30. 葛藤
「…どうしたものか」
行幸の次の朝、光源氏は欠伸をしながら前へ倒れ込んだ。そこへ側近の源氏の従者・惟光がやってきて、「姫からのご返事ですよ」と返りの文を差し出した。
「殿は、姫を宮仕えへ行かせようとさせてらっしゃるのですか?」
「そちらの方が良いことなのではないかと思っているのだよ」
源氏はひとまず起き上がって文をみようとすると、そこに紫の上と大和も入ってくる。
「姫からですか?」
「源氏さま、またそんなことして」
源氏の隣に座った紫の上は、文を覗き込んで返事を見てみる。大和も、いつも通りの源氏を見て小さくため息をつくと、同業で苦労人の惟光に軽く頭を下げ、横に座った。
「うちきらし 朝曇りせし みゆきには さやかに空の 光やは見し」
(雪がちらついていてはっきりと帝の御顔は見ることは出来ませんでしたゆえ、宮仕えは決められません)
宮仕えについての対して、玉鬘は歌で返した。源氏は二人でその歌を読むと、紫の上に、彼女を尚侍(宮に仕える最高階級の女官)として働かせないか考えていると言うことを伝える。
「中宮秋好さまが私の養女なのだし、弘徽殿女御さまは頭中将の娘だから、姫を妃としては出せないけれど尚侍なあと。女子が帝の顔を見たらお仕えする気になると思っていたのだけれど」
「貴方、帝がどれだけお美しくとも恋愛的な御奉公を考えるのは、姫に失礼なのではなくて?」
頷きながら聞いていた紫の上だったが、頭を傾けながら答えた。
「いいや、そんなこともない。貴女も帝を拝見すれば同じことを考えるよ」
源氏は笑いながらそう答えると、玉鬘へまた返事を書いた。
「あかねさす 光は空に 曇らぬを などてみゆきを 目をきらしけん」
(帝の美しさは光り輝いているというのに何故しっかり見なかったのでしょうか)
「ぜひご決心なさるように」
源氏は悩み疲れた顔を見せながら、また惟光に文を届けさせた。それと同時に、紫の上もその場を去っていった。大和は二人に頭を下げると、もう一度座り直す。
「苦難が多くいらっしゃいますね」
文を返してからも大きなため息を溢す源氏に対して、大和は微笑む。
「玉鬘さまの裳着の件もありますからね、父君には断られてしまったのでしょう?」
「ああ、それもどうしたことか」
彼のだらけた様子に呆れて笑いながら言う大和の顔を横目で見ながら、源氏は無気力な声で呟く。
「断られてしまっては私にはどうしようもありませんね、でも…断られたのは大宮さまの病が理由でしたよね」
「そうだったな」
源氏は天井を見ながら思考を巡らす。彼の息子である夕霧も最近ずっと大宮の看病に付きっきりであるし、このまま大宮が玉鬘が自身の孫であることを知らずに亡くなるのもお可哀想な事である。
思い悩んだ結果、彼は今日中に自身の義母・大宮へ訪ねることにした。




