馴染みだった高ランクパーティーから追放されたけど、ヒロインパーティーに誘われたので“仕方なく”エースになります!
奥深くのダンジョン。そして禍々しい気配が立ち込める深い階層。強いモンスターが犇めく階層でもある。
魔法金属の巨大ゴーレムが口を開けて、光子を収束させている。
「気を付けろナブーマ! また範囲攻撃スキルを撃ってくるぞっ!!」
「サガオワラ! このままじゃ全滅だわ!」
「クソがっ!」
地響きが大きくなり、二人の男が戦慄を帯びる。
そんな折、その二人の上を飛び越えて、切羽詰まった青年が剣を正眼に構えたまま挑みかかる。
「ウィロ!?」
「ウィロくんっ!?」
大技発射手前で巨大ゴーレムに向かってウィロは特攻をかけるつもりだ。
後方で待機していた男僧侶は「勝手に飛び出しました!」と叫ぶ。
「竜王猛襲撃ッ!!」
まるで怒れる竜が猛襲してきたかのような一瞬連撃が巨大ゴーレムの巨躯を完膚なきまで穿ち続け、トドメに口の中へ鋭い突きが刺した。
即座にウィロはバックステップ。
巨大ゴーレムは溜めていた光子が暴発し、全身が爆散した。
飛び散った破片が散乱するさなか、二人は呆然とする。
ウィロはザザザッと地面を滑って着地。ふうと息をつく。
「おい!」
青年のおかげで危機一髪から逃れたというのに、二人の内一人が憮然とウィロに振り向いて睨む。
「後方で待機しろっつったろがぁ! クソガキが!」
「このままじゃ全滅していたぞ!」
「うるせぇ! この俺様に越えられねぇ壁はねぇ! 素人がでしゃばるな!」
青年の訴えも聞かず、横柄な男は怒鳴り散らす。
やっとダンジョンから脱出して、ウィロたちパーティーは休息を取って翌日に酒場で話をしていた。
ウィロには小さな袋が渡されていた。明らかに多くない報酬だ。
「サガオワラさん!? 報酬がこれだけ!?」
「文句あるのかい?」
「今回はかなり危険な賭けだった。自分のレベル以上の階層に降りて全滅しそうにもなった。とても後衛で待機したまま見殺しにはできなかった」
「貴様、いつもいつも目線の上でふんぞり返りやがって。素人以下の剣技しかできねぇクソガキが偉そうな事を言うな!」
「素人以下の……」
「ああ、そうだよ。時代遅れの剣で冒険者をやっていけるほど甘くねぇんだよ! こちとら高性能の重火器でAランクパーティーにまで上り詰めてんだ! テメェはそれに乗っかかっただけのゴミ野郎だ!」
サガオワラと呼ばれた横柄な男は憮然とした顔で睨んでいる。
サガオワラ・キングファング。がっしりした筋肉の優男でボサボサ黒髪でモミアゲの主張が激しい老け顔青年。
「そうは言っても、サガオワラが率いる『蒼烈火』に何度も逆らい続けてきたからじゃないか?」
「ナブーマさんまで!?」
ナブーマ・シンキングエイプ。垂れた丸い目、タラコ唇、猿っぽい男までもが冷たい目をしている。
「まぁまぁ、サガオワラさん厳しい事言わなくてもいいじゃないですか? それにウィロも黙って言うこと聞いていれば悪いようにはならないよ」
「……ジョイさん」
好青年風に庇ってくれるジョイ・バードストレート。僧侶なのに大柄な体躯で垂れ目の三枚目、自分は清い心の持ち主だと思っている熱心な信者。
ああは言っているが、報酬はサガオワラ、ナブーマについで多い。
「ウィロくんよぉ……! 報酬が気に入らないなら出ていけ!」
横暴な態度でサガオワラはそう凄む。
ウィロ・キャッスルワイド。少年かと思うほど短身痩躯、ややロンゲの黒髪、整った顔立ちで鋭い目、腰には剣とナイフが差してある。
ふー、と落ち着かせるように息をつく。
「本当に抜けてもいいんだな?」
「クク……心配いらねぇぜ……。テンジ!」
サガオワラは自信満々に笑みながら指を鳴らす。
