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MA―SHA   作者: 水持 剣真
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零 地獄から始まるハイスクールライフ

零 地獄から始まるハイスクールライフ


初めまして、俺の名前は(こう)(せき) ()(えん)。はっきり言って、この名前よりも『地獄(じごく)(ごう)(えん)』という二つ名の方が有名だ。

そんな俺は金属アレルギーで常に手袋をしている。喧嘩をするときは別だけど……。

好きな事は家事と星を見ること。逆に、嫌いな事はピーマンを食べる事、ゲームをやる事、数学の勉強をする事に自分勝手なやつを見る事の四つ。

 こんな自己紹介で悪いんだけど、俺は今体育館の中にいる。その理由は――




入学式

それが行われるのは桜と梅が咲き、新しい出会いを予感させる季節――春という季節がやってきた事を意味していると思う。

初々しい制服なんて自分で言うものではないけれど、初めて着る制服――ワイシャツに、黒ズボン、紺色のカーディガンと水色に黄色の校章があるネクタイ――に身を包んでいる俺は校長の挨拶を右から左へと聞き流す。

朝とも昼ともいえない微妙な時間帯に、暖かな陽射しが窓から差し込む体育館は俺ら新入生を祝福するというより眠気を誘っている。

「ふ、ふぁ~~」

欠伸をしながら壇上を見上げると校長の話はもうすぐ終わりそうで、

「最後になりましたが保護者の皆様……」

とお決まりのセリフを言っている。

早く終われ!

そう心で呟きながら来賓が壇上に上がるのを見ている事しか出来ない俺は、

「すいません。気持ち悪いので保健室に行ってもいいですか?」

近くにいた先生に声をかけて許可を貰い体育館を後にした。




案の定、保健室どころか校舎に先生は誰もいない。

これはラッキーだなと思った俺は屋上に行き、残りの時間をつぶす事にした。

あんな退屈な時間はとても耐えられないし、つまらない式典なんかに時間をかける大人はかなり堅苦しいんだなと改めて思い直す。

あれで得するのは誰もいない。しかも、メリットなんてありゃしないものはこうしてどこかでサボるのが一番だ。

「おや? 先客がいたか」

「ん? なんだ、おまえか」

やっぱり、俺と同じことを考えているは、あの体育館にたくさんいるだろうけど、実行に移したのは俺とこの学校の『理事長』だけか。

「こんなところでサボっていいのかよ? 『理事長』」

「お前に言われたくないよ。『地獄の業焔』」

「それはどういうことだよ?」

「どうもこうもない。そのままの意味だ」

「そうかい」

『理事長』は俺との会話をやめると屋上からの景色を見始めた。

そんなものを見ていても仕方ないから、手を頭の後ろで組んで仰向けで寝ようとする俺に、

「あれから五年。この後、墓参りにでも行かないか?」

哀愁漂う声色で誘ってきた。

「別にかまわないが……妹も一緒に、だ」

「最初からそのつもりだ」

まるで図ったかのようにそこでチャイムが鳴り、入学式が終わった事を知らせる。

新入生が次々と退場していく様子を、屋上から見下している俺と『理事長』はさっきの会話の名残でお互いに何にもしゃべれなくなっていた。


 


帰り道、妹と『理事長』と俺の三人であるお墓の前に立っている。

「もう五年なんだね……」

「ああ、そうだな」

「寂しくないの?」

「寂しくないなんて言ったら嘘になってしまう」

「寂しいって言ってるようなもんだろ」

「ああ、そうだな」

妹は寂しいと『理事長』も遠まわしに寂しいと言っているしもちろん、俺も寂しいと思う。

人は失って初めてその大切さに気づく。

その言葉はまさしくその通りだ。

隣にいる妹は泣いているし『理事長』は合掌中。

俺の二つ名、『地獄の業焔』を名づけてくれたのも今はもういない人。

昔はあんなに憧れ、嫉妬し、目標にした人は俺の知っている人の中で間違いなく一番すごく、「天才」という言葉はこの人のためにあると感じたが、そんな人でも「死」には抗う事は出来ない。

それでも、生きている人達は一生懸命生きるための努力をし続けなければならないと、教えてくれたのもまたその人だった。

理事長がお墓参りに行こうと誘ってきた理由は、やはり入学と関係しているはず。

そうでなければ、わざわざ体育館を抜けてまで俺のところに来た意味がない。

実際、俺の妹は寝ていたし……。

「帰るか。『地獄の業焔』、『夕焼け姫』」

「なあ、『理事長』。俺達兄(きょう)(だい)のことを二つ名で呼ぶのやめてくれないか?」

「じゃあ、お前もあたしの事を『理事長』と呼ぶのをやめろ! あたしは現役高校生だぞ! しかも、今日入学したばかりのな!」

「わかった。よし、帰るか俺達の家に」

辛い事ばかりじゃない。楽しい事だってこれから始まるのだ。俺達は高校に入学したばかりなのだから。それに入学した高校には俺の親友や妹の友達だって入学しているのだから。




翌日。

そんな事を考えていた俺がバカだった……。

入学式の翌日と言えば自己紹介じゃん!

俺があの『地獄の業焔』だと知られたらどうなるのかは大体の想像がつく。

俺は小学校入学から中学卒業まで喧嘩最強の『地獄の業焔』と言う二つ名で恐れられ尊敬されてきた。まあ、喧嘩していた理由は言えないけれど……。

つまり、俺が喧嘩最強の『地獄の業焔』だと知られてしまったら、俺が望んでいる平穏な高校生活が送れなくなってしまう。

さらに、俺に喧嘩を挑むやつが圧倒的に増える。

よって、俺みたいなバカでも導き出せる結論は一つ。それは――

俺の過去を知っているやつに口止めするように頼む(脅迫する)ことだ。

しかし、俺の過去を知っているやつなんてこの教室に四人しかない。

うち一人は今、職員室に行きその後、理事長室にいくはずだ。

なぜなら、彼女は現役高校生にして学校の『理事長』なのだから。

双子の妹は睡眠中で、オタクな親友はまだ来ていないし、音楽の天才は音楽室を見に行っている。

四者四様に行動してSHRには教室にくるはずなのだが『理事長』だけは来ないと思う。

どうしよう……。ガチでやばい…………。

悩んだ挙げ句、俺はアイコンタクトという究極(?)の方法を取ることにする。

『理事長』と『オタク』と『白雪姫』は席が離れているが『夕焼け姫』だけは俺の目の前と確定している。

時刻は八時二十分HRまで約三十分ある。

そんなことを考えるうちに段々と近づいてくる三途の川と閻魔(えんま)大王!

早く目が覚めてほしいときに限って『夕焼け姫』は目を覚まさない!

こいつさえ目を覚ましてくれれば俺の過去をしゃべらなくて済む。

さあ! 目を覚ませ!

心で思った瞬間『夕焼け姫』は顔を上げた。

「ん、ん~。SHRまで十五分くらいあるね」

バタン!!

そう言い『夕焼け姫』は机に突っ伏した。

この瞬間、俺は三途の川を渡り閻魔大王に地獄行きを宣告された。

『地獄の業焔』が文字通り『地獄の業焔』に身を焼かれる瞬間。

キーンコーンカンコン

そこでチャイムが鳴りSHRが始まった。

俺の高校生活は初日から地獄を見る。

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