ある昼下がり
エヴァはランチタイムに出たほうれん草のキッシュを丁寧に切って、口に頬張った。よほどお腹が空いていたらしい。もう一つのお皿いっぱいに彼女の好物であるフライドポテトが山盛りに盛られていた。片手にはフライドポテトを持って、それまた頬張った。
「今日の午後、ルイとチェス大会しようって言ってるんだけど、アメリアはどうする?」
「ん〜、今日はやめておくわ。というか、食べ終わってから話してよ、エヴァ。」
「ごめんごめん、お腹減りすぎてるんだよね。そか、また悩み事?」
「いいえ、この小説の次の巻が読みたいから、返ってないか見にいくのよ。」
私は、その本を手でギュッと握った。朝の出来事から、もしかしたらコールドウェルならもう読み終わっているのではないかと思ったのだ。今日は午前だけしか授業がない日なので、ランチを食べ終わったら、あの部屋まで行ってみることにしていた。
「本好きだよね〜。」
「だって、本は調べ物も出来るし、物語なんて最高の娯楽じゃない。どうして皆が嫌厭するのかわからないわ。」
「文字を読み続けるのが辛いからじゃない?私はそうだけどね。それなら、チェスしたり、箒に乗っていたいわ。」
「ま、結局は人それぞれってことよ。」
ランチを食べ終わると、私たちはそれぞれ手を振って別れた。私は足早にあの部屋へ向かっていた。さっき、食堂にいたコールドウェルは気付くともういなくなっていたのだ。絶対あの部屋にいて、あの白いソファであの本の続きを読んでいるに違いない!私はそう思って、あの部屋に続く壁に飛び込んだ。
「あれ。」
しかし、そこに彼の姿はなかった。柔らかく、寝心地の良さそうなソファが誰にも座られずに静かに佇むだけだった。
「なんだ、いないじゃない。」
私はそのソファに”ぽすん”と座り、後ろの窓から指す日差しで出来た、木々と自分の影をぼーっと見た。”ぺたり”とそのソファに横たわると彼の香りがするような気がして、けれどそれが全然嫌じゃなく、不思議と心地よかった。