すると赤髪ベリショート、据わったような目をしているオッサン、口端にタバコ、渋めの男が歩いてきた。
「テンジ・チェストナッツ。新規メンバーとして入れる。どうせテメェは追い出すつもりだったんだからよ!」
「よろしく。あ、悪い。……去る人には挨拶は無用だたか」
「そうか。最初っからそのつもりだったのか。テンジさん、このパーティーは……」
「知らん。お前の話は聞いてない」
類は友を呼ぶか、ぶてぶてしくテンジは切って捨ててきた。
もうこれで一緒にいる意味はなくなったと観念した。
「……五年間世話になった。ではこれで」
「フッ! これからの君にご武運ある事を祈ってるよ、な~んつってなぁ!! ワハハハ!」
嘲笑うサガオワラ、鼻持ちならぬ横柄な男……。
しかしウィロは何も言わず、頭を下げて背を向けて歩き去っていった。
本当は色々言いたい文句が山ほどあったが、全て飲み込んで大人しく追放されたのだ。
重々しい空気の最中、酒場を出ると明るい空と騒々しい街模様が目に入って、気分が落ち着けた。
「もう一人だな……」
多少気落ちしながら、道路を歩き始めた。
もはや同じパーティーとして活動しないのだ。今後はソロとしてやるしかない。
「待ってくれないか?」
「え?」
なんとジョイが酒場から出て呼び止めてきた。
「なんだ? 引き止める気か?」
「さっきは済まなかったね。今後はどうする? あ、そこの食堂行こうか?」
好青年なジョイは心を許せるほど気さくだ。
一緒に食堂へ入って、互いに注文して料理を平らげていく。
「……オレはさ、熱い心で力を合わせて戦っていきたかったんだ。最初のサガオワラさんは本当に情熱的な男で努力を怠らなかった。でも残念だ」
「まぁまぁ、長い付き合いで変わる事あるよね」
「前々からナブーマさんと盛り上がってコンビで戦う事があって、オレが加わろうとすると黙って離れていく。その時から不穏はあったのかもしれない」
「そうなんだね」
「あいつら二人でいる時は楽しそうに盛り上がるんだよ。いつも」
「分かるよ。まぁ、君も今後はソロでやるのかな?」
「……かもな」
もしかしたらジョイも力を貸してくれるかもしれない。
なんかガサゴソ取り出してくると、カルト宗教の聖書が目に入る。とっさに制止の掌を向けた。
「それは受け取れない」
「そうか……」
そのまま聖書を引っ込めていく。
オレは知っている。王国が危険と定めたカルト宗教。悪のカリスマ教祖によって一時は巨大勢力として世界中に広がっていて問題にもなった。
国政に介入しようとしたり、執拗な勧誘をしたり、と悪名の高い宗教だ。
一目見て、その聖書だと見切った。
「君には信者となって、清い心をもって健やかな生活を送ってもらいたかったんだ。ソロで冒険者して腐っているより有意義な第二の人生を歩めると思ってたんだよ」
「宗教とは無縁で生きてるよ。それにその宗教を嫌いになりたくないから悪いけど断るよ」
「仕方ないね。でもお互い頑張って清い人生を送っていきましょう」
「ああ。話を聞いてくれてありがとな」
「困ったらいつでも話に乗るよ」
清々しい会話の後、食堂を出ると解散した。
カルト信者なのに、真っ直ぐな心を持っているんだなぁと感心して帰路に着いた。
帰宅後、久しぶりに家でゆっくり過ごし、その翌日に冒険者としてギルドへ向かった。
昼頃なので、あんまり他の冒険者はいない。
「さて依頼を受けるか……」
すると、例の『蒼烈火』パーティーが二階からぞろぞろと降りてきたので、サッと物陰に隠れた。
「あんのやろう! 勝手に呼び出して、こちらの勧誘を断りやがった!!」
なんと好青年だったジョイが憤っていた。
こちらは呼び止められたのに、呼び出した扱いになっている?
