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6. 二条姫君

悴む指を懸命に擦りながら、長い中の廊を渡り、四人はやっと冬の御殿へ辿り着いた。

冬の御殿は、他三殿と違い寝殿がなく、二つの対の屋が並ぶやや質素な作りながら、庭に残った雪や氷柱(つらら)が清く光り輝いている。北には倉が並んでおり、松林と菊の垣根を配している。

外の風の肌寒さに対して、冬の御殿の中はふわっと暖かかった。道中に火桶を見張る女童もいて、蘇芳よりも更に小さく見える彼女は大きな綿衣(わたぎぬ)(真綿を衣に入れた今でいう綿入れ)を被っていた。


「もう春なのに、今年はやけに寒いですね」

「夏も暑いし、本当どうなってるのかしら」

もう春になって二ヶ月目であるというのに、まだ寒い風が吹き込む庭を見て、若苗は息とともに愚痴を吐き出す。菫も雀斑(そばかす)の頬を霜焼けで赤く染めながらため息をつく。

四人は通された広間である女房を待っていた。萌黄の腕に抱きつき小さく座る蘇芳には、緊張からか寒さからか小さな震えが見えた。


「お待たせしました」

藤色の衣を着た童と共に、柳と白の衣裳を身につけた中年の女房がやってきた。

周りの女房が咄嗟に頭を下げるのに押されて、四人は頭を下げると、彼女は長く美しい髪を揺らして微笑んだ。

「二条様、姫様へ御仕事をお引き継ぎになられたとお聞きしました。これからはしっかりお体を休めてください。こちら、主人からの…」

「ええ、ありがとうございます。今は姫の指導に専念しますゆえ、また休むのは後になってしまいますがね」

菫は肩を強張らせながら、花散里からの文と贈り物を童へ渡す。女房、二条乳母にじょうのめのと、二条の御方おかたは後ろを振り返ると、そこには背丈のまだ小さな女房がやってきた。

姫は二条乳母の実子であり、母と同じく琵琶の名手として伝えられているという。

「ぁ、失礼致しております、二条姫君」

「ええ、よくいらっしゃいました、萌黄さん。…そちらは、」

水晶のように透き通った儚い声で、二条姫君は若苗と菫の方へ視線を向ける。若苗はその美しい顔つきにハッとして、少し前のめりに挨拶する。

「夏の御殿女房、若苗です。…あの、正月の」

「あの…あ、五節の君でいらっしゃいますか」

「五節の君、私のところの白雪がお世話になっておりました。また会いたいと言っておりましたので、帰り際にでも寄って行ってあげてください」

姫君は驚いた表情を浮かべ、二条乳母が白雪の話をし出すと少し出過ぎたかと恥ずかしそうに俯いた。人形のような白い肌に、赤く染まった頬がとても目立っていて、とても可愛らしかった。



主人の明石の御方は、寒さからか体調が良くないとのことからお見舞いは断念し、菫と萌黄は花散里のもとへ、若苗は蘇芳を連れて白雪の見舞いに行くことにした。

白雪は、孫廂の端に住まいを置いていた。特に隙間風が入ってきて、身震いするような寒さで、心配になった若苗は一声掛けるとその几帳をあげて中へ入った。

そこには、こほ、こほ、と小さく咳き込む白雪の姿があった。願いが叶えられなかったからか、前よりも随分(やつ)れていて、咳が悲しく聞こえた。

「白雪ちゃん…」

若苗は寂びしい彼女の背中へ声をかけた。

「あ…。若苗ちゃん…」

色素が薄く、うっすらと光を閉じ込めたような彼女の目には、今の若苗はどう映ったであろうか。若苗には、彼女の目に喜びと寂しさ、そして悔しさを感じた。彼女は大きな目を細めて、歯を見せるように笑ってみせた。

「久しぶり、話、聞いたよ」

「うん、久しぶり。体調、は大丈夫?」

「ううん、毎日悪くなってる。でもまだ私がこうやってここにいるから、私の役割は、早く治してお仕えをすることなの」

吐息混じりのその声は、度重なる咳からか掠れて痛々しかった。しかし、彼女の目はまだ死んではおらず、前を見据えていた。若苗はなんだか居た堪れなくて、数分話したのち「主人によろしく」とだけ残して、孫廂を後にした。


帰り道、またあの童が火桶を囲んでいた。その横には、若苗と同じくらいの年頃の女房が座っていて、楽しそうに談笑していた。

あれこそ、白雪の望む出仕なのだろうと、役割なのだろうと考えてしまった。

「私にできることはないか」と、あるかもわからない答えをずっと頭で巡らせて、白い息を吐いた。

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