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勝負の行方(5)

「でさ~。そのバイト先、午前と夕方でケーキの売れ行きに差があってね?やっぱ夕方の方が忙しいわけなのよ」


「はぁ~ん」


「そうなると、自然に午前の子達はのんびりとした子が多くなって、夕方の子はテキパキしてないとダメなわけ」


「そうだな」


「でも時々夕方の子が午前に入ることもあるんだけど、それだともう大変なの」


「何がだよ」


「えっとね?夕方の子は品薄のケーキに気づくと、すぐ新しいの作るんだけど」


「ほうほう」


「でも、午前の子はそこまで気を回さないの。ま、数はそんな売れないから仕方が無いんだけどね」


「そりゃな」


「だけど、夕方の子にしてみれば午前の子達の、あんまりの行動の遅さにイライラしちゃうの」


「なるほど」


「だから、つい『あんた達!さっさと作りなさいよ!』とか、キツめに言っちゃうのよね~」


「へぇ~」


「それで、午前と夕方の子達の間には、軋轢みたいのができちゃってるわけ。どう?駅内のケーキ屋バイトの裏事情パート1」


「大変だな」


そう答えると、アキはものすごく不機嫌そうな顔をする


「もう!さっきから何よ!全然聞く気がない!」


「聞いてるだろ?相槌も打ってるし」


「すごく嫌々してる」


「うっせえな。いいだろ別に...」


「うわヒドっ!」


「...お前は」


気に入ったのかよソレ


「へっへ~ん。そうよね~。カイには愛しのまどかちゃんがいるもんね~。私と話してたってつまんないよね~」


「何言ってんだお前?」


「まったくさ~...人がこんなに色々やって気を使ってやってるって言うのに...」


「は?何だよ気を使うって」


「は?...別に?な~んでもない」


「おい、そういうのやめろよな?気になんだろ?らしくないだろうが!」


「............」


「おい、アキ!」


「はぁ、わかったからそんなに怒んないでよ」


「なら、さっさと言えって」


「もう...」


仕方が無いなと言わんばかりに、アキは溜息交じりに話し始めた


「キミさ、気づいてる?最近自分が少し暗いの」


「は?暗い?」


なんだそれ?


「...まぁ、前から、カイって明るい方じゃなかったけど、最近は特に暗い。んでもって今日は最悪に暗い」


「............」


そんなに、露骨なんだろうか


「これは多分だけど、カイは就職のことで迷ってるのかな?」


「う...」


「はぁ...図星ね~」


驚くわけでもなく缶ビールを飲むアキ


...いらつく


「うるせぇな。アキには関係ないだろっ?」


「そうだけど...知らなかった?私ってね、そういうの放って置けないタイプなの」


「...どこがだよ」


そんなつもりはないのに、どうも悪態をついてしまう


本音に気づかれるのは嫌いだ


「キミさ~。就職関係の話をまるで無視してたでしょ。私の内定が出たときも様子がおかしかったし」


そうだったのか?


意識してなかった...


「そりゃね?私も最初は放っておこうって考えてたよ?こういうの基本的に個人の問題だし、他人の言葉なんてあんまり意味ないしね」


「だったら...」


放っといてくれよ


「だけどね~。最近のカイを見てるとホンットうっざいのよ。もう殴りたくなるくらいにうっざいの」


「何だよそれ...」


「ま、昨日、例のまどかちゃんと話してるとこ見て、ちょっとは大丈夫かな~、とも思ったんだけど...」


「思ったけど...何だよ」


「キミ、コクった?」


「はぁ?」


何を急に


「だから告白はしたかって聞いてるの」


「う、うるせぇな!アキには関係ないだろ!」


「はぁ...やっぱりしてない...このグズ」


「お前は...言うに事欠いて...第一、それと就職とは関係ないだろうが!」


「あるよ?ありますよ?当たり前じゃない?」


「何がだよ!」


「いい?どうせキミのことだから社会に出るのが不安だ、とか、今のままでもいい、だとかそんなこと考えてるんだろうけど」


「うっ...」


「結局はみんな社会に出なくちゃいけないの!出ないと生きてけないの!出なきゃはっきり言ってホームレス確定よ?」


「...そんなの分かって...」


「...分かってる?」


「当たり前だろ?」


「分かってるの?本当に?」


「ホントだよ!!」


「バイトだけで生きてこうだなんて思ってない?社会に出るの怖がって責任から逃れていこうとか考えてない?」


「............」


「何?今度はダンマリ?マジうざい」


「うるせぇ!!」


「そういえばカイはいつもそうだった」


「黙れって言ってんだろ!!」


「今までも何度か告白した話を聞いたけどいつも本気じゃなかった。本気にならないで軽い感じで告白して、ダメならそれでいいや、みたい感じなの」


「...だから」


「それってどうしてだと思う?それはね、フラれるのが怖いだけなのよ。だから本気にならないで、フラれたら『本気じゃないんだから仕方ないか』って自分に言い訳するの。それって結局自分に甘えてるだけなのよ!」


「...それは」


「これも図星でしょう?自分でも分かってるんでしょう?」


「............」


「自分のプライドか何かがそうさせてるんだと思うけど、そんなの本気でカッコ悪いよ。ああダサい」


「...黙れよ」


「ほら、またそれ。都合が悪くなったらすぐにうるさいとか黙れとか言うの。バカみたい」


「っ!!」


「悔しい?悔しいよね?だったらもっとチャレンジして見せなさいよ!恋愛でも就職でも!」


「............」


「...カイはね?ただ逃げてるだけ。それが自分に対する過小評価か何なのかは分かんないけど、でもそれってただの甘ちゃんの考え方よ...分かってる?」


「...分か...って」


「ふん。分かっててそれなの?この意気地なし」


「............」


「何?何も言うことはないわけ?」


「...誰の」


「何?聞こえない?もっとはっきり言って?」


「誰の...誰のせいだと思ってんだよ!」


バンッ!!


「っ!?」


アキの両肩を掴んで壁に押し付ける


もう、頭がしびれたようになって止められない


「...いったいわね...何すんのよ!」


「しるかっ!!」


「うっ!」


すぐ目の前で大きな声を張り上げる


「だいたい...全部誰のせいだと思ってるんだよ!?」


「し、知らないわよ、そんなの!」


「くっ!!」


それを聞いて、完全にはじけた


「お前だよ!全部お前のせいなんだよ!」


「は?私?何それ止めてよね!勝手に責任を押し付けないでよ!!」


「うるせぇ!!」


「っ!!」


「だいたいな...お前が...アキが...」


声が、出にくくなる


でも、感情を抑えきれない


「...え?」


「あの時、俺はな...」


「...カ、イ?どうし...」


「俺は...勇気出して...本気で...でも...だけど...だけど!」


「............」


「お前が...お前が一番最初に俺をフったんだろうが!」


「ぁ...」


「三年の時、同じクラスになって...いいなって思い始めて...気がついたらアキのことばっかり考えてて、でもそのこと、言えなくて...でも時間なくなってきて、それじゃいけないって思って...だから勇気出して...本気で...本当に始めて本気で...」


「カイ...」


「でもその時お前何て言った!?」


「...っ」




『ごっめ~ん。今付き合ってる人いるからさ。あ、でも何かオゴってくれるんなら一回くらいなら付き合ってあげてもいいかな?な~んてね。アハハっ』




「あんな、風に、お前は...」


「............」


「本気なんて意味が無かった!本気になっても相手にはそんなの全然伝わらない!ただ、自分独りで...辛い思いをする、だけ...」


「............」


「だから...」


「カイ...」


「だから俺は、あれから一度も本気になんてなってない。なったりしない...もう、あんな思いするのは...」


「...ごめ...ん」


「............」


「ごめん、なさい...私、その...」


「............」


「ごめんなさい...」


「...もう、いい」


「でも...」


「あの時は...お前付き合ってる奴いたし、仕方が無いと思ってる」


「でも、あの...」


「...いいんだ。その後のことだって、俺が勝手にそうしてきただけだし、自分でも、悪い、って分かっては、いたんだ...」


「............」


「それより、俺の方こそ、ゴメン...カッとなって、その...」


「...いい、よ」


「ゴメン...」


「...うん」


俺は、そのままアキの横で壁に寄りかかる


何かもう、本当に動く気がしなかった


アキに痛いところ突かれて


バカみたいに怒鳴り散らして


すっげぇカッコ悪い


アキの言うとおりだな


あ、でも、そういえば...こんなに感情を表に出したの...久しぶりだ

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