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隣のルームメイト(3)

高校2年の時、カイは私に告白した事がある


でも、私には、その時彼氏(今はもう別れたけど)がいて、カイの告白を断った


それで普通は、二人の関係は終わり...となるはずが、その縁はなかなか切れなかった


何の因果か、東京で再会を果たす事になってしまったのだ


しかも、引っ越した先のアパートの隣人として


そんな偶然がどこにあるって言うんだろう


いや、ない


あるわけがない


そんなことが現実であろうはずがない


「...やっぱり泊まる気なんだな」


でも、ここに実際にあったわけですハイ


シャワーを浴びて部屋に戻ると、カイは呆れてそう言った


でも、それ以上文句を言ってこない


もう、いつもの事と諦めているんだろう


カイは、すぐに六畳たらずの床に布団を敷き始めていた


自分が寝るために


もちろん一人で


「お前はいつも通り上な。いいだろ?」



つまりはロフト


普段カイの寝ている場所だ(わたしんちのロフトは物置)


わたしはいつも、そのロフトで眠ることになる


もうこれも当たり前みたいになっていた


私は、よく今日みたいにカイの部屋に泊まることがある


何故って?


そりゃ節約のためだ


というのも、私の部屋ってものすごく寒い


霊か何かのせいなんじゃ、と思うくらいに激しく寒い


ならエアコン使えばって話だけど、でもエアコン毎日使ってると...一日一食生活に突入しないといけない


そんな無理なダイエットはダメ!


長い時間、空腹感を感じていると太りやすくなってしまうのよ!


リバウンドなんて起こった日には、もう目も当てられないじゃない!


何より一番大事なのは...買おうと思ってるコートが買えないかもしれない!


そんなの、私を買ってと言ってくれてるコートが可愛そうじゃない!


...だったら、節約しか選択肢はないのよ!


頑張れ私!負けるな私!


この身も心も、そして財布の中身も凍りそうな寒い冬を、乗り切るためには何だって利用するしかないのよ!


とまぁ長々と説明したがつまりは金欠


カイほどでは無いにしても、今月は色々出費が大きかったせいでちょっと厳しい


でもここにいれば、あったかい部屋にいられるし


ご飯が(タダで、かつ何もしないで)出るし


カイは私の話もちゃんと(愚痴であろうと何だろうと)聞いてくれるし


と、ホントに言う事無し


それに、甲斐性なしのカイなら気を使う必要もないから、つい居座りたくなってしまう、という訳だ


カイは最初、もちろん反対した


俺とお前は男と女だ、とか


何が起こっても知らないぞ、とか言ってたような覚えがある


でも、家のカギを無くしてしまったその時の私には、それ以外の手段は無かった


その時も今日みたいな寒い日だったし、もう終電すら終わった時間だったし、カラオケとか漫喫とかホテルに泊まるようなお金の余裕も無かった


そんな諸々の事情から、渋々ながらもカイは私を泊めてくれたのだった


私だって流石にヤバイかなって思ったし、そういう時はどうしようか、とも思ったりした


その時の私にしては、とても勇気ある行動だったといえる


ま、その時はその時だ。と、やや投げ槍になっていたのも認めよう


かといって、寒空を一人さまよい歩くなんていうのも真っ平ご免だったのも本当だった


それが、最初の夜だったってわけ


それに結局は、カイは律儀なくらいに私に何もしなかった


その日から、私は何度となく泊まっているが、やっぱり特に何もない


実のとこ、ゲイなんじゃないの?とか疑った事もある


でも、実際にそんな事は無いようだった


それにカイも、実に不服そうだが、何も言わずに泊めてくれる


ただ単に、小心者で恋人のできない...いわゆる『いいひと』ってことなんだろう


私は、ついついそれに甘えているというワケだ


感謝 感謝








時刻は、AM0:08


普段、そんなに早く眠らないの眠気は襲ってこない


一昨日もレポートに追われて、眠ったのは午前の5時だった


こうなると、元の生活時間に戻すのはちょっと難しい


「ねぇ、まだ起きてる?」


だから私は、下にいるカイに声をかけた


「あ?」


カイは言葉少なに答えてくれた


「あのさ?しりとりしない?」


「...しねぇよ」


「ねぇ、しようよ。しりとり」


「嫌だって...俺、明日朝からバイトなんだ」


「いいじゃん。ちょっとくらいなら大丈夫だって」


「うっせぇ...寝ろ...」


その声は本当に眠そうだった


でも、私は眠くない


不公平だ


なら、私に付き合ってくれてもいいじゃないの


そう思わない?


「ねぇ、カイ?」


「...ああ?」


ちょっと苛立った声だった


でも、私は気にしない


「カイってさ。今付き合ってる子...いる?」


何のことは無い


ただの意味の無い、よく他人に振る話だ


「ねぇ、いるの?」


「...別に」


やっぱり言葉は少なかった


でも、カイはいつも私の問いには正直に答えてくれる


ホントにいい奴だ


「じゃ、前に話してたさ?大学の講義で一緒だって子は?確か...気になるとかって言ってたよね?」


「...ああ、そうだったな」


「その子は?どうなったの?」


「...フラれた」


「...そうなんだ」


「そ」


「...ねぇ?」


これ以上は、無理に聞かない方がいいって分かってる。でも


「...どうして?」


私は聞いていた


「............」


流石に答えにくいのか、それとも怒ってしまったのか、カイは黙ってしまう


「...カイ?」


私は、ロフトから身を乗り出して下で眠っているカイを見た


と、カイも真っ直ぐに上を見ている事に気づく


自然、目が合った


「なんで...かな?」


もう一度聞いた


「...別に」


今度はすぐに答えてくれた


「...他に好きな奴がいたってだけだよ」


「...そっか」


互い、目を見続ける


互い、逸らそうとはしない


「じゃあさ...今は?」


「ん?」


「今は...好きな子...いる?」


「............」


「ねぇ...いるの?」


「............」


私の問いに...


カイはなかなか答えてくれなかった


そのまま


ゆっくりと時間が流れていく


ゆっくり...


ゆっくり...


でも、ゆっくりだけど


止まったりせず


確実に...


一秒...


一秒...


正確に流れていく


その秒針は、やけにうるさかった


いつもは気づかないのに、こんな時だけ余計に働かないで欲しいと思う


どうせならいつもみたいに、気づかない程度でいいのに...


と、窓を何台目かの車のライトが照らした時、カイが不意に口を動かした


「いる」


と、それだけ


「そっか」


私も、それだけ答えた


静かだけど、やたらと秒針のうるさい時間


私は、そんな中でカイから目を逸らさない


カイも、私から目を逸らさない


「...誰...かな?」


「............」


「私の知ってる子?それともやっぱり大学の子かな?」


「...いや。違う」


その時だけ


秒針の音がすごく大きく聞こえた気がした。でも


「バイト先の子だよ」


それは、すぐ...静かになっていった


「最近入ってきた新人」


「...ふ~ん。可愛いの?」


「ああ、そうだな」


「そっか」


「ああ」


元の静けさが戻ってきている


もう秒針の音は僅かにしか聞こえない


理由は分からない


ただ、自然に...静かになっただけだ


「今度は頑張りなよ?じゃないと、またフラれるぞ?」


「...そりゃ相手次第だな」


「...そだね」


「ああ」


「............」


「............」


「そろそろ、寝るね...」


「ああ、そうしてくれ」


「うん。おやすみ」


そう言って乗り出していた体を元に戻す


その後で、カイの「おやすみ」という声が聞こえた


きっと、そのまま目を瞑るのだろう


私も横になって、すぐ側にある天井を見た


...やっぱ狭い


いつも思うけど嫌な圧迫感だ


気に入らない


でも文句は言わない


だから、目を瞑って眠れるのを待つことにする


幸いにも、すぐに眠気が襲ってきてくれた


ここ数日の、レポートの無理のおかげだろう


でも、そんな夢現の中


私は考えていた


明かりの点いていない暗く狭い部屋


その上と下で眠る二人


でも...


でも二人は...恋人同士じゃない


トモとタカみたく、付き合ってるワケじゃない


でも、あんな...テキトーで曖昧で今にも壊れそうな関係では間違いなくない


互いに嘘は無いし


誰かを頼るつもりも無いし


仲だって...悪くは無い


むしろ良い


でも...それは何?


どんな関係?


仲の良い異性同士って...何て言えばいいの?


分からない...


友達以上恋人未満ってやつかな?


何か...それ


...嫌だな

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