「ああいうゴミ野郎は野垂れ死にする運命だろうよ」
「そやったな」
「勧誘に成功できれば、僕はポイントを貯められて昇進しやすくなるというのに! 聖書を読まれるだけでもポイントになるのに! あの野郎死ね!!」
「ヒャハハハハ! 行くところねぇからなぁ……マジで死ぬだろ」
「ふん、死ねばいいんだよ。僕が昇進する為の糧となれれば、と思ったがね」
そんな理由で勧誘してきたのか、と落胆する。
同時に安易に聖書を受け取らなくてよかったと安堵する。
好青年だったキャラは表向きで、裏はこのような横暴な人だとは……、もはや誰も信じられない。
「あーあ……。本当に好青年だったらよかったのに……」
蒼烈火パーティーがギルドからいなくなっても、気が滅入ったままだ。
あの後、他の冒険者や受付嬢から話を聞くとジョイは女にキスを迫ったり、執拗な勧誘で追い詰めて衛兵を呼ばれたり、とか驚くほど不貞な行為があったらしい。
ジョイ本人は「清らかな心をもって健やかに生活を」と綺麗事を言っていたのに、やってる事はかけ離れていた。
サガオワラ、ナブーマ、ジョイ、テンジ……、碌でもない連中になっちまった。
本当はパーティー離脱を後悔していたが、一連の出来事を知って吹き飛んでしまった。
むしろ追放してくれて感謝したいくらいだ。
依頼を受けて、一人で国を出て冒険していった。
巨大なサイが突進してくるのを、ウィロは剣で構えて「竜翼衝!!」と横薙ぎに斬り払う。
まるで巨竜が翼を振るうがごとくの強撃が硬いサイすら斬り裂く。
「ソロでやるっつーのも寂しいな」
誰も話しかけてくれない。そばに誰もいない。
蒼烈火に在籍している時は賑やかだった。話題が飛び交っていた。
だが、今は自分自身一人で静かだ。なぜかスッキリした笑みを見せている。
「だが、パワハラとかねぇから、思う存分闘えるってのはいいな」
スライムの群れに出くわして剣とナイフで斬り散らしていったり、ゴブリンやオーガを蹴散らしていったり、と冒険そのものは順調。
依頼にあった薬草をノルマ満たすように積んで、王国へと帰路に着いた。
「お疲れ様」
「ありがとう」
依頼の薬草を渡し、多くない報酬をもらった。
「ねぇ、メンバーを集めたりしないの?」
「いやぁ……当分は勘弁かな。ジョイさんが実はパワハラセクハラだったとかで不信になってるし」
「気持ちは分かるけどねぇ」
「明日、また軽めの依頼を受けに来るよ」
「それでいいの?」
「ユルく気楽に生きていくさ」
スッキリした笑みを向けてギルドを去った。
もう国のダンジョンには潜らない。ヤケクソとソロで挑みたい気分もなくはないが、またあいつらと遭遇したくない。
そうして家へ一人帰っていった。
その頃、ダンジョンで『蒼烈火』は深い階層へ挑もうと進んでいる最中だった。
「オラァ! 死ねぇ!!」
「はっはーっ!!」
サガオワラはY字の機関銃で、ナブーマはアサルトライフルみたいな銃でモンスターを肉片に散らしていった。
大勢いたモンスターも原型止めていない。
「前衛でうろちょろするゴミ野郎がいなくなってやりやすい!」
「だな。追い出して正解だったやろ」
「ワハハハハ! ちげぇねぇ!」
ウィロは剣で戦うタイプなので、サガオワラ、ナブーマにとっては前衛で動かれては邪魔になるのだ。
「だったら一緒に撃ち殺せばいいんじゃないか?」
なんとジョイがそんな事を言いだした。もはや本性を隠していない。
「バカが! 危ない時に囮になるヤツがいなかったら本末転倒だろ!」
「仲間という体で、いざという時の保険だったんだ」
サガオワラ、ナブーマは元から囮以外を期待していなかったようだ。
ジョイは「追放してしまったけどね」と薄笑いする。サガオワラは「クソ面白くねぇガキだったな」と悪態つく。
それ以降も順調に進み続けた。
