11. 篝火
小君に文を届けさせた源氏は、一つ溜息をついた。
源氏は、近江が実の子だと分かった途端に深く考えず引き取ったにも関わらず、自分の思いとそぐわないとわかると手放そうとする、その頭中将の竹を割ったような性格も良し悪しだと考えていた。
源氏に近江の噂が届いていたのと同じく、玉鬘にもその噂は届いていた。
もし実の父である頭中将に引き取られて、同じような扱いを受けていたかもしれないと思うと、自分は源氏に引き取られて良かったと感じるようになっていた。
彼の奇妙な恋心は困るが、最近はあまり行きすぎた真似をしないようになったため、近頃は特に安心して暮らすことができるようになった。
「やあ、寒くなってきたね」
秋が近づいてきてもなお、源氏は玉鬘をよく訪ねていた。
親子のような恋人のような、中途半端な関係を続けている中、琴の稽古が終わったのちに源氏はある提案をする。
「琴を枕にして寝よう」
「琴を…ですか?」
少々困惑はあったものの、そのまま眠りにつき、やがて夜が更ける頃になり源氏が帰ろうすると、庭の消えかけの篝火が目に入った。
源氏は、当番で近くで見守りを行っていた菫に、篝火の火を強めさせると、しみじみと歌を詠む。
「篝火に たちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬ 炎なりけれ」
(篝火に寄り添う煙は、永遠に消えない私の恋心なのですよ)
久々のストレートな恋歌に、玉鬘は少し動揺するも、気を落ち着けて返歌を詠む。
「行方なき 空に消ちてよ篝火の たよりにたぐふ 煙とならば」
(篝火と立ち上がるのだと仰るならば、果てしないこの空に消してくださいませ)
あっさりとかわされた恋情であったが、その炎は源氏の心の底を強く焦がしつけていたのであった。
空もだんだんと明るくなってくると、東の棟から何やら合奏の音がしてきた。
その音色が夕霧やその友人たちのものだと察した源氏は、そちらにも顔を出すことにした。
「父上!」
右手を振りながら入ってきた父に、不意をつかれた夕霧は声を上げた。
「父上も、ぜひ一緒に演奏しましょう」
「ああ、せっかく向こうに玉鬘もいることだしね」
源氏は笑ってそういうと、空きのあった琴に手をかければ、今にも歌おうとする柏木の方に目を寄せた。柏木は思い人である玉鬘が近くにいるからなのか、緊張したのか歌うのを躊躇してしまう。
その心中を察した源氏は、柏木に琴を譲ることにした。
柏木は父の頭中将と同じく琴の名手であるが、こちらもやはり緊張からか、控えめに弦を爪弾くだけであり、その様子を源氏は微笑ましく眺めているのであった。




