白と黒のタイルの床
カツカツと大理石でできた学校の床を靴が打つ。2月の寒さから少し息が白い。
今日は薬草学の授業で学校の周りを歩き回って薬草採取させられたから、ふくらはぎが痛い。
魔法で自分の部屋まで行きたいくらいだけど、まだその呪文は習っていなかった。
「あ、図書室に本返さなきゃだ。」
私は朝から返そうと思って持っていた本を見て項垂れた。
またここから引き返して図書室まで行かなければならない。何回階段を登ったり降りたりするんだろう。
学校の規模をもうちょっと小さくして欲しい。そう思いながら、仕方なく踵を返す。
「図書館までの近道ほしい。」
途中、左に曲がろうとしたところ、急に左の向こう側からゴーストがやってきて、ぶつからないけどぶつかりそうになったので、壁の方に避けた。
すると、するりと壁を通り抜けて、壁に寄りかかろうとした体はくるりと一回転して、薬草学のせいでクタクタになった足が絡まって、私の体は地面に叩きつけられた。
「いった〜。」
白と黒のタイルの床に這いつくばっていた。
「ん?」
ゆっくりと目を開けると男物の靴が見える。その人は、何とも触り心地の良さそうな緑のソファに座り、足を組んでいる。
机があるため、私にはその人の足しか見えない。目線をそちらに向けたまま、恐る恐る起き上がると、めちゃくちゃ会いたくない人物がそこにいた。
揃えられたように切られた黒髪に、整った少し意地悪そうな顔(私がそう思ってるだけかも)。
魔法貴族の公爵位の長男、ノア・コールドウェル。私の実家、フローリー家も公爵位で、昔から親同士が仲が良くないため、何かと目の敵にされている。
ノアは足に本を置いて、気だるそうに読んでいる。そして、私を一瞥してめちゃくちゃ嫌そうな顔をして、ため息をついた。
「ちっ。よりによってお前か、フローリー。」
何故か少し顔を赤くして面白くなさそうにしている。顔は良いのに…舌打ちとかホントダメだからね。
ていうか、
「こっちの台詞なんですけど!というか、この部屋なに。なんで貴方がいるの?」
「もう少し静かに出来ないのか。それでも一応、公爵令嬢だろう。」
言われた言葉にムッとしながらも、いちいちイライラしていては、体が持たない。
低姿勢でいなければ、低姿勢でいなければ。思いっきり深呼吸した。
「確かに。少し慌てすぎたようね。ホホホ。それで、ここはどこなのかしら。」
「なんだその馬鹿馬鹿しい話し方は。」
何してもバカにしてくる。もう無理。