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23. 親心

「そんな衣装でいいんですか?」

新嘗祭の晩餐会である豊明節会は、祭の翌日・辰の日、すなわち今夜行われる。


「せっかく娘さんの晴れ舞台なのですよ」

「嫌味か?」

「いえいえ」

現在式部大丞として都につとめる、若苗の父・壬生文経は娘の主人からの招待もあり、この晩餐会に参加することになった。

「金の余裕がないんだよ」

「そうですか?…やっぱり先輩、金遣いが」

「違えよ」

金がないと言うとよく金遣いが荒いと言われるが、そうじゃない。酒に関しては、もう妻のことについて気にしないようになった今では殆ど飲むことも無くなった。

妻を諦めたと言っては嘘になるが。


「ここですね」

光源氏と花散里の気遣いで、文経と共に、彼の後輩二人もこの会へ招待された。二人は式部大録・少録として文経の下で共に働いている。

後輩の一人、千草(ちぐさ)大録は非常に聡明で礼儀正しいのだが、もう一人の白妙(しろたえ)少録は少し抜けてて生意気である。

「そんな後ろでいいんですか?」

「いいだろ別にー」

白妙はやけに文経に構って来る。それも、都に来るまでの話をしてからだ。別に同情を求めて話したわけではなかったのだが…。


「にしても、十六で舞姫って結構珍しいですよね」

千草は文経の右横に座ってからしばらく黙っていたが、唐突にそう呟いた。すると、左の白妙が無駄に大きな声で言う。

「お、気になってるのか?年も近いからってか?」

「ちげーよ」

千草は白妙の煽りを軽くあしらうと、白妙は鼻を鳴らして座り直した。

千草は十八、白妙は十七と、文経に比べれば圧倒的に若い。それに、やはりなんだか行動も若々しい。

今になっては長女よりも年下である者たちと一緒に働いていると言うことを改めて感じる。



その瞬間、舞台から歌声が聞こえ始め、それまで大きく響いていた話し声がぱったりと止んだ。

音楽に合わせて四人の舞姫が歩みを進めてくるのが見える。

文経は娘の姿を一瞬目に捉えたが、息を吐いて目線を外して歌の方をチラリと見る。


そして四人が持ち場に着くと、ついに舞が始まる。

流石に見ないのはまずいかと目線を移すと、袖を振る己の娘が、かつてのあの人の姿と重なった。


「ああ、似てるな」

文経は無意識にそう呟く。

娘は、四人の中でも頭といえるほど、皆を率いて舞っていた。その容姿、所作、何をとっても四人の中でも群を抜いていた。


そして一番に、彼女の舞う姿は、彼女の母・あやめと瓜二つだった。なんて親バカなことだ、彼女の姿を見た瞬間に綺麗だと感じてしまったのだった。

文経は舞の間、ずっと愛娘に目を奪われていた。


舞の終わり、彼は大きな寂しさを感じた。

愛した妻との可愛い娘が、自分の管轄外に行ってしまったことを自覚してしまった。

そして、この才能を自分の手でこれまで潰してしまっていたと言うことが申し訳なくて、なんだか居た堪れず席を立った。


「もうお出になられるんですか?」

「ああ」

席を立った文経を見て、後輩二人も立ち上がり追いかけながら呼びかける。

文経は立ち止まって振り返ると、その拍子に娘の晴れ姿を横見する。後輩が追いついてくるのを見ると、後ろにつけてまた歩き出した。

「どうでした?」

「良かったよ」

「それだけですか?折角の晴れ舞台ですのに」


早歩きに会場を去る文経の顔には、穏やかな表情が浮かんでいた。

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