを成功させるために、練習を開始する俺たちのバックには、美しい桜吹雪が舞っていた。




夜、講堂にいる三人の生徒会役員は、

「仕掛け終わったか?」

「ああ、これでワイヤレス以外は全て使えないよ」

朝に引き続きマイクコードを使えなくするために行動をしていた。彼らの目的であるバンド部はライブをする事なんてほぼ不可能に近い。

なぜなら、ワイヤレスマイクは一個しかなく、それを生徒会が使うからであって、他に予備なんてものは存在しない。

「これで、バンド部は――」

「アウトだね~」

素早く講堂をでる三人。

周りは漆黒の闇に覆われていた。




「どうして、これが入っているんだ? 灯焔」

声からして明らかに怒気が含まれている。空は昔から変わらないな。

「どうしてもないだろ? 茶碗蒸しなんだから」

「あたしがいる時は椎茸を入れるなといっているだろ! これが食べれないのは知っているはずだ! なのに、どうして入れる?」

「だ・か・ら、茶碗蒸し!」

こいつの椎茸嫌いは今に始まった事じゃないけど、こうも嫌われてしまっては椎茸が可哀相だ! ここは俺が何とかしなければ!

「お前、好き嫌いはいけないぞ! なぜなら、俺たちは命をいただいているんだ。それを無駄にするのかお前は? 感謝の気持ちが足りないぞ! 感謝の気持ちが」

「なら、灯焔が食べればいい。あたしは食べないといったら食べない。感謝の気持ちが足りない? 足りなくて結構だ! あたしはお前がピーマンを食べるまで椎茸は食べない!」

一・撃・必・殺!

まさか……ここで俺の弱点の一つを突かれるとは……。

「兄貴~、諦めたら?」

「そうだ、紅赤。人に無理矢理嫌いなものを食べさせようとしないほうがいいよ」

さらに攻撃を加えるバカップル。こいつら遠慮という言葉を知らないのか?

夕食――茶碗蒸しと手巻き寿司にお吸い物――の最中に好き嫌いの話になるとは……。

何でも出来る空の三つの弱点の一つそれが椎茸。

彼女は昔(水也さんから聴いた話なんだけど)椎茸を始めて食べたときすぐに吐いてしまったらしい。椎茸からすれば迷惑な事極まりない。空はそれ以来椎茸を口に入れようともしない。

ピーマンが嫌いという人はこの世の中たくさんいるけど、椎茸を始めて食べてすぐ吐くという経験がある人物を俺は空以外知らない。

そんな夕食の時間は俺と空の口喧嘩が中心になってしまったけれど、楽しい時間である事には違いない。

周りを見渡せば北野は笑っているし、春野とアカは俺らの喧嘩を肴に話をしている。(どこかの酔っ払いかよ)

夕食の食器は春野に洗ってもらうか?

泊まっているのに楽をしようとは許せねぇ! 北野はちゃんと夕食の手伝いをしてくれたし。

楽しい時間は早く過ぎていく。

こんな時間が永遠に続けばいいのにと叶わない願いを胸にしながらそんな事を思っていた。




はぁ~。

僕――春野 嵐は何をしているんだろう?

完成した曲は一つ。完成間近の曲も一つ。歌詞だけ完成(放課後に皆で考えた)した曲が一つの計三つ。

やっぱり、僕一人の力では無力なところがある。僕がやろうと言い出したのだからもっとしっかりしないといけない……。

でも、調子に乗って新緑祭でライブをやるって決めたときは正直大変だったなぁ。

まさか、気絶して保健室に行く事になるとは……。

練習も曲作りも順調なのだからいいけれど不安になってしまう。

それでも、成功させたい! このライブを。

僕自身のために……何より平々凡々な高校生活を望む二人のために。

「ファイトー! 一発!」

CMでおなじみのセリフを誰もいない部屋で響かせ気合を入れなおす。

残り三週間でバンド部として恥じないライブをするために。


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