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5. 御遣い

玉鬘の裳着の儀式は無事終わり、玉鬘も遂に立派な大人の女性となった。

儀式が終わったのは朝日が昇る頃であったので儀式が終わり次第、会場となっていた春の御殿から若苗と菫が若い女童を連れて夏の御殿へ帰ってきた。

玉鬘の世話と帰りまで同行した鴇式部や、藤大納言は結局朝帰りとなった。


「おはよーございまーす。…あれ?」

菫が(たつ)の刻の頃、昼御座へ火をつけた火鉢を持ちながら出仕したところ、そこには困って涙まで目に浮かべそうな勢いの蘇芳(すおう)ともう一人の若い女房、萌黄(もえぎ)がいた。蘇芳と萌黄は火鉢の付け方もわからなかったのであろうか、小さな火鉢を後ろに隠して、たくさんの衣を重ね着して防寒しているように見えた。

「どうしたの?」

「菫さま…! えっと、女房の方々が全然いらっしゃらなくて…」

「いない…いない…ああ!」

菫が二人の手元に目を落とすと、萌黄の手には配膳の盆が抱えられていた。その場には、脇息にもたれ掛かってそのまま寝ている花散里と、その横で鴇式部が倒れ込んで寝ている。

花散里などの主人たちへの配膳の指示を行っているのは藤大納言であり、萌黄によると彼女も西の対で同じように起きる気配もないのだそうだ。

主人や女房たちがまだ起きていないといえど、配膳は彼女らの一番の仕事でもあるし、無碍にできないのも事実だ。

「かといって起こすのも…。」

「そうだよね…」

菫は大きな丸い目をまるで糸かのように薄めて、文字通り頭を抱えた。

「でも、お食事は絶対だよね、うん」と深く考えるのをやめ、とりあえずと、まだ廂でぐうたら寝ていた若苗を引っ張り出してきて、配膳の準備をさせた。


菫は花散里を起こす前に、先に鴇の袖を軽く引き、穏便に起こそうと目論んでいた。

緊迫した雰囲気の中、織の擦れる音と寝息だけが昼御座に響く。菫は震える手でくいっと袖を引っ張ると鴇は目を閉じたまま、豪速の右ストレートを振り翳した。幸いその腕は誰かに当たることはなかったが、菫でさえも涙目を浮かべてしまった。

やっと起きた鴇の指示で、盆の準備を終わらせると、先ほどの風圧でうたた寝の花散里へ食べさせる。花散里は開かない目を開けることを諦め、目を瞑ったまま食事を終えた。


昼になり、やっと女房の顔ぶれも揃い始めた。

昼ごはんの配膳も終え、火鉢の横であったまって居た萌黄、蘇芳に御使いの指令が下された。行き先は、明石の御方が主人である「冬の御殿」である。

要件は、文を届けお返しをもらってくるということである。もちろん文だけでなく、夏の御殿から小さな贈り物も持っていく。

その指令を受け取った萌黄は、黙って昼寝をしていた若苗の袖を引っ張って、花散里へ顔で訴えた。

「あら、若苗にもいってほしいの?」

「…」

「いいのよ、ねえ。いってらっしゃい」

若苗は断ることはできないが、できるだけの抵抗を顔で表現していたのだが、花散里の微笑みでそれも全て水の泡に消えた。

「死なば諸共」と言わんばかりに、若苗は騒ぎ立てる菫の袖を引っ張って、冬の御殿への御使いに付き合わせることにした。

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