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33. 厳冬

年も末になり、寒さもどんどん増していく。今年は特に冬の寒さが厳しく、毎日と言っても良いほど高頻度で雪が降りしきっている。

夏の御殿ではここ最近、格子をずっと下ろして、毎朝童が火桶や火鉢に火を起こして御殿をできるだけ暖かくするという当番を請け負っている。


「雪だ!雪だ!!」

そんな師走のある日の朝、夏の御殿の童・蘇芳(すおう)がそう騒いで渡殿を走り回っていた。

「朝からどうしたの?」

「雪がね、いっぱいつもってるの!」

若苗と常陸命婦が朝ごはんの配膳を終えて片付けをしていると、蘇芳がはしゃいで飛びついてきた。彼女が外の方へ指差す方向には、銀世界が如く、雪が大量に積もった庭があった。

「蘇芳、朝に騒ぎ立てるのは控えなさい、姫様はまだ寝ておいでなのよ」

「うぅ…すみません」

常陸命婦は蘇芳の目線に合わせてそう伝えると、その表情を見た蘇芳は肩を(すく)めて呟き、丁寧に仕立てられた赤色の織物の袖山を寂しそうに握る。

「でも、確かにすごい量の雪が積もってるわね。蘇芳、遊んでくる?」

常陸命婦は反省して少しショックを受けている蘇芳に、笑顔を向けてそういうと、蘇芳はすぐさま目を見開いて「行きます!」と小躍りして庭へ走っていった。

蘇芳は近くにいた童や従者を連れて庭へ向かっていけば、一緒に雪を投げつけあったり、雪を丸めたりしてはしゃいでいるのが見えた。


「命婦さまって、女童の子達にすごく優しいですよね。私には厳しいのに」

若苗は庭の童たちを見て微笑む命婦に話しかける。すると命婦は先ほどの暖かい目が嘘のように冷たい目線を若苗に向ける。

「あなたはもう大人でしょ」

裳着(もぎ)はまだですよ」

命婦は一つ溜息を吐けば、もう一度彼女らの方へ目線を戻す。

「やっぱり娘と同じような世代だとそんな態度になっちゃうものよ」

「…まあ、そうですね」

命婦は黒木賊(くろとくさ)(かさね)の襟を整え、黙って彼女らを見つめると、冬の空に反した清々しい微笑みで去って行こうとする。

「ん?」

「どうしたの」

「娘さんいらっしゃるんですか?」

「ええ、あの蘇芳よ」

「はあ?」

突然の告白に、若苗は一瞬思考停止に陥る。なぜそんな重要なことを早く言わない。この二度目の冬を迎えるまで、彼女に娘がいることも、娘が夏の御殿で仕えていることだって一度も聞いたことがなかった。

「なんで言わなかったんですか!」

「別に、言う必要ないと思ってたから…」

その命婦の態度に若苗は「こいつは…」と長嘆息を漏らす。


「あら、命婦さま、五節の君」

蘇芳と同じくらいに騒ぎ立てていた若苗の声を聞いて、様子を見に来た藤大納言が顔を赤くして現れた。納言は秘色の襲を幾枚も重ね着て、細い体が面白く膨れている。

「納言、頬が赤いけれど大丈夫?」

「ああ、これですか…。姫さまが寝てらっしゃるから、火桶と姫さまを見守ってたのですよ」

藤大納言はそう言って、少し気恥ずかしそうにさらに赤らめた頬を隠す。


「あの子達、外ではしゃいじゃって…」と藤大納言は話題を逸らすように、庭の方に目線を向ける。すると、若苗は悪戯っぽい笑顔を浮かべて納言の手を取る。

「納言さん、遊びたいんですか?」

「いや…??私はちゃんとした大人ですからね?」

「よし、じゃあ一緒に行きましょう!」

「え!?」

若苗は藤大納言の手を強く掴んで庭へ走り出した。納言は走りながらも「いいです、私はいいです!」と言っていたが、その顔には少しの期待が映る。


「若苗さま!納言さま!」

頭何個分も違うほどの小さな娘たちに混じって、若苗と藤大納言も雪に塗れる。その様子を、花散里の元へ訪れようとしていた光源氏・青柳が見ていた。

「あ、あれ、納言ちゃんと若苗ちゃんですか?」

「ああ、藤大納言と五節の君か。…ふふ、楽しそうだな」

「平和ですね」

「ああ、いいことだ」

光源氏は羨ましそうに安心したように笑顔を浮かべる。青柳もその横で混ざりに行きたそうに目を潤ませる。


この年、五節の舞を通してまた一つ成長した若苗を筆頭に、心の大きな転換点を迎えた、六条院の女房たちやその主人たち。この次の年も、また新たな試練が訪れるだろう。だが、彼らはきっと乗り越えていける。

彼らには、そんなカリスマ性やこれまで勝利してきた実績があるのだから。


去年の宴に向けた忙しい年末とはまた違って、主人・女房ともども絶えず笑顔を浮かべる年末となった。

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