ミノタウロスが五匹現れて、サガオワラ、ナブーマは必死に重火器を唸らしていた。
割と敵は硬くて手こずった。
「死ねや!! クロスファイア!!」
サガオワラ、ナブーマで十字に交差するような弾幕で一体ずつ肉片に削り散らしていった。
テンジは「おっかねぇ火力だな。もうSランクパーティーいけるな」と余裕そうに笑んだ。
一休みと、サガオワラ、ナブーマは得物のチェックをしていた。
深刻な顔で残弾に懸念していた。
「いつものより減りが速い……」
「強いモンスターばっかの階層だからなぁ」
「まだまだ、これからだっ! この情熱でこのピンチすらチャンスに変えてやる!」
意固地と階層を進む事を決意した。
ナブーマも「そうだ! 相棒よ!」と士気高揚する。
ジョイもテンジも、それを頼もしく思う。これなら最深層へ届くと期待が膨らんでいた。
……ついに全滅の危機に陥ったという階層へ踏み入れる事ができた。
「もうゴミ野郎がいないから、もっと進めそうだ」
「あたぼうよ!」
すると魔法金属のゴーレムが現れて、剛腕を振るってきた。
「前のようにはいかねぇぜ! オラァ!!」
いつものようにサガオワラ、ナブーマは軽やかに移動しながら弾幕を張っていった。しかしゴーレムに然したるダメージは与えられない。
ズンズン歩んでくる。
「クソが! 硬てぇ!!」
「なら、とっておきだー!」
なんとナブーマは背負っていたバズーカを肩に乗せて発砲。ミサイルが被弾して地響きがするほどの大爆発がゴーレムを覆う。
しかし爆煙が収まると、それほど傷ついていないゴーレムが歩んでくる。
絶句するナブーマ。
「もう一発や!!」
最後の弾を装填してぶっぱなして、大爆発がゴーレムを仰け反らした。
しかし何事もなかったかのように歩んできて剛腕を振るう。それはナブーマを弾き飛ばして、岩壁に叩きつけた。
「グハァ……ッ」
血を吐いて地面にずり落ちていく。
「ナブーマッ!!」
ジョイは急いで回復魔法を唱えて、傷を癒していく。
その間もゴーレムは剛腕を振るい続けて、避け続けるサガオワラを追い詰めていく。
疲労のせいかY字機関銃が重く感じてきた。残り弾数は多くない。それでも弾倉を入れ替えてリロードして、再び弾幕で仰け反らそうとする。
しかしゴーレムは被弾も構わずズンズン距離を詰めてくる。
「クソが! 図体がデカくて、この程度の弾では足止めできねぇ!!」
テンジもダブルマシンガンで乱射をするが、同様に効いていない。
以前はウィロが特攻して撃破していたが、一体どんな手品を使ったんだ?
ただ剣で叩きのめして粉砕しただけだというのに??
「サガオワラさん。魔法力を込めて撃つ事はできないか?」
「できねぇよっ!! 俺様は魔法力が少なく、魔力も高くないから、威力も期待できねぇ!」
魔法弾による重火器は残弾を気にせず撃てるが、魔力の高さによって威力が変わる。
サガオワラたちが使っている重火器は普通の弾を装填して撃つタイプ。
値段を張るが、安定した火力が保証される。ミサイルに至っては最強の威力を誇るが、値段が高くて運ぶのも重い。
それに銃系は、武器依存になりがちで残弾がなくなれば、ただのオモチャだ。
鈍器代わりに振るうにしては重すぎるし、下手に叩くと銃身が変形したり故障したりする。
「クソがあああああ!!!」
ゴーレムになすすべなく追い詰められ、やむを得ずダンジョン脱出用アイテムを使った。
サガオワラたち蒼烈火はダンジョンの入口にある魔法陣に転移して、安堵した。
危機一髪だったので息を切らしていた。
ナブーマを見やれば、早めの回復魔法のおかげで生きていて安心した。
「しかし、大損だ……。消耗の割に収穫も見合うほど多くねぇ。クソったれ!」
「いつもならウィロが戦ってくれて、楽ができ……ハッ!」
ジョイが口を滑らした失言を後悔した。
憤るサガオワラだったが、改めて考えれば確かにウィロがいてくれたからこそ、残弾を心配せずダンジョンを進めた事に気づく。
しかし今回は銃オンリーで突き進んだ為、思ったより弾の消耗が早かった。
出しゃばってウザいウィロのおかげで、消耗より収穫が多くて儲かっていた事に今更気づく。
「冗談じゃねぇ! あんなゴミ野郎に価値などねぇ!」
床を殴って否定するサガオワラ。
その頃、ギルドの中でウィロの前に一人の女性が憮然と立ちはだかっていた。
黒いカチューシャをはめた銀髪ロング、整った美顔で鋭い目、スラっとした紫調の衣服。
「私はフレム・ドーンティー。不本意だが貴方にはパーティーに加入して欲しい」
「なぜ?」
「火力のあるアタッカーが欲しい」
ウィロは不審を抱く。
冒険者のフレムは『奇跡の魔法』のエース。
時を加速させたかのような瞬足で間合いを縮めて敵を仕留める事で有名だ。
「言葉足らずになってますよ」
なんと水色の姫カットの女性が近づいてきた。
「あなたは『奇跡の魔法』のリーダー……」
「そうです。私はカーラ。目的があってダンジョンの最深層を目指しています」
カーラ・リーンション。水色の姫カットで白いローブを着た聖女。しっとりした雰囲気だが、芯の強さが目から窺える。
サガオワラのような野心溢れたドス黒い気配はない。
他の冒険者からも一目置かれるほどの聖女だとは聞いていた。まさか自分に関わってくるとは思っていなかった。
「アタッカーが二人必要なのか?」
「一昨日、同じアタッカーであるウッド・シスフラが逝ったわ」
フレムは平然と言ってのける。
仲間が死んだというのに冷たい印象がする。平気で見殺しするような性格か。
「だからか。そういうのなら他を当たって欲しい。大体『蒼烈火』では素人以下のヘタクソで時代遅れの剣士とオレは見下されてたぞ。もっと腕のいいやつなんて他にゴロゴロいるだろう?」
「卑下するなんて愚かね。あんなクズぞろいのパーティーに裏切られたからって、貴方らしくないわ」
「うるせぇな」
センチになっているのに、ほじくり返して欲しくない。
「気になってる人なんだから、正直に言えば良かったんじゃ……」
「そこ黙って!」
なんかフレム赤面してカーラに怒鳴る。
「ウッドって人は、確か水で固めた武器を生成して戦うタイプだったな。それでも命を落とすのか……」
「情緒おかしくなっていた上に、嫌なこと積み重なって自暴自棄になってたわ」
「検索はしねぇけどさ……、パーティー組んでるんなら仲間を大切にしろよ。死んでからは遅いからな」
「ご高説どうも。だったらお手本を見せてくれないかしら?」
「遠回しの誘いは気持ちだけでありがたく受け取るよ。オレは裏切られるのも懲り懲りなんだ」
「……ッ!」
フレムは苦虫を噛み潰す顔を見せる。
「フラれた……」
「あなた黙りなさい!!」
カーラに言われ、フレムは赤面しながら涙目で怒鳴る。
「他にも、ラウード・ディアイ。スーリン・セブティットがいたはずだが……」
「すみません。私用でいません……」
カーラは頭を下げる。こんな謙虚なリーダーだったらなぁ、と気落ちする。
「アタッカーのエースのフレムさんは十分な戦力。カーラさんとラウードさんの射撃も噂で聞いたように秀でている。スーリンさんも陰ながらサポートが光って数々の障害を乗り越えている。新しく加入させなくとも十分通用するベテランパーティーだ」
フレムは頬を染めて目を逸らしながら、気紛らしに後ろ髪をかきあげる。
カーラも褒められたのか照れ照れしてモジモジしている。
「ラウードさんの方が射撃強いです」
「謙虚なのはいいな。こっちは思い上がった横暴なリーダーで苦労させられた」
「竜にちなんだ多彩な技で数多くのモンスターを剣で打ち倒したほどの貴方には不相応ね」
目を逸らしたままフレムは、なんかこっちを認めてくれている?
説明口調だけど、それだけ細かく分析しているって事にも驚きだ。元パーティーの誰も評価全然してなかったのにな。
「フレムちゃんね、ウィロさんの事、力説して加入を訴えてたんですよ」
「黙ってて!!」
前にも増して赤面して怒鳴るフレム。なんか可愛い。
ウィロが受けていた依頼を、フレムとカーラが同行してくれた。
お試し期間って事で納得するしかなかった。
最近、オーガの群れが近くで巣を作っていて、厄介な事になってるから討伐依頼が出ていた。
「ウウウウッ!!」
「ガウガウッ!」
確かに森林に隠れるようにオーガの群れが住み着いているのを、ウィロとフレムは木の影から確認できていた。
見張りが数匹うろついている。
「さっさと仕留めた方がいいわね」
「ああ」
木の影からフレムが飛び出すと、地面から飛沫を一直線に噴き上げて一瞬の内にオーガ二匹の首が飛んだ。
次いで後方の三匹目にも斬りかかって、左肩から右脇を両断。
「速い!?」
「フレムは高速で移動できるアタッカーです」
隣の木の影にオーガがいて、立っているフレムヘ奇襲をかけようとしているのが見える。
ウィロも飛び出す。
それに気づいたオーガが棍棒を振るってくる。
「竜双破!!」
剣を振るって棍棒を斬り裂き、ナイフによる渾身の一撃が胴体に炸裂しオーガを粉砕。まるで竜が爪を振るって牙で食らいつくかのようだ。
ナイフの一撃とはいえ、オーガの胴体が一部吹き飛んでいる。
オーラを武器に込めて命中時に爆裂を発生させていたからこその威力だ。
「やはりパワーがあっていいわね」
フレムは奇襲に気づいていたが、敢えて助太刀させていたようだ。
パワーならウィロで、スピードがフレムと、同じアタッカーでもタイプが違うようだ。
驚くほどサクサクとオーガの群れを片付けていって、巣の駆除まで済んでしまった。
「フレムの目にも留まらぬスピードで敵を翻弄。オレが各個撃破。妙に息が合うな」
「鮮やかなコンビネーションだね」
フレムはあくまでクールに「これでも不満かしら?」と訴えかける。
それをカーラは「素直じゃないね」と困った感じに微笑む。
本当は「一緒にやった方が楽になるから仲間になって!」って感じなんだろうが……。
ギルドに帰ってから依頼完了を報告して、報酬を受け取った。
「報酬は山分けだ」
「今はあなたの生活に充てて」
「すみません。私たちが勝手に同行しただけですから」
しかしフレムは拒否。カーラは頭を下げる。頑として受け取らないようだ。
まるっきりサガオワラたちとは逆である。
ウィロは悩んだりしていた。
この人達と一緒なら、上手くやっていけるかもしれない。しかし……。
「おい!」
こんなタイミングでギルドへ入ってきた蒼烈火パーティー。
サガオワラが不機嫌な顔で声をかけてきたのだ。
「蒼烈火……」
「女どもと戯れてて楽しいか? だが戻る事を許してやるぜ! 俺様は優しいからよぉ……」
「よかったじゃないか。サガオワラも歓迎するんやで嬉しいだろ?」
「やぁ、ウィロ。久しぶりだね。また冒険したいなと思ってたところだよ」
サガオワラとナブーマ、そして白々しく好青年を装うジョイ。
後ろで仏頂面のテンジ。
ウィロはすでに本性を知っているのでザワリと心が落ち着かない。
「少なかった報酬で納得いかないままだったが……」
「なら、くれてやるよ! ホラ!」
サガオワラは金貨を床にばらまいた。
失礼なやり方ではあるが、それなりの額を払っているのが窺えた。
「そいつは嘘をついているぞ」
なんと後方から声がした。
サガオワラとナブーマは「なんだと!?」と激情で振り返る。
なんと金髪ツーブロックの男が毅然と立っていた。眼帯をしている。
「スーリン!?」
確かカーラ率いるメンバーの一人だっけ。
「最初だけだ。あとはタダ働きさせてこき使うつもりだ」
「てめぇ!! 何をデタラメ……!」
「言いがかり……ッ!?」
サガオワラとナブーマが食ってかかろうとするが、スーリンは眼帯を取って魔眼を見せた。
ギロリ、と瞳に特殊な紋様が窺える。
「この『心透目』で、敵の目論見を看破する」
初めて見るが、魔眼は色んな種類があって魔法みたいな特殊能力を備えている事は知っている。
その中の一つでスーリンは心を読めるようだ。
「まぁまぁ落ち着いて話をしようよ……。ウィロは元々蒼烈火のメンバーだったので、再加入して欲しいなと打診しているところだよ」
「ジョイか。好青年の皮をかぶった卑怯者。しかしウィロはすでに貴様の本性を知ってしまったらしい。残念だったな」
「なっ!?」
ジョイはウィロへ振り返る。
「オレが勝手に呼び出して断ったって話だろ? 呼び止めておいて、とんだウソつきだな。信者にハメて己の昇進の糧にするんだってな?」
「き、貴様!! どこで聞いてた……!?」
「お前は好青年なんかじゃない!! それにクズぞろいのパーティーに誰が入るか!! 出ていけッ!!」
ウィロは初めて激情のままに蒼烈火を拒絶した。
サガオワラは頭に血が上り激怒に表情が染まっていく。
「テメェ……!! 素人の分際でッ!」
「そんな素人を再加入させようだなんて愚かね」
今度は冷めた目のフレムが言い捨てる。
「タダ働きでこき使ってやろうと思ったが、もうヤメだ!! 今ここで処刑してやらぁ!!」
「その辺にしておけ。周りの迷惑だ」
スーリンが素早くムチでサガオワラの首に括りつけていた。
思わずサガオワラは「ぐっ!」と冷や汗を垂らして、動けないでいる。
思った以上の殺意で、暴れようとすれば絞められて殺されかねないと危機を感じているからだ。
なにしろ心を読める魔眼があるんだ。どう逆らおうとも即座に絞殺されるのがバカでも分かる。故に動けない。
「スーリンさん、ケンカはダメだよ! みんな食堂へ行こうよー」
なんとピンクのポニーテールの少女が来ていた。
確かラウードと言ったか。弓で敵を射る凄腕のアーチャー。純真そうな顔をしている。
これでカーラのパーティーはみんな揃った。
「こいつらは無視。ウィロ、一緒に来て」
「……分かった」
この場に居たくないと思い、フレムの誘いに乗る事にした。
そのままカーラのパーティーに同行して、蒼烈火から離れていった。
サガオワラたちは憎々しい顔で睨むしかなかった。
ナブーマもジョイも恨みがましく見送るしかできない。
「それより酒場行くね。腹が減た」
テンジはぶてぶてしく締めた。
しかし、この件で本性をあらわにしてしまった蒼烈火はギルドの冒険者から敬遠されるようになる。
ウィロに代わる都合の良いアタッカーを募集していたようだったが、誰も来ない。
なんせ公然で「タダ働きさせてやる」とのたまったのだから。
サガオワラはイライラが加速していくしかない。
ダンジョンへ行こうにも、金食い虫になっている弾丸のせいで損の方が大きくなっていった。
しかもナブーマ、テンジも実弾使いのガンナーなので消耗はバカにならない。
「クソがぁ!!」
「なんかウィロがいなくなってから不運続きや」
「僕は敬愛な僧侶なのに、なぜ神は試練を与えるのでしょうか? ああ、ウィロどもに地獄を与え給え」
「酒飲みたいね」
碌でもない蒼烈火は騙し騙し冒険者をやるしかなく、生活に首が回らなくなるまで遠くなかった。
その内、路頭に迷うか、盗賊に落ちぶれるか、それしか方法がなくなるだろう。
僧侶のジョイもカルト宗教へのめり込んで自滅する事になる。
そしてウィロはフレムと双璧をなすアタッカーとして、カーラとともにダンジョン探索を繰り返していって最深層までたどり着くという伝説ができるのだが、それはまた別の話……。
あとがき
実は前に書いていたプロットのようなものでしたが、このまま腐らせるのも何なので短編としてリリースしました。
プロットみたいなものから再編集して、一話限りの小説に組み立てました。
なお、連載版として新しく出すかは完全に未定です。
読んでくれてありがとうね。