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10. 近江

同じく夏、頭中将邸。

頭中将は最近引き取った姫の評判に思い悩んでいた。


「父上、どうかされました?」

光源氏の六条院で友人と良い時間を過ごし、楽しげな雰囲気で帰ってきた息子・柏木は不貞腐れた様子の父に話しかけた。

「近江のことですか?」

隣にいたその弟・紅梅も続けて質問をする。すると頭中将は、呻きながら体を反らせて答えた。

「そうだよ、全くどうすれば良いものか」


三人は顔を顰めさせた。実は、近江の評判の姫君がすこぶるよくない。

しかも今日の朝、小君が光源氏から酷評の一言を受け取ってきた。


「近江にいた娘を引き取ったそうだね、でもあまり評判がよくないと聞いたよ」


頭中将は光源氏から届いた長い文の中、この一言で読むのをやめた。そして開き直ったように呟く。

「ああ、確かに俺は見知らぬ田舎の姫を引き取ったさ。いつも他人のことを言わない源氏が、自分の家のことになるとすぐ反応するなんて、普通の人として扱われている気分でなんとも光栄なことだ」



二人の息子も不安を顔に浮かべるなか、頭中将は文字通り頭を抱えた。

光源氏が見つけ出して引き取った姫は評判がとても良いと言うのに、なぜ(こどごと)く自身の子女たちはうまくいかないのだろうか。

雲居の雁の件も、源氏や夕霧が誠心誠意頭を下げてくれるなら…いやでも今の冠位では彼女に見劣りするか…。と悶々としていた。


息子は去っていき、どうにかしようと思い立った頭中将は、雲居の雁の部屋を訪ねることにした。

雲居の雁の部屋の戸を開けると、彼女は呑気に大の字に昼寝中であった。

頭中将が近くに置いてあった扇を持ち上げ、顔の近くで仰ぐと、少し不機嫌な様子で起き上がった。

「良い縁組(えんぐみ)も考えているのだから、下手な真似はしないように」

軽く説教をする父に対して、彼女は二度寝を始めようとするから、また中将が起こす羽目になる。


彼女には祖母である大宮から文が届いて来ていた。しかし、彼女は父の説教を聞いて、やはり気後れして夕霧の元など訪ねられることも難しい、とこちらも悩んでいた。



その後、近江の処遇を考えていた頭中将は、ある案を思いついていた。

「姉妹である弘徽殿女御(こきでんのにょうご)のもとへ送り、そこの女房に再教育してもらう」

田舎にまた送りつけると問題になるだろうし、でもこのまま置いておくとこちらの評判もどんどん下がってしまう。それならこの案が一番合理的である。


女房を通して女御に了承を取り付けてから、その足で近江の元へ向かった。戸を開けると、彼女は若女房と共に双六(すごろく)をしてキャッキャと盛り上がっていたところであった。


近江は見た目は面影もありそれほど悪くないと言うのに、早口なのが玉に瑕。

否、かなり傷である。

彼女曰く、お産の時に祈祷をした僧侶がよくなかったために、彼女は早口に生まれてしまったという。


いちいち説明が拙いため、頭中将は苦笑するしかなかった。

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