勝負の行方(1)
「ハンバーグ1の3!チキンタツタを2の5!まぐろ丼4の2!!」
「ハイっ!」
「分かりましたっ!」
全く持って今日もいつも通りに忙しい
「オムライスまだっ!?」
「ああ!すぐ出す!」
ファミレスと言えど、ピーク時はホントにキツい
「おいっ!ガーリックトースト出来てるぞっ!さっさと持ってけ!」
作っても作ってもすぐにオーダーが入ってくる
休む暇なんてあったもんじゃない
そんな忙しさに巻かれるのが、俺、杉宮カイの日常だ
現在、大学4年
あと少ししたら、俺も晴れて卒業できる
単位だって3年のうちにほとんど取ってしまったし、その点においては何の問題もない
そうすりゃ、バイトじゃなくて正社員として金を稼ぐことが出来るようになるって寸法だ
つまり、この貧乏暮らしからの脱却できる!...というのが、俺の当初の予定だった
でも、現実ってそんな甘くない
実のところ、俺はまだ内定をもらっていない
というのも、バイトにかまけ過ぎて、ろくな就職活動をしていなかったせいだ
後悔先に立たずとはよく言ったものだと思う
ちょっと前まで、周りからは面接がどうだの、内定が出ただの、といった話題が挙がっていた
俺はその声を羨ましがりながらも『俺だって』なんてことを言って、自分を誤魔化し続けていたのだ
しかし現実はこのザマ
今ではもう、周りから就職活動の話を聞くことすら無くなっている
代わりに話題に挙がるのは、貧乏学生である俺には関係のない、卒業旅行やスキースノボの話ばかりだ
ハッキリ言って出遅れ
周りのハレバレとした声は、俺にはまさに毒と言える産物だった
で、結局俺はどうかと言うと、それらから逃れるかのように、やっぱりバイトに明け暮れる毎日を送っている
「ふぅ...」
忙殺的なバイトがようやく終わり、俺は一人、ロッカールームで休んでいた
時間は午後6時
今日は早番だったから、この時間で終了
「...今日も、忙しかった...な」
そんなことを独りごち、どこか虚しさに襲われる
理由は...分かってる、つもり
俺は、それを隠すかのようにパイプイスに浅く座り、机にだらしなく足を投げ出す
最近は、何もかもが煩わしい
「俺、何したいんだよ...」
バランスを取りつつ、イスをグラグラと揺らしていると、不意にドアが開いた
「あ、カイさん。お疲れ様です」
「ん?ああ、まど...ってわっっ!!」
ガシャンと、鈍い金属音を響く
うかつにも、振り向いたことでバランスを崩し、豪快にスッ転んでしまった
「っつ~...」
顔を歪ませながら頭をさする俺
こけた時、ものの見事に頭を打ち付けてしまった
かなりカッコ悪い
「だ、大丈夫ですか?」
ちょっと驚いたような顔をして近づいてくる女の子
「ああ、大丈夫大丈夫...」
彼女は、霧島まどかちゃん
この前新しく入った女の子だ
「...いつつ」
痛みを堪えながら立ち上がる
そして、俺を気遣ってくれるまどかちゃんを他所に、まずは平べったくなったパイプイスを、再びイスの形に戻した
照れ隠しだ
「あ~...まったく...」
ついてない
今あったことをなかったことにしたいのだが、そうもいかない
全く持って、ホント嫌なところを見られたものだ
「っ...ふふっ」
って、吹き出してるし...
「ふふふふっ!」
「.......ははっ」
「ははははっ!」
「ハハハハハハハ...」
「ふふふ...ははははっ!」
「ハッハッハッハッ!」
もう泣きそうだ