20. 青柳
「これとこれ、よろしくね」
明くる日の曇天の朝、花散里から、花を添えた文を受け取った若苗は、春の御殿の紫の上と女房たちへ文を届けに。そして菫は単独、冬の御殿へ様子を伺いに行くことになった。
「命婦さんじゃダメなんですかー?」
「口答えしないのー、はーいいってらっしゃーい」
若苗と菫が花散里へ不満げに言うと、側近として残る常陸命婦と鴇式部は、呆れたように二人の背中を押して出て行かせた。
若苗は出発してしばらく、春の御殿へ到着した。
これまでずっと夏の御殿へ仕えっきりだった若苗にとって、そこは異空間のような場所であった。建物を行き交う女房の数や女童の数は、夏の御殿と比べ物にならないものである。
「用事があるのは、青柳さん、青柳さん…あ、すいません」
若苗はそう復唱しながら屋敷内を探し回っていると、振り返った拍子に背丈の低い誰かとぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい!ほら、ろもちゃんが謝るのよ!」
横にいた青い装束を着た女房がそう言う。それを聞いて若苗は下を見ると、そこにはあの羽衣がいた。
「あ!」
二人はお互いの顔を見た瞬間、そう声をあげた。その声を聞いた先の女房が駆け寄ってくると、二人を交互に見ながら「知り合い?」と尋ねる。
すると羽衣は「舞姫の人…」とだけ答え、すぐ女房の後ろに隠れてしまった。
女房は羽衣と付き合いが長いのか、わかっていたように移動すれば、朗らかに若苗に話しかける。
「ここの方じゃないですよね、目的はなんでしょうか!」
「青柳さんという女房の方を探していて」
若苗がそういうと、女房はゼロ距離まで顔を近づけてきた。つい後退りすると、彼女は謝罪したのち大きな声でこう言った。
「青柳、私です!!」
まさかであったが、時間を取りすぎずに目的を達成できたため満足していると、文を受け取った青柳は若苗に質問を投げかけた。
「花散里様のところにお仕えなさってるの?」
「あ…、はい」
「私も昔お仕えしてたのよ!夏の御殿なら…菫ちゃんとか同時期にお仕えし始めてたしー」
青柳は指を折りながらこれまでの経歴を、高らかに(長々と)語り続けていた。
彼女が話終わる頃には、空は青く澄んで太陽も真上にのぼり、若苗も羽衣もいなくなっていた。
菫は冬の御殿を訪れ、見知らぬ女房たちにおもてなしを受けまくり、過保護にそれを受けた恥ずかしさで、若苗よりも早く、すぐ帰ってきたのだと言う。




