9. 常夏
夏になり蝉の声が六条院中に響き渡るなか、源氏を筆頭に夕霧・柏木など親しい公卿が、夏の御殿の水辺で涼んでいた。
「最近聞いたのだが」
源氏は、水辺で屈む柏木とその弟・紅梅に尋ねる。
「頭中将が、近江国で姫を見つけ出して引き取ったのだろう?」
「ええ、今年の春頃に娘だと名乗り出られたので、兄上に調べてもらって、今屋敷に置いているんです」
若いころ遊び回った頭中将らしい結果だと笑う源氏の目に、笑みを浮かべつつも悲しげな顔をする夕霧が映る。
彼はずっと、幼馴染であり、同じく頭中将の娘である雲居の雁に両片思いをしている。
お互い、普通の家庭であればすぐ結ばれるのだろうが、不運なことに、現在源氏家と頭中将家は権力争いで対立中だ。
今は耐えの姿勢で頭中将に向き合うことにしているのである。
「たまには他の落ち葉でも拾って見れば良いものを」
源氏は枯れて落ちた茶色の葉を目を細めて眺めながら、冗談めかしく言う。それに対して、夕霧は庭に青々と茂る木を見ながら答えた。
「まだですよ、僕はあの人だけが特別なのですから」
その声を聞いた源氏は、自分とは違ってマメな男になったと感心する。
良い意味で自分に似ず、真面目な男となった夕霧。
才芸豊かで、将来が有望視される柏木。
明るく利発的で、爽やかな美声を持つ紅梅。
実の子もそうだが、子供ほどに大切にしていた者たちも立派になれるよう願った。
ふとする間に日は暮れ始め、だんだん暗くなってくる。源氏は庭にそのまま彼らを残し、奥に入った。
源氏は西の対の玉鬘を訪れ、御簾を少し上げさせて品定めに興じさせた。
「夕霧と雲居の雁の関係もあって、頭中将がいつまで経ってもへそ曲がりなままなんだよ」
源氏は玉鬘に笑ってそう言いかけた。もっとも、彼女は頭中将の娘であり、まだそんなことでへそ曲がりになっているのであれば、実の父に会えるのはまだまだ先であると思い煩う。
その後もよく玉鬘を訪ねていた源氏であったが、この中途半端な恋心を断ち切るにはどうしたものかと悩んでいた。
それ相応の誰かと早く結ばれてしまうのが一番なのではと思ってもみた。が、蛍宮や髭黒大将くらいしか思い浮かばない。しかし、髭黒大将は嫉妬深く霊憑の正妻がいる。
どう転んでも不幸な目にあう未来が見えてしまう…。光源氏はどうかできないか頭を抱えていた。
ちなみに若苗にとって最高すぎるこのイベントであったが、彼女は春の御殿にお使いに行っていたため、見れなかったという。
それに対して不貞腐れる若苗を宥めるのは、いつも通り花散里と菫であった。




