8. 絵巻
長梅雨の空、六条院では女君や女房たちが絵巻を床に広げれば、物語評論をし合っていて、特に春の御殿では、よく盛り上がった。
「私たちも絵巻評論やってみましょうよ」
その流行りに乗って、若苗は花散里との雑談中にそう提案した。花散里は少し驚いた顔をしたが、すぐ頷いて答える。
「でも、絵巻なんかほとんど持っていないわよ。源氏の君や紫さまなら持っているでしょうけれど」
「女房で持っているとすれば春の御殿の大和さまとか、秋の玉緒さまでしょうね」
鴇も難しい顔をすると、頭を抱える。
若苗は、自身の交友関係の狭さに我ながら不満を感じながら、諦めかけたその時であった。
「私、持ってます」
玉鬘の世話がひと段落つき、寝殿へ戻って来ていた藤大納言が小さく挙手しながらそういった。
「もちろん紫の上さまとかとは格が違いますが、一応私の夫がそういうの好きなので」
彼女はそういうと、「取ってきます」と言葉を残して取りに行ってしまった。
花散里によれば、藤大納言の夫は有名な風流家で、絵巻や和歌などを特に好むそうだ。元々は花散里の元で仕えていた従者で、同じく花散里の元に仕えていた同年代の彼女に一目惚れし、告白という何とも幸せな恋愛結婚だそう。
その話を聞いていると、藤大納言が二本の絵巻を持って帰ってきた。
広げてみるとそれはそれは美しい絵巻で、幼いながらも美貌を持つ少女を、垣根から英俊な男性が覗いている絵であった。
まるで、光源氏と紫の上との馴れ初めのような。
彼女たちはその後も二つの絵巻について評論を行い、楽しんでいた。
一方、春の御殿では紫の上が明石の姫君に絵物語を見せていた。すると、明石の姫君がだんだんとうとうととしだし、ついには紫の上の右手で昼寝をし始めてしまった。
そこへ光源氏が現れ、その様子を見て微笑む。そして紫の上が持っていた絵物語を見て言う。
「あまりに恋愛演出の多い物語だったり、継母が意地悪だったりする物語は、姫の成長にあまりよくないんじゃないんかな」
そういう光源氏を見て、紫の上は光源氏と玉鬘との関係を気にしながら、「それもそうですね」と受け流した。
光源氏は、夕霧が己の過去の罪と同じようなことをさせまいと、紫の上と夕霧を近づけないようにしていた。しかし、明石の姫君とは兄妹なのだからと御簾の中にも入ることを許していた。
二人はよく一緒に雛遊びをして遊んでいた。
その中で、夕霧は楽しそうに遊ぶ妹の姿を見ると、つい、昔一緒に遊んだ初恋の相手・雲居の雁のことを思い出してしまい、心を沈める日々を過ごす。
他の女性に話しかけるようなことはあっても、結局恋仲にはならない。彼の心の端にはいつも雲居の雁がいる。
彼女の父である頭中将に頼み込めば、交際を許してもらえるかもしれない。
しかし、向こうが折れてくれるまで我慢することを心に決めた夕霧は、たまにする彼女との文を楽しみに過ごしていたのであった。




