表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/62

7. 騎射

五月五日、端午(たんご)の節句になった。

今日は夏の御殿で弓技を競う催しが行われる。


夏の御殿の主人の一人で、光源氏の長男・夕霧(ゆうぎり)は、光源氏とともにこの騎射の宴に参加した。

女主人・花散里もこの催しを兼ねてから楽しみにしていた。


夏の御殿でこれまで賑やかな行事(イベント)が行われることはなかった。行事があるとすれば、大抵は春の御殿である。珍しく忙しい日に、夏の御殿の女房たちはドタバタとしていた。



「追加で好貴公子(イケメン)は来ないのですか」

「そういうこと言わないの」

忙しい女房が多い中、若苗と鴇は退屈であった。二人は花散里のお付きが仕事であり、あまり動きのない花散里の相手となればなかなかすることはない。


一方、一番忙しいのは光源氏の管理係であろうか。

そもそも彼女たちは多くが春の御殿の女房だ。光源氏が動くたびに着いて回ったり、報告を行ったりと、色々多忙である。

社交的で動きの多い主人は大変だろうな、と若苗は勝手に同情していた。



催しが行われる庭からは、時折歓声が聞こえてくる。

三人が声の方を見ると、夕霧が的の中心を美しく貫いていたのが見えた。

「夕霧様もいいですよね。はあ、雲居雁(くもいのかり)様が羨ましい」

若苗は彼を見て小さく溢す。すると花散里がそれを制すように言う。

「彼の恋を応援してあげなさいな」


夕霧には今心惹かれている姫がいる。思春期なのだから当たり前だ。

恋するのは齢十七で従姉弟(いとこ)の、雲居雁(くもいのかり)

おっとりとして恥ずかしがり屋の愛らしい娘だ。


夕霧は三人がいる方向を向けば、ガッツポーズをしてはニカっと笑う。

両親譲りの美しい容貌から不意に飛び出す笑顔は、イケメンヲタクである若苗は当然として、鴇もドキッとするほどの火力であった。



結局、追加の好貴公子は来ず、騎射の宴は終わった。


宴の後、光源氏は腰掛けて夕陽を眺めていた。そこに殿の方から声がかかる。

「宴はどうでしたか」

光源氏が振り返ると、そこには花散里の姿があった。光源氏はまた空を見ると、嬉しそうに答える。

「楽しかったよ、君はどうだった? ここで行事などほとんどなかっただろう」

「そうですね、賑やかなこの場所は新鮮でした」

花散里は、光源氏の斜め後ろに座った。楽しそうな顔をする花散里を見て、光源氏は突拍子もないことを言う。


「今日はここにいてもいいかい」

花散里は、驚いた顔で見つめる。

「…ええ、それなら泊まって行ってください。でも寝床は別ね、私たちそんな若くないですもの」

目を閉じて逆の方に歩いていきながら、そう答える。


光源氏は、彼女の多くを望まず、何事も控えめな彼女の余裕に惹かれ、また癒されていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