隣のルームメイト(4)
聞きなれない音に目が覚める
じゅー、じゅーっていう音
寝ぼけ眼にロフトから下を覗き込むと、そこには布団の代わりにテーブルが置いてあった
間も無くして、その上にカイがお皿を置き始める
見ると、その皿の上には目玉焼きが乗っていた
「美味しそう」
「ん?」
私の声に、カイは上を見上げる
目が合う
「おはよ」
「ああ、おはよ」
互い、顔を見て言った
普通に笑いあって
どうやらまた、変わらぬ今日が始まるみたいだった
手抜き料理っぽい目玉焼きを食べて
焼いただけのトーストにバターを塗って
盛り付けただけのサラダを食べて
インスタントの安いコーヒーを飲む
で、私とカイは一緒に外に出るわけだ
私は大学
カイはバイト
全くいつも通りだ
私達は駅までの道を話しながら歩く
でも、いつも通りカイは聞いてばっかりで、自分から話そうとはしない
ホントに呆れるくらいにいつも通り
「ね?」
「ん?」
でも、余りにつまらないので、私はカイをからかうつもりで思わせぶりに聞いてみることにした
「私達ってさ...どんな関係かな?」
「は?お隣さんだろ?」
「うん、で?」
「は?...じゃ高校の同級生か?」
「...そうじゃなくてさ~。友達とか恋人とかで」
「なら、知り合いだな」
迷い無く答えるカイ
「知り合い?」
「そ」
「恋人じゃなくて?」
「当たり前だ」
「友達でもなくて?」
「ああ」
「知り合い?」
「そ」
「.............」
「何だ不服か?」
「だって...何かそれって仲悪そうじゃない?」
「...そうか?」
「そだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「............」
考え込むカイ
ちょっと珍しい
けど、それはほんのちょっとの間だけだった
「でも、異性同士で友人関係なんて成り立たないからな。だから、アキは知り合いだ」
「...何それ?何かの受け売り?」
「いや?俺がそう思ってるだけ」
「............」
「おかしいか?」
「そうでもないけど...」
「不服そうだな」
「まぁね」
だって、それも中途半端な気がしない?
そういうのって、やっぱ嫌い
どうせならハッキリしているほうがいい
答えが出せるならその方が気持ちいいじゃない。違う?
私はそんなことを考えながら、駅まで道を黙って歩いていた
相変わらず、自分からは何にも話そうとはしないカイと一緒に
そして、そのまま駅前へ
そこで私達は分かれることになる
私は駅へ
カイは近くのレストランへ
「ねぇ」
「ん?」
でも、私は別れる前に言ってやった
「異性でもさ。友達ってあるって、私思うよ?」
「無いさ」
やっぱり即答だった
でも、負けない
「ある」
「ない」
「ある!」
「いや、ないね」
「............」
「............」
意見の相違
しかもほとんど対極な意見だ
「...なら、分かった」
「何がだよ?」
「この勝負はお預け。今夜、とことんまで話しましょう?」
「また、タダ飯食いに来る気かよ...」
「そ」
「...お前は」
呆れ果てた様子のカイ
こういうカイを見るのは楽しい
「はぁ、まぁ別にいいけどさ~...」
カイは頭を掻いてそう言った
「あ、めんど臭そ~」
「ったりまえだろ?何が悲しくてお前なんぞ泊めなくちゃならんのだ」
「いいじゃん。だってこんな可愛い子が泊まって上げてるのよ?役得じゃない」
「どこがだよ...」
カイは、これ見よがしにため息を吐く
これもいつもの事だ
「もう、分かったわよ。じゃあビールでも持ってくって」
「どうせまた缶ビール一本だろうが」
「当たり前でしょ?大酒飲ませて襲われるのなんて嫌だもの」
「誰がお前なんぞ襲うか」
「あ~、しっつれ~な奴ね~。ちょっとは思いなさいよ~」
「思うかっ!」
と、まぁ、そんなこんなで、いつも通りの日常が繰り返されていく
私がカイをからかって
カイは渋々私に付き合ってくれて
多分、この二人がこれ以上に進展することはないと思う
これは、ハッキリしている
私もカイも、それを望んではいない
だからきっと、この先もずっとこのままなのだ
「じゃな」
「うん、じゃ」
そう言いあって、私達は今日もまた、いつも通り二手に分かれた
私は駅へ
カイは近くのレストランへ
これが、いつも通り
でも
「...やっぱり、ハッキリしないのは嫌」
曖昧なのは嫌い
だから
私は、遠ざかっていくカイに向かって叫んでいた
「絶対に!私のこと友達だって認めさせてやるからね!」