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4. 胡蝶

新年の行事が終わり、仕事三昧の怒涛の二か月が終わった。


弥生も終盤に差し掛かった頃、花が咲き乱れる春の御殿で、光源氏は屋敷の奥にいては折角の春を堪能できないだろうと言うことで、「船楽(ふながく)」を催すことに決める。

船の上で音楽などを奏でたり、その音色を慈しむ行事だ。


春の御殿で続々と準備が進められる中、ちょうど秋の御殿の主・秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)が里帰りしてきていた。


せっかくなので誘おうと考えていた源氏であったが、彼女は重い身分ゆえ易々と移動できる身ではなかった。

そのため、やむを得ず秋の御殿の女房たちを催しに誘うことになった。



秋の御殿の女房たちは、朝早く、誘っている公卿や親王などがまだ来ないうちに春の御殿に訪れた。

「噂通り素晴らしい庭ですね」

感動から息をのむ彼女らの中に、一人群を抜いて美しいものがあった。

彼女は女房の間を縫って前へ出てくると、指揮をとっていた女房の元へ近づいていく。


指揮をとっていた女房は彼女に気づくと、嬉しそうな顔をすればすぐ頭を下げる。

「お久しぶりです、準備は順調?」

「ええ、皆さんに楽しんでいただけるよう全力で進めていますよ」


彼女たちは、この六条院で三人しかいないエリート中のエリート女房・特級女房である。

春の御殿・特級女房(花)「大和内侍(やまとのないし)

紫の上の異母妹であり、かつては後宮勤務だったが、同じ境遇に生まれたものの悠然と生きる紫の上の噂に惹かれ、出仕し始めた。


秋の御殿・特級女房(月)「玉緒御前(たまおごぜん)

桐壺帝の第五皇子の娘。秋好が入内した時から側近として活躍し、六条院の秋の御殿の留守を任されている。



「おお、玉緒ではないか。久しいな」

光源氏が奥から歩いてきて、玉緒の肩に手を置き、目線を合わせながら微笑む。

彼にそこまでされれば、頬が紅潮するくらいが普通なのだが、玉緒は他とはまた違う。近くにいた秋の女房たちが歓声を上げる中、光源氏の手を小さく振り払っては、振り返って跪く。


「お久しぶりで御座います」

「ああ、皆も元気そうで良かった。そうだ、暇だったら…」

すぐ口説こうとする光源氏を大和が制す。

大和は紫の上の側近のため、紫の上の御法度への理解度が高いのだ。



そして、ついに船楽が始まった。

船の上の奏者は、波に揺られながらも美しい音色を奏で、夜が明けるまで宴は続いた。

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