秘密にするって難しい
最近になって難しいと思うことが出来た。
それは、あの部屋のことをコールドウェル以外の人に秘密にすること。
最初はそんなの簡単だと思っていた。どうせコールドウェルとなんて話すこともないし、私はあの部屋を図書室への近道として使うだけだって。
だけど、最近は色々と不都合が出てきた。エヴァには「最近どこにいるの?どこを探してもアメリアが見つからないことが多いんだけど。」と言われてしまった。それに対して、私は「そう?タイミングが合わないのかしら?」とシラを切り通している。
「確かにアメリア見なくなったよな〜。この間、イアンにアメリアがどこにいるか聞かれたし。あいつもアメリアのこと探してたみたいだよ。」
ルイにまで言われてしまうとは…そして、イアン…もうストーカーみたいな真似はやめて。
「本を読む時間は誰にも邪魔されたくないのよね。」
私はそう言って、次の授業へ向かう。季節は冬に向かっている。タイツを履いている女子も多いが、私は履かない。地肌にピリピリとした寒さが突き刺さるのが好きだ。
ふと廊下の向こうの方から、コールドウェルが友人たちと話しながらこちらに向かって来るのが見えた。私はドギマギしてしまう。
そう、秘密の何が大変かと言うと、「彼とは親同士が不仲なので話しません」という態度を取ってきた私が、彼と思っていたより仲良くなってしまっていること、それを隠すのが大変なのだ。
本当のところを言うと、前から颯爽と歩くコールドウェルに駆け寄って行って、今日読む本のおもて表紙の美しさを見せたいし、この間コールドウェルが読んでいた本の感想を聞きたい。そして、課題を手伝ってくれたお礼をもう一度伝えたい。
けれど、そんなことをしてしまったら、他の皆は開いた口が塞がらなくなるだろう。学校中に号外が出回ってもおかしくはない。いや、そこまでは言いすぎかもしれないけれど。いつもどこかへ消えてしまう私と、急に仲良くなった二人というのは容易に結びつけることが出来るだろう。
それだけは避けたい。あの部屋が誰かに見つかったら、今の幸せな時間は全てなくなってしまう。本を読むのに最高の場所なのだから。
彼と遠くの方で目が合った気がした。私は、ふいっと斜め下を見て髪を耳にかける。エヴァとルイは相変わらず何だかんだと話し続けている。
私は、右肩に本を詰め込んだ鞄を下げていた。ルイはコールドウェルたちに気付き、すっと廊下の右側に寄って歩いた。私の横をコールドウェルが通り過ぎようとしている。
「そういえば、この間、アナン先生が変身術の抜き打ちテストするって言っててさ〜。」
「あー。らしいね。私は案外、変身術は得意だから全然へーき。」
「俺、めちゃくちゃ不得意。」
通り過ぎた彼のローブが私のローブと触れ合った。ついでに彼の少し骨張った手が私の手に触れた。かさりと何かが吸い付くように私の手に残された。私はそれを咄嗟に握った。落とさないように。ギュッと体に力が入って、顔もちょっと熱を持って、暑い。
「アメリアも嫌いだって言ってたよね?変身術。」
「え、ええ。嫌いよ。大嫌い。」
「え、そんなに?」
「そんなによ!」
変な顔をする二人に、私は自分の言っていることがよく分からなくなっていたけれど、それを通した。
授業中に彼が手に送ってきたものを開くと、何も書いていない羊皮紙にふわっと一言が浮かび上がって、すぐに消えた。
「顔、強張りすぎ」
コールドウェルめ、後で見ていなさいよ。
思っていることとは裏腹に、口角が上がるのを止められなかった。