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11. 本心

「どういうことですか?」

「私が言ったそのままの意味だ」

「…でも、私はまだ」

そう呟く娘の顔には、御簾越しでもよくわかるほどに当惑が映っていた。

文経譲りの翠の瞳が動揺で瞬き、あやめ譲りの美しい緑髪が風に揺れるたびに輝いているようにも見える。文経は愛しい娘にその気持ちを伝えたい衝動を抑えながら、大きく息を吸う。


「いつまでまだというつもりだ?」

娘はその目を伏せて黙りこくってしまった。年頃の娘なのだ。恋愛に対して全く興味がないことはないだろう。しかし花散里の君からは、想い人がいるというような素振りはないと教えてもらっている。つまり、見合うなら今のうちしかない。

なんて勝手なのだろうなぁ。娘から見ればどれだけ横暴な父なのだろうか。

「わかりました。…もう相手は決まっているんですか?」

「六条院からの推薦者もいたが、そちらは家柄の関係で取りやめたらしい。だから私の方から一人出させてもらう」

「…そうですか」

娘は、なんだか浮かない顔をしていた。小さい頃からよくする顔だ。

やはりいらないことをしてしまっただろうか、と一瞬弱気になったが、これも父親としての責務だと己を律する。

「本人から文を送ってもらうから、それへ返すように」

「はい」



少し強引に話を終わらせ、文経は年で重い腰を上げる。「また、何かあれば」と言って、その場から立ち去ろうとした。

「父上」

その時、若苗が口を開いて彼を呼び止めた。文経は、幼い頃の彼女に呼びかけられたような気がして、肩をすくめる。

「お体にお気をつけて。それでは、また」

振り返ると、急いで着飾ったであろう衣装を身につけ、無愛想に礼をする愛娘の姿があった。そこにいるのはゆきではなく、若苗なのであった。




父は会釈をして、ゆったりと立ち去っていった。

今日の父は、何か少し気味が悪かった。強気なのに変にこちらを伺っていた。なんだか昔の父を見ているようで不思議な気分になった。

でも今の父の方がマシだ。酒臭くないし、何より会話ができたから。

「前言ってたお父さん?」

「はい」

「嫌いなんだっけ? 私には良いお父さんに見えたんだけど」

彼らが立ち去っていったのを見送った菫は、後ろから顔を出してそう問う。彼女はその大きな目をいっぱいに広げる。

「昔の父ですね、もう改心したのかな」

「それなら良いんだけど。…ねえ、あんた、気づいてる?」

「何がですか?」

菫はお得意のやれやれ顔を見せつければ、立ち上がって大きく息を吸った。


「あんた、愛されてるじゃん」

「…はあ」

「まず、わざわざ顔見に来たり、お見合いをさせようと思ってる時点で、充分あんたのこと考えてるよ」

菫はいちいち大きなジェスチャーでそう伝える。態度に表していないが、考えてみるとまあ確かにそうだ。しかしこちらにも譲れない言い分はある、…が、過去を引きずっても仕方ないことなんてわかっている。

意味深な表情も浮かべていたしで、底を突き抜けていた父の評価が少し上がってしまって、それすらも納得がいかなくて、この複雑な感情をどう鎮めるかで悩むハメになってしまったのである。

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