5. 恋文
船からの美しい音楽が鳴り止まない夜が明けた。
六条院の宴に集まっていた公卿の実の目当ては、玉鬘であった。
光源氏が最近招き入れた秘蔵の娘とあらば、さぞ美しいのではないかと狙っていたのだ。
光源氏の異母弟である蛍宮は、三年前に妻を亡くし、噂を聞いた頃から玉鬘を射止めようとしていた。彼に加え、髭黒の右大将や、光源氏の旧友の息子・柏木までもが、異母姉兄であることも知らずに、夕霧を通して玉鬘に想いを寄せていた。
「たくさん届いていますね、全て読まれないのですか?」
夏の御殿・西の対に住む玉鬘の元には、大量の恋文(ラブレター)が届いていた。
玉鬘専属の一級女房・藤大納言は、山のように積み上げられた文の仕分けをする主に話しかける。すると玉鬘は困ったような顔をして言う。
「返したいのですが、でも…」
「でも?」
「…経験がなくて、どう返していいか〜!」
「大丈夫だよ、数人でいいから返したほうがいい」
そこには光源氏も訪れていた。
そして、自分の思い通りになったと誇った気持ちで微笑む。
二人がどうしようかと悩んでいるなか、光源氏は一人で考え込んでいた。
玉鬘は実の父・頭中将に事情が伝わってほしいと願ってほしいと思っている。だがしかし、光源氏には今の常態の玉鬘を頭中将に会わせるつもりはなかった。
身分のしっかりした者と結婚し、立場を安定させてから会わせるつもりだった。
そのため、光源氏の中でも彼女に見合う相手を考えていた。
蛍の宮は浮いた話も聞くから苦労しそうだし、髭黒には長く連れ添った嫉妬深い正妻がいると聞く。
光源氏は玉鬘に心惹かれていた。
父としてこれからを考えながらも、美しい彼女に心の隅で惚れていた。
しばらくすると、藤大納言は一礼して去って行った。
「玉鬘、今夜は泊まっていっていいかい?」
「…ええ」
光源氏は玉鬘にその想いを吐露していた。しかし、当然だが玉鬘はよく思っていない。
「親子の愛情にもう一つの愛情が加わるだけ」といつも光源氏は言う。
玉鬘は光源氏が見えないように顔を隠しながら一粒涙を溢した。
光源氏の口説きに、彼女は「気分がすぐれない」とだけ返す。しかし、これ以上アプローチが増長していくようなら、逃げ場はもうない。
彼女は人知れず不安を顔に映すのであった。




