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31. 大宮

密やかに大宮邸へ到着した源氏は、大きく息を吸ってその戸を叩いた。静かにすり足でこちらへやってきて、すぐに戸を開けたのは、大宮の身の回りの世話や手伝いを行っている北侍従(きたのじじゅう)であった。

「これはこれは源氏の君、よくおいでになりました」

「侍従、久しいな」

今年で齢三十になる北侍従は、大宮から多くの楽器・教えを学んだ者の一人である。侍従は源氏の顔を見るなり嬉しそうな顔を浮かべて、すぐさまに彼を屋敷に上げて大宮の元へ向かわせた。


「おやまあ、源氏の君がいらっしゃるとは。またお美しくなられて」

脇息にもたれ掛かりそう言う大宮の顔には、久々の源氏の来訪に喜ぶ気持ちがあらわれていた。彼女は弱々しくもよくお話になった。

「そう悪くはないのですね、夕霧がよく心配して話すものだから、どういう風にいらっしゃるのかと」

「幾月かの間は調子が悪いのも打ち合ってやっていたのですが…この年に入ってから、なんだかこの病は重い気がしてきまして、このまま源氏の君をお目にかかれないままになってしまうのか心細かったのです。ですがこの感激で少し寿命も伸びたような気がしますよ」

大宮はゆっくりとその感謝を言葉に起こす。その言葉を、源氏も一つ一つ頷きながら受け止めていた。


「周りに取り残されているのは他から見ても面白くないことでしょうから、先を急ぐ気にもなったのですが、夕霧が凄く親切にしてくれて…。心配してくれているのを見て、また引き止められている形でございますよ」

自然に涙が溢れている大宮の頭には、愛する息子や娘、そして夜昼ずっと看病してくれている孫が過ぎっていた。


「頭中将は、毎日お見舞いにこられるでしょうから、そのついでに話せればどれだけ嬉しいことか」

今昔のことの話に花咲くなか、源氏は旧友・頭中将についてこう言う。夕霧と雲居雁のことかと早合点した大宮は、

「あの子は仕事が忙しいのか、孝心が薄いのか、あまり見舞いにはきませんよ。おっしゃりたい事とはなんのことでしょうか」

と寂しそうに言う。大宮は、夕霧の頑固さもなかなかなことだと微笑む。


「実は、頭中将が世話すべき人で思い違いがありまして、思いがけずでしたので私が引き取っていたのです。その時は間違いだとわからず、これまでもそれほど世話をせず過ごしてきたのです」

源氏はその流れで玉鬘について軽く触れることにした。

「年齢などを聞いてみると、あの頭中将が引き取るべき姫であることがわかり、どんな状況だったか、はっきり事情を申し上げたいのです。そして、はっきり申し上げたいと思い文を出したのですが、宮の病を原因にお断りされたのですが、今こうやって気分もいいようですので、どうか頭中将へそうお伝えください」

「一体どうしてそのようなことが起こったのでしょう。中将の方も申し出たものを次々と引き取っているはずなのに」

話を聞いた大宮は、少し不思議そうな顔で返す。それに対して、源氏は「身分の低いものによくあるごたごたですので。事情を明かしてみても、世間に好色が広まるでしょうから、人に漏らさぬように」と口止めをした。



頭中将の元にも、光源氏が大宮の元へ見舞いに行っているという噂は届いていた。

「あの人手が少ない屋敷にあの方がいかれては、どう対応しているのか」と少し驚いて、自分が出向くと大ごとになりすぎるからと、息子たちや然るべき殿上人などを差し向けようとしていた。

そんな時に、「六条の大臣が来ておられて、貴方に話したいことがある」と言う大宮からの文が届いた。

「夕霧と雲居雁のことか…?」

突然のその文に、頭中将はあれこれ考えてみるが、二人を待たせているのは恐れ多いことだと早急に準備をして、己の屋敷を飛び出した。

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