6. 蛍火
「母のせいなのでしょうか」
明くる日の夕方、玉鬘は付きの藤大納言にそう吐露した。
藤大納言は主が目の前で困っていることを理解しながらも、さらに上の主に従わざるを得ない自分が嫌になっていた。彼女は「いえ」と小さい声で言う。
「…申し訳ありません」
藤大納言は、一人申し訳なさそうに頭を下げて、去っていく。
玉鬘は西の対の昼御座に一人残されると、今日訪れると聞いた光源氏を待っていた。
光源氏は、素直な気持ちを伝えた後の今となっては、これ以上はいけないと自身を戒めていた。しかし、つい暇があれば夏の御殿に通い、口説く日々を続けた。
そんな中、相変わらず熱心に恋文を送ってきていた殿方がいた。
光源氏の異母弟・蛍宮である。
一計を案じた光源氏は、蛍宮に向けて玉鬘に色良い返事を書かせたのであった。
「玉鬘殿の元に案内して欲しい」
数日後。六条院に、期待を募らせた蛍宮が現れた。
夏の御殿の案内を担当していた若苗と鴇は、突然訪れた貴公子に驚愕した。
「本人のご招待ですか?」
「ああ、やっと良い返事が返ってきてね」
対応には慣れた鴇がそう聞くと、蛍宮は嬉しそうに答えた。
蛍宮は文を差し出し、御殿に入ると、案内に従って西の対まで辿り着く。
案内の引き継ぎの藤大納言が几帳を開け、玉鬘がいる御簾の向こう側に座らせた。
話をしていくうちに、玉鬘のゆかしい雰囲気やその落ち着いた花の匂いから、蛍宮は彼女を、品に溢れこの上ない女性だと感じるようになっていく。
そこへ、突然まばゆい光が襲う。
部屋に潜んでいた光源氏が、袋に溜めていた蛍を一気に解き放ったのだ。
戸惑う二人だったが、蛍宮はその騒ぎの中で、彼女の横顔を目にしていた。
蛍宮はますます彼女に夢中になってしまった。
対面が終わった後も、蛍宮は彼女の美しさの余韻に浸っていた。
「源氏様、どういう思惑だったのですか」
「さあ」
蛍宮が去った後、楽しそうにする光源氏に、鴇はそう話しかけた。
光源氏は掴みどころのない表情を浮かべれば、軽く受け流して去っていった。
玉鬘は光源氏の、恋人のような素振りをしながらも、蛍宮の恋を手伝うような行動に困惑するばかりであった。
対する光源氏は、恋心と兄弟愛に挟まれ、苦難を感じていたのだった。




