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3. 贈物

玉鬘の裳着のための数々の準備は結局時間ギリギリに終わり、やがて裳着の儀当日となった。


当日の十六日、会場となる六条院・春の御殿には、早い朝の頃彼女の祖母・大宮から目立たぬように使いが来て居た。

大宮からは、裳着を迎える孫娘に向けて贈り物の(くし)の箱を、急なことであったが素晴らしいものが送られてきた。

『手紙を私がお送りするのも不吉にならぬかと思い、遠慮するべきか考えたのですが、姫が大人に御成りになる初めのお祝いを言わせてもらうことだけは許していただきたかったのです。あなたの身の上の事情も私は聞いています、許していただければと思います』

大宮からの贈り物には、彼女からの文も同封されていた。

彼女は(ふる)える字で続ける。


『ふたかたに 言ひもてゆけば 玉櫛笥(たまくしげ) わがみはなれぬ かけごなりけり』

(源氏の君と頭中将、どちらの筋から申しても、私にとっては姫は孫であって、私とは離れることのできない深い縁なのです)


その文が届いた頃、ちょうど源氏も玉鬘の元にいて、式のいろいろな指揮をとっていたところであった。老尼の慄えた字で書かれた文を見ると、源氏はその文を何度も読み返した。

「昔風で立派なお手紙だけれど、お気の毒で…昔は字も上手な方だったのだけれど、年を経て老成していくものだな。字の慄えまでも悪くなってしまうのはなかなか痛々しいものだが。たくさんの玉櫛笥の縁語を揃えてお書きになったのだな」

源氏はそう言ってそっと笑みを浮かべた。


源氏の養女であり帝の正妻である秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)からも、お祝いの品が届いていた。中宮からは、中宮からは、白い裳、唐衣、その他の装束、髪上げの用具一式など極上なものが贈られてきて、それらには壺に唐の薫物の香りの深いものが添えられていた。


六条院の各主人たちからは、それぞれの好みで姫への衣裳や、女房用の櫛や扇までもが競争するように贈られ、どの品も優劣がつけられないほど美しかった。

この儀についての知らせは、末摘花や空蝉の住む東の院にも届いていたが、お祝いの数にも入っていないことだし野暮なことはするまいと聞き過ごした空蝉に対して、変に生真面目な末摘花は贈り物も周到に送りつけてきた。殊勝な心がけでは、ある。

「こちら、末摘花様から…」

「これは…」

苦い表情を浮かべる女房に差し出された木箱を源氏が受け取る。そのたいそう立派な箱に入っていたのは、青鈍の細長一襲、落栗色とかなんとか、昔の人が好んだ袷の袴一式、紫色が白っぽくなっている霰模様の小袿であった。

「なんというか、古風というか古臭いというか…」

源氏は苦笑を浮かべてそう口にすると、同封されていた文に目をやる。

『ご存じになるはずもない私ですからお恥ずかしいのですが、こうしたおめでたいことは傍観していられない気になりまして。つまらない物ですが女房にでもお与えください』

おっとりしたその文面に、光源氏は呆れたのか顔を赤く染めた。


「古い遺跡のような人ですよ、こんな方は隠れて暮らしている方が良いのだけれど、折々こうやって恥をかきに…。お返事はして差し上げよう、侮辱されたと感じられるかもしれないしね。親王が大事に育てられた嬢だから、軽く扱ってはお気の毒だからね」

と女房に言うのであった。女房が衣裳を取り出してみると、横には同じような趣旨の和歌があった。


『わが身こそ うらみられけれ 唐衣 君が袂たもとに 馴なれずと思へば』

(あなたのお側において頂けないとなると、なんと我が身が恨めしいことです)


字は昔もまずい人だったが、筆を強く握って紙へ押しつけるように、だけれど小さく書かれてあるのであった。この字を見て、源氏はおかしく思ったものの、この返事は忙しくても私がする、と笑って言う。

「不思議な、常人の思い寄らないようなことはなさらなくてもよろしいのですよ」

と少し反感を見せるようにして書く。


『からごろも また唐衣 唐衣 返す返すも 唐衣なる』

(唐衣、唐衣と、いつもいつもそうでらっしゃいますね)


「『唐衣』、あの人が好きな言葉なのです」

源氏は文を少しおどけて玉鬘に見せた。玉鬘の姫君は笑いながらも、「お気の毒ですよ。彼女を嘲るようで」と少々困った様子であった。こんな(たわむ)れも源氏はするのである。

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