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勝負の行方(6)

あれから、どれくらいの時間が過ぎたのか...


二人して、ずっと黙ったまんまだ


「カイ...」


「え?」


すると突然、アキが俺の肩に寄りかかってきた


肩と肩だけじゃなくて、肩に頭を乗せて、ぴったりと、寄り添っていた...


アキの顔は、髪に隠れて、その表情は見えない


「お、おい...」


何も分からなくなって、ただ単に言葉も無く俺は話し掛けた


「ねぇ、カイ?私達って」


でも、アキはそれを遮った


「ねぇ、私達って...どんな関係かな?」


「は?...え?」


真剣な声で聞いてくるアキ


それは、前にも聞いたことのある質問だった


「友達とか...その、恋人とかで言えば...どんな...」


「そ、れは...」


「まだ...知り合い?」


「............」


知り合い...


そう


あの時俺は、そう答えた


「わたし...は...」


アキは、ゆっくりと俺の方に顔を向ける


あ...


その目は、どことなく潤んでいるように見えた


そして、吸い込まれそうなくらい真っ直ぐな瞳だった


「わたし...今、は...」


綺麗だった


それ以外、考えられなかった


「...ア、キ」


「...カイ」


近づいていく二人


その距離感は...もう、知り合いなんかじゃ...


パチン


『ワハハハハハ!!!!』


「「っ!?」」


ずさっ!


ビクっとなって、思いっきり離れる二人


そして、サッと、その笑い声のした方を見ると


そこには、テレビ


お笑い番組か何かで、どっかの新人芸人がネタを披露している


でも、内容は笑えもしないバカバカしさだった


二人して、ゆっっ...くりと下を見てみると、俺の手の下に...リモコン


「............」


「............」


その後は、どうなったかと言えば...


もういつもと変わらない二人に戻っていた


ただ一言


「無かったことにしよう」


しばし呆然とした後で、二人同時に言った、その一言で







チュンチュン...


スズメの鳴き声


何故か朝だと理解できる不思議な鳴き声


遮光カーテンのないウチの窓からは、瞼の裏を刺す明るい光


それと...


ジュージュー...


というフライパンの焼ける音と、鼻腔をつくいい匂い


「...ん?」


って


「いい匂い!?」


ガバっと起き上がる俺


そしてすぐさまキッチンを見る


「あ、おはよ~」


「ふあ?」


そこには、エプロンをつけたアキ


「もうちょっとで出来るから。あと少し待っててね」


「はい?」


「あ、テーブルを拭いててくれる?」


「え?」


「うわっ!目玉焼きが!」


「ええっ?」


何なのでしょうかこの光景は...


アキが...


あのアキが...朝食を作っている...なんて...


驚天動地


空前絶後


そんな言葉が浮かんだ


そして思った


こんな時に、ほっぺをつねりたい...と思うのかもしれない、と...







「いただきますっ」


「...いただきます」


目の前には


ご飯


味噌汁


おひたし


焼き鮭


それと目玉焼き


の5点


どれもよく出来ているように見える


「............」


一口食べる


「どう?」


「ああ...美味い...よ」


「そ。よかった」


「............」


何かの前触れだろうか...


そう思う俺を、誰が責められようか


「な、なぁ。アキさん?」


味噌汁をすすってから尋ねる


つい丁寧に


「どうしたの?」


思わず『どっか具合悪いの』と聞きそうになったのを堪える


「別に?ただ早く目が覚めちゃって、どうせだから料理でもしてみようかなって」


「............」


今日は...傘を持っていこう


きっと雪だ


「じゃなくて...」


「ん?さっきからどうしたのよ?」


「ははは...いや?何でも?」


おかしい


絶対におかしい


何、俺達...新婚夫婦みたいなことやってんの?


意味分かんねぇ


まさか...昨日のあれが原因か?


あれのせいで、微妙に頭のネジが10本くらい抜けちまったのか?


それってヤバくないか?


「............」


俺の方こそ、ネジが30本くらい抜けているのかもしれない


「カイ」


「は、はい?」


綺麗に正座までして何やら物々しい


「正社員。おめでとう」


「え?」


「バイト先の店長からそう言われたんでしょう?」


「え?え?な、なななんで、アキが?」


俺、確かまだ言ってないよな


それともネジが抜けたせいで記憶が曖昧に?


「あれ」


そんな俺の疑問を理解したのか、アキは微かに笑いながら机の方を指差す


「アレ?」


アキの指の先を見る


「あ...」


そこには、見覚えの無い一枚の色紙が立て掛けられてあった


そして、その色紙には...


『おめでとうございます杉宮さん』


『これからも俺達みんなをよろしくお願いします』


『カイ先輩!頼りにしています』


『俺、どこまでもあんたに付いていきますよ!』


『カイさん。影ながらあなたのことを応援しています(笑)』


etcetc...


「さっきね。それ見つけて」


「............」


「何かいいよね?それ」


「...あいつら。いつの間に」


「あれ?何、カイってば気づいてなかったの?バカね~」


「う、うっせぇ...」


にしても...これは...ちょっと、嬉しいかも


「あ、じ~んときてるでしょう?カイって昔っから感激屋さんだよね」


「............」


「あ、うるさいって言わないの?」


「や、やかましい...」


「ふふっ、まぁ、それ見てさ...どうせだから私も、ちょっとはお祝いしてやるかと思ってね」


「あ...」


だからこんな...


「大丈夫だよ」


「は?」


「カイなら、大丈夫。それこそお店の店長にだってすぐなれるよ。だってこんなにみんなに慕われてるんだもん」


「............」


「ね?」


「...だと、いい、かな...」


「うん」


そうだ


いいかもしれない


変われる、チャンスかもしれない


偶然に舞い降りたチャンス


これは大事にするべきなんだ


...ううん、違う


大事にしたいんだ


こんなキッカケ、多分普通は無い


ほとんどの場合、変わるってのは何においても自分が最初


自分が動かなきゃ、何も得られやしない


だったら、この誰かが与えてくれたチャンスは、とても...とっても貴重なものだ


これを大事にしなくてどうするって言うんだ







「なぁ、アキ?」


いつもの駅までの道


俺は、アキに話し掛けた


「ん?何?」


「俺さ。まどかちゃんに...告白してみようと思うんだ」


「............」


「どう、思う?」


俺は...酷い男だろうか


「う~ん...」


...そう、なのかもしれない


「......うん、いいんじゃないかな?」


「そっか...」


でも


「でさ、昨日の、質問なんだけど...」


「...昨日の?」


「ほら、俺達の関係は、って奴」


「ああ、うん」


「お前の勝ち」


「は?勝ち?」


「ああ、アキ、ちょっと前に『絶対友達だって認めさせてやる』とかって言ってたろ?」


「...うん。言ったね。そういえば」


「その答え」


でも


「アキはさ。俺の...大切な、友達だ」


これで、いいんじゃないかって思う


「............」


「だから、これからもよろしく」


そう言って、俺は手を差し出す


そんな俺と、その手を見て


「はぁ...」


っと、アキは少し呆れたようにして


「仕方ないな~」


と、本当に仕方ないな~、というように俺の手をとってくれた


こうして、俺とアキは友達になれた


「今後もよろしくね。カイ」








そんなこんなで、私とカイは友達になった(カイ曰くだ)


私は元よりそのつもりだったわけで、何が変わったと言うことは無い


勝手にカイの部屋には上がりこむし、最近、とみにぎこちなくなってきたトモとタカの悲喜こもごもを面白おかしく話すってのも変わらない


良くも悪くも今までと同じなわけだ


あ、ちなみにカイの告白話が、どうなったかと言うと...


「は?フラれた?」


「ああ...」


「............」


「............」


哀れな...


あれだけ、本気がどうとか言ってたのに...結果これかぁ...


「で...どして?」


「...何か...そんな風には見れないって...ははっ」


力の無い笑いがまた痛々しい


「えっと、まぁ...平たく言えば...お友達のままで...ってやつ?」


「は、ははっ...」


「............」


哀れすぎる...


今更ながら...カイが男と女では友情が成立しないって言ってたのも分かる気がする


「あ~...その...何?ありて~に言うと...」


「...ふぇ?」


「今日は...一緒に飲もっか?」


ってことで、その日は、カイの愚痴を聞いた


案外は長かった


珍しく、べろんべろんに酔ったカイは、とても元気だった


でも、時折マジ泣きするのには引いた


それに愚痴を聞くだけって...辛い


今後は私も、ちょっとだけ自嘲しようと思う


はんせ~


しかしそれにしても、現実ってホント厳しい


いつも思うようにいかないし、辛いことの方がよっぽど多い


ま、そこでそんなもんと諦めてもいいし、抗ってみるのもいいかもしれない


どっちにしろ、少しは変わらなきゃやっていけないかな~って感じ


大学を卒業して数ヶ月、カイも無事にファミレスで働いてるし


私も、持ち前の明るさと前向きさと活発さと愛想のよさと美貌で、着々と営業成績を伸ばしている


ちょっとはマシな社会人ってのになりつつあるのだろう


これも変化と言えば変化だ


でも


「今日さ~。いっじの悪い客に当たっちゃってさ~」


「そ」


こんなところは変わらない


今日も今日とてカイの部屋で談話中だ


ホントに相変わらず


...相変わらず、ねぇ?


なんて言うかさ、変化がないのって、つまらないって、思わない?




「あ、そういえば、今度の日曜ってヒマ?」




これは、誰の、どんな意味の言葉か?


どうも、相変わらずってやつの中にも、ビッミョ~な変化はあったりもするものらしい


さてはて、一体、この先どうなることやら


でもとりあえず


不安とか疑問もたくさんあるけど、この変化ってのを、楽しみにしてもいいのかもしれないよね

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