13. 野分
暑い夏が過ぎ、六条院に秋が顔を出し始めた。
様々な場所に秋の草木が咲き乱れ、紅葉が色づき始めて、秋の御殿は素晴らしい景色が広がっている。
ちょうど秋好中宮も里帰りしていたので、光源氏は管弦でも嗜もうと思っていた。しかし、今月が中宮の亡き父の命日にあたると聞き、控えることにしたのだった。
暑い日も少しずつ減ってくると、台風が多くなってくる。
せっかく咲いた花も散ってしまうのではないかと心配が募る中、六条院も台風に襲われる。
どの御殿にも強い風が吹き、夜通し強い雨や雷の音が鳴り響く。
夏の御殿では、若い下女や女童をできるだけ建物の中心付近で寝かせつつ、外では物が飛んでいかないために女房や侍従たちが見守りをしていた。
強い台風の夜が明け、何もなかったかのように清々しい朝がやってきた。
夏の御殿の主人の一人・夕霧は、六条院が台風に襲われたと言う話を聞き、見舞いにやってきた。
夕霧は格子を上げて庭の様子を見ていた。すると、春の御殿の女主人・紫の上は、付きの女房とともに軒先まで出てきて、風で広く荒らされてしまった庭を眺めているのが見えた。
「思ったより荒れてしまったわね」
「はい、せっかく綺麗な花がたくさん咲いていたのに…」
春の御殿でも強い風が吹いたようで、元気に生えていた植物たちも薙ぎ倒されてしまっていた。
「去年はこれほど酷くなかったのだけれど」
紫の上は残念そうにそう呟く。
夕霧は彼女の声こそ聞こえなかったが、紫の上の顔をはっきりと見てしまった。春の霞の中で咲き誇る樺桜のような、可憐ながらも強かな女性だった。
夕霧はこれまで、源氏の思惑で紫の上の顔は見ないようにされていた。何のためかは知らなかったが、それが夕霧が過ちを起こさないためだと納得してしまうほどで。
「夕霧、格子を降ろして仕舞いなさい。外から丸見えだよ」
そのとき、光源氏が戻ってきたようで、夕霧にそう話しかけた。
夕霧はさも今来たかのように咳払いをして、格子を下げて誤魔化した。
「父上、僕はこれから大宮さまの見舞いへ行って参ります」
「ああ、行ってきなさい」
大宮邸に向かっている間も、夕霧は紫の上が頭から離れなかった。
いつでも恋しく思っていた雲居の雁もそこそこに、その顔がずっと脳裏に焼きつく。
それは大宮を見舞ってからも変わらず、自分があるまじき間違いを犯してしまうのではないかとも思えるほどなのであった。




