7. 騎射
五月五日、端午の節句になった。
今日は夏の御殿で弓技を競う催しが行われる。
夏の御殿の主人の一人で、光源氏の長男・夕霧は、光源氏とともにこの騎射の宴に参加した。
女主人・花散里もこの催しを兼ねてから楽しみにしていた。
夏の御殿でこれまで賑やかな行事が行われることはなかった。行事があるとすれば、大抵は春の御殿である。珍しく忙しい日に、夏の御殿の女房たちはドタバタとしていた。
「追加で好貴公子は来ないのですか」
「そういうこと言わないの」
忙しい女房が多い中、若苗と鴇は退屈であった。二人は花散里のお付きが仕事であり、あまり動きのない花散里の相手となればなかなかすることはない。
一方、一番忙しいのは光源氏の管理係であろうか。
そもそも彼女たちは多くが春の御殿の女房だ。光源氏が動くたびに着いて回ったり、報告を行ったりと、色々多忙である。
社交的で動きの多い主人は大変だろうな、と若苗は勝手に同情していた。
催しが行われる庭からは、時折歓声が聞こえてくる。
三人が声の方を見ると、夕霧が的の中心を美しく貫いていたのが見えた。
「夕霧様もいいですよね。はあ、雲居雁様が羨ましい」
若苗は彼を見て小さく溢す。すると花散里がそれを制すように言う。
「彼の恋を応援してあげなさいな」
夕霧には今心惹かれている姫がいる。思春期なのだから当たり前だ。
恋するのは齢十七で従姉弟の、雲居雁。
おっとりとして恥ずかしがり屋の愛らしい娘だ。
夕霧は三人がいる方向を向けば、ガッツポーズをしてはニカっと笑う。
両親譲りの美しい容貌から不意に飛び出す笑顔は、イケメンヲタクである若苗は当然として、鴇もドキッとするほどの火力であった。
結局、追加の好貴公子は来ず、騎射の宴は終わった。
宴の後、光源氏は腰掛けて夕陽を眺めていた。そこに殿の方から声がかかる。
「宴はどうでしたか」
光源氏が振り返ると、そこには花散里の姿があった。光源氏はまた空を見ると、嬉しそうに答える。
「楽しかったよ、君はどうだった? ここで行事などほとんどなかっただろう」
「そうですね、賑やかなこの場所は新鮮でした」
花散里は、光源氏の斜め後ろに座った。楽しそうな顔をする花散里を見て、光源氏は突拍子もないことを言う。
「今日はここにいてもいいかい」
花散里は、驚いた顔で見つめる。
「…ええ、それなら泊まって行ってください。でも寝床は別ね、私たちそんな若くないですもの」
目を閉じて逆の方に歩いていきながら、そう答える。
光源氏は、彼女の多くを望まず、何事も控えめな彼女の余裕に惹かれ、また癒されていたのであった